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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第四章・ジャングル/ジャランダーラ/怪しい学者
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オアシスの町

 俺たちのこれからのルート。

 オアシスの町で補給、砂漠にある大森林を抜け、その先にあるレッドルビー王国を目指す。

 というわけで、最初の補給地であるオアシスの町に来たのだが……。


「……なんか死にかけだな」

「どういうことだ……」


 オアシスがなかった。

 水気のまるでない町だ。人はカラッカラに乾いてやせ細り、町の温度は四十度を超え、煉瓦造りの家の壁に人がもたれ掛かったり、幽鬼みたいにフラフラ歩いている。

 なんというか……活気がなかった。

 そう言えば先生が書いた絵本に『ゾンビの王国』ってのがあったけど、それで見た挿絵もこんな感じだった。懐かしい……。


「ねぇ、あそこ……オアシスのあった場所よ」

「ん……あれか? ただの砂場じゃん」


 荷台の上からカグヤが指差した場所は、町の中心部だ。

 レイチェルが深刻そうな顔で言う。


「この町はレッドルビー王国領でも最大規模のオアシスがある町だ。大オアシスを囲むように家屋が並んでいたはずだが……これはいったい」


 なるほど。町の真ん中がポッコリ空いてるのはオアシスがあったからか。よく見ると円形の柵で覆われている……今じゃただの砂場だけど。

 ま、これを見れば一目瞭然だけど俺は言う。


「なんかあったみたいだな」

「馬鹿者。見ればわかる……おい、念のため用心しておけ」

「なんで?」

「見ればわかると言ったろう。オアシスが枯れている、つまりこの町には水分がない。なら、住人たちが狙うのは……」


 こ、レイチェルがここまで言った時にはもう動く。

 俺とカグヤはラーキュダを守るように立ち、構えた。


「み、水ぅ~……」

「水を、水をよこせぇ~……」

「あ、ああ……乾く、乾くぅ」


 うわぁ……先生の絵本で見たゾンビそっくり。

 ラーキュダや俺たちを見た住人が、カラカラに乾いた手を伸ばした。

 数は三人、ゾンビみたいなおっさんたちだ。


「キモいわね……ちょっと、蹴り殺されたくなかったら下がりなさい」

「おい待てよ。せっかくだし話を聞いてみようぜ」


 俺は構えを解いた。

 何故なら、こんな半死半生の人間に負けるわけない。ちょっと小突いただけで死ぬだろうしな。

 カグヤもため息を吐きつつも構えを解いた。


「レイチェル、水あるか?」

「……もうない。瓶三本程度だ」

「そっか。仕方ないな……なぁおっちゃん、なんでオアシスが消えたんだ?」


 俺はゾンビみたいなおっさんに聞く。

 ゾンビのおっさんたちは俯き、歯を食いしばる。そして一人が言った。


「砂嵐だ……砂嵐が起きて、オアシスが全て埋まっちまったんだ……」

「砂嵐?」


 レイチェルに聞くが無視。口元に手を当て、質問を返した。


「砂嵐だと? これほど大規模なオアシスが砂に埋まるほどの砂嵐があれば町もタダでは済むはずがない。それに、この大オアシスはレッドルビー王国でも重要な町のはず。王国に報告なりすれば軍が派遣されるはずだ。水の支援、オアシスの復旧が始まるはず」


 レイチェルの指摘に、おっさんはキレた。


「したさ!! レッドルビー王国に報告、水の支援とオアシスの復旧採掘の依頼を出した!! でも……なんの返事もない。来たのは『聖天使教会』への依頼書と馬鹿みたいな金額の提示だけだ!! くそ……金を払って天使に縋るしかないのかよ」

「払わないの? このままじゃみんな死んじゃうじゃん」

「馬鹿を言うな……一度でも天使に『救済』の依頼をすれば、町が存在する限り『供物』を要求される……天使の救済は避けたい」


 おっさんたちは顔を押さえる。

 生きるか死ぬかなのに、そんなに天使がいやなのか。


「救済って……」

「アンタ、そんなことも知らないの? 天使はこの世界の管理者。人々を見守り時には手を貸す至上の存在。その力を借りるのに対価が必要なのよ。もちろん、奇跡の代償はとんでもない値段だけどね」

「おぉ、一番バカっぽそうなお前から答えが来るとは」

「どーいう意味よ!!」


 なるほど。ようは大金をずっと支払えってことかい。

 天使のくせに金が必要なのかね……どうでもいいけど、聖天使教会ってなんなんだ? 

 俺はレイチェルに聞く。

 

「でもさ、天使ならオアシスをなんとかできるのか?」

「恐らく……人間が使う規模の魔法ではどうにもならんが、天使の『聖魔術』なら可能だろう」

「せいまじゅつ……確かに」

「アンタ、知ったかぶりはやめなさい」

「う、うっさいわ!!」


 でも、ちょびーっと気になることがあった。

 

「なぁ、これってさ……オアシスが砂に埋まってる状態なんだよな?」


 おっさんの一人に聞くと、怪訝な表情をしつつも頷く。


「あ、ああ……オアシス自体に問題はない。膨大な砂に埋まっているだけだ」

「なら、砂を取り除けばいいだけか?」

「そうだ。でも……その手段が人間にはない。天使に頼むか、この町を捨てるか……」

「んー……なんとかなるかも」

「「「「「え?」」」」」


 ゾンビみたいなおっさん、レイチェル、カグヤが俺を見た。

 なんとなくだけど、いける気がする。

 それに、オアシスがないと困る。


「ニーアもだいぶ疲れてるし、ゆっくり休ませてやりたいからな。おっさん、ここは俺に任せてくれよ」

「ど、どういうことだ? きみ……なんとかできるのか?」

「たぶん。町のお偉いさんに伝えてよ、オアシスをなんとかするって」

「だ、だが……我々にはきみに支払う対価が」

「そんなんいいよ。あ、じゃあ、オアシスが復活したらニーアをゆっくり休ませてくれよ」

「……わかった。我々は天使に縋るか全て捨てるかの2つしかない。きみに任せよう」

「ん、ありがと」


 おっさんたちは町長とかいう人に報告しに行った。

 すると、荷台で寝ていたニーアがシラヌイと一緒に降りてきた。


「くぁぁ~……んん、あれれ? なにかあったんですかぁ?」

「おう、オアシスが枯れててな、これから復活させる」

「……………………えっと」

『わんわんっ』

「坊ちゃまきゃわたん! 坊ちゃま、詳しい話をしますのでこちらへ。おい貴様、本当になんとかできるのだろうな」

「たぶん」

「……まぁ、貴様のことだ、なんとかするのだろうな」


 そう言って、レイチェルはニーアを日陰に。

 カグヤは俺の肩をパシッと叩く。


「アンタ、なんかするつもりみたいだけど……なんか手伝おうか?」

「ん、別に平気だ。さーて、さっそくやるか」

「ならお手並み拝見……」


 よーし、オアシス復旧といきますか!


 ◇◇◇◇◇◇


 俺は大オアシスの中心まで歩いてきた。

 見事なまでの砂丘だ。ここにオアシスがあるなんて初見じゃ誰もわからんだろうな。


「でも、この下には水がある……レイチェルが言ってたな、水脈はあるはずだって」


 この砂地のずーっと下には、水が大量に流れているらしい。

 その水が地上に流れ出て溜まったのがオアシスって話だ。

 俺は右手に『火乃加具土命』を装備し、足下の砂地に向かって構える。


「第一地獄炎、『神炎火閃槍(しんえんかせんそう)』」


 足下の砂地に右手を突き刺し、一直線に伸びる炎の槍を放つ。

 周囲の砂を焼いて硬めながら炎は進み……ん、きたきた。


「よし、水だ……」


 炎を止め、腕を砂地から抜くと穴から水がゴポゴポあふれ出した。

 水は間違いなくある。


「おぉ~やるじゃん」

「って、なんでいるんだよ……危ないぞ」

「いいじゃん別に。ほら、人ならいっぱいいるわよ」

「え……あ、ほんとだ」


 いつの間にか、大オアシスを囲むように人が集まっていた……あ、住人か。

 カグヤは俺の様子を見に来たらしい


「で、どうすんのよ。水は出たけどそれっぽちじゃどうしようもないわよ」

「知ってる。でも、水が出ればこっちのモンだ」

「?」


 右手の『火乃加具土命』を消し、左足に第二地獄炎の魔神器『フリズスキャルヴ・カテナ』を装備する。これを初めて見たカグヤは驚いていた。


「なにそれ!?」

「危ねーぞ。いいか、この水は大元に繋がってる。この水を凍らせれば大元も凍る……一度でも蒼い炎で水を燃やせば、俺はその水と氷に干渉できる」

「???」

「ふっふっふ……」


 俺はゴポゴポと溢れる水を左足で踏み、蒼い炎を噴射した。


「第二地獄炎、『ブルー・エクスプロージョン』!!」


 足下の水が凍る。

 湧き出た水が凍り付き、流れの一部も凍り、大元も少しずつ凍る。

 大オアシスが凍り付く。炎の感覚でわかる……この辺り一帯、俺の炎で水が凍った。

 

「ねー、なにしてん「今だ!! ばく・はぁつ!!」


 俺の命令と同時に、オアシス全体の砂地から氷柱が飛び出し、凍り付いていない水が氷の勢いと一緒に噴き出し、大量の砂がそのまま下に落ちていった。

 俺とカグヤは氷柱の上に乗り、大量の水が大オアシス全体から爆発するように噴き出した。おかげで、住人と町が大雨に見舞われたようになり、この場にいる全員がずぶ濡れ……そして、大歓声が巻き起こった。


「し、し、死ぬほどビビった……あ、アンタ!! やるならやるって言いなさいよ!!」

「危ねーって言ったじゃん。それより視ろよ、大オアシスに水が溜まっていく」

「あ……ホントだ」

「ま、もう大丈夫だろ」

「大量の砂も陥没した地面に落ちたみたい……でもさ」

「あ?」


 カグヤは、氷柱をコンコン叩く。


「この氷柱、どーすんの?」

「…………ま、そのうち溶けるだろ」


 その後、この氷は溶けることなく、大オアシスのシンボルとなることを俺は知らない。

 砂漠にできたオアシスの氷柱はオアシスの水を冷やし、旅人や住人から大いに喜ばれるという。

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脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
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