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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第四章・ジャングル/ジャランダーラ/怪しい学者
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カグヤのお話

「白いわんこ、可愛いねぇ~」

『きゅぅぅん』


 カグヤは、荷台の屋根の上でシラヌイを抱っこしていた。

 カグヤを仲間に入れてラキューダが走ること数時間。荷台の屋根という俺の休憩所は奪われ、俺はひたすら走って砂漠を進む。

 ニーアは暑さでグロッキー、レイチェルも汗を流しながら手綱を握り、ぬるくなった水を飲んでいた。

 ラキューダは順調に進んでいる。俺は走りながら聞いた。


「なぁレイチェル、次の町はまだか?」

「あと二日もあれば到着する」

「じゃあ今日も野営か……はぁ、どっかに砂豚潜んでねーかな」

「砂豚! アタシ、砂豚の肉大好き!」


 カグヤがガバッと屋根から身を乗り出す。

 レイチェルはうっとうしそうに言う。


「そう簡単に出てたまるか。砂豚の討伐レートはB、一級~上級冒険者でないと対処できない魔獣だぞ」

「俺、余裕だったけど」

「アタシも、二十匹くらいに囲まれたことあるけど返り討ちにしたわ」

「…………」

 

 カグヤはうつ伏せになり足をパタパタさせる。

 俺はカグヤに言った。


「おい、そろそろお前が走れよ」

「やーよ。汗かくもん」

「こんだけ暑いなら汗かくだろ……ったく、汗かいたら着替えりゃいい話だろうが」

「アホねぇ。水資源の少ない砂漠を横断するのに着替えは必需品よ。無駄な汗は流さないにかぎるわ」

「じゃあ俺も座らせろよ……別に一緒に座るくらいいいじゃん」

「嫌」

「…………」

 

 こ、この野郎……。

 プイっとそっぽ向くとシラヌイに構い始め、俺のことはもう無視だ。

 レイチェルは水を飲み、手ぬぐいで汗をぬぐう。


「暑いな……おい、坊ちゃまの様子を確認しろ」

「おう」


 俺は荷台の側面に飛びつき、窓から中にいるニーアを見た。

 手ぬぐいで汗をぬぐい、ハァハァと息を荒くしている。


「おい、大丈夫か?」

「あ、フレアさん……あ、あちゅいですぅ」

「砂漠だしなぁ……すっげぇ汗だぞ」

「えへへ……手ぬぐい、びちゃびちゃです」

「こりゃ痩せる…………あ、いいこと考えた。ニーア、手ぬぐい貸せ」

「は、はい」


 ニーアが差し出した手ぬぐいを受け取る。

 確かに汗で濡れて重い。でも、これなら……。


「第二地獄炎……よし、これなら」

「わぁぁっ!」


 手ぬぐいが蒼い炎に包まれ、汗が凍り付いてカチカチに固まった。

 水分を凍らせる炎だ。しかもキンキンに冷えている。これならどうだ?


「ほれ、どうぞ」

「わぁ……ひんやりして気持ちいいですぅ!」

「よかった。溶けたらまた凍らせるから言えよ」

「はい! ありがとうございます!」


 とりあえず、暑さ対策にはなるだろう。

 俺はレイチェルの隣に座る。


「おい、私の隣に座るな」

「はいはい。それよりちょっと貸してみろ」

「な、なんだ貴様!」


 レイチェルの汗だく手ぬぐいを奪い、新しく開けた水の瓶に巻く。そして手ぬぐいを蒼い炎で凍らせてみた……うん、これなら水も冷えるだろう。


「ほれ、飲むなら冷たいのがいいだろ」

「…………」

「ニーアの手ぬぐいも凍らせたから安心しろ。手綱を握るお前が倒れたら困るからな」

「…………」

「な、なんだよ」

「いや……その、礼を言う」

「おう」


 レイチェルは冷えた水を飲むと、少し元気が出たようだ。

 ついでに荷台の屋根を見ると……。


「くかー……」

『きゅぅ……』


 カグヤとシラヌイは、この炎天下の中で仲良く昼寝していた。


 ◇◇◇◇◇◇


 結局、砂豚は現れなかった。

 適当な岩場で野営をして、乾燥させた肉と野菜のスープを夕食にした。

 カグヤはブーブー文句を言っていたが、ないモノは仕方ない。


「砂ぶたぁ~」

「仕方ねーだろ。あるモンで我慢しろよ」


 スープを啜りながらカグヤに言う。

 ったく、ニーアを見習えよ。美味そうにスープを啜ってるし、乾燥肉を齧るシラヌイを撫でている。

 レイチェルはどうでもいいのか、スープを完食するとニーアの寝床の支度を始める。

 ニーアは食器を砂で洗い、俺とカグヤは周囲の偵察に出た。一応、カグヤもニーアの護衛という扱いで同行しているからな。これくらいはさせる。


「ではお前たち、後は任せるぞ」

「おう」

「ちょ、あんた寝るの? アタシは」

「俺とお前は交代で夜警だ。こういうのは護衛の仕事」

「はぁ!? じゃああいつは!?」

「レイチェルは護衛じゃなくて世話係……だっけ? だからいいの」

「一緒に寝るのが世話係の仕事!? あいつぜ~~~~ったいニーアに変なことするわよ!!」

「…………まぁ確かに。でもいいんだよ」


 カグヤ、うるっせぇな……レイチェルが夜警をしないのが気に入らないようだ。

 レイチェルは勝ち誇ったように言う。


「では坊ちゃま、私と熱い夜を過ごしましょうねぇ~♪」

「うぅ……一人で寝れるのにぃ」

「シラヌイ、ニーアがヤバくなったらレイチェルを燃やせ」

『わんわんっ!!』

「ぐ……この白犬め」


 ニーアとレイチェルとシラヌイはテントへ。ラキューダはすでにグースカ寝ていた。

 さて、残されたのは俺とカグヤ。


「じゃ、夜警するか」

「アンタと一緒かぁ……なんか嫌」

「やかましい」


 ったく、めんどくせぇ女だな……。


 ◇◇◇◇◇◇

 

「…………」

「ねぇ、なんか面白い話ない?」

「んー?」

「面白い話。アンタの話でもいいよ」


 カグヤは、なぜか俺の隣に座っていた。

 女らしくない胡坐で座り、俺の腕を肘でつつく……めんどくせぇな。

 ま、旅をする仲間だし……俺の事情でも話しておくか。


「────マジ? 千年前って……あ!! 思い出した、呪術師って天使に喧嘩売って滅んだ種族!!」

「その辺のことよくわからんけど……ま、俺は呪術師だ」

「格闘技使う呪術師ねぇ」

「ま、武器術とか魔術もあったけど、俺は徒手空拳を習った。甲種の三級認定しか受けてないけどな」

「ふーん。ってか、触れただけで呪われるってズルい! アンタに殴られたら呪われるってことでしょ?」

「まぁな。お前も身をもって知ったろ? どんなに強くても内臓は鍛えられない」

「……おっそろしいわね」


 カグヤは嫌そうに顔を歪める。


「それにしても……天使を倒したってマジ? アタシでさえ天使に喧嘩売ったことないのに」

「事実だ。天使は強いけど、内臓は一般人と同じだな」

「うっわ……」


 手をワキワキさせると、カグヤはそれだけで理解したようだ。

 

「階梯天使に十二使徒かぁ……すっごく強いんだろうなぁ」

「十二使徒はけっこう強いけど、階梯天使ならお前でも倒せるんじゃねーの?」

「そう? 階梯天使なんてよっぽどのことがないと現れないから」

「ふーん」


 この辺、よくわからん。

 まぁどうでもいいや。喧嘩売られたら買う、そうでない限りは俺から接触する気はない。

 

「ま、俺はこんなもんだ。お前は?」

「アタシ?」

「ああ。足技とか能力とか、すっげぇよな」

「ふふーん。まぁ、同期の中でアタシに勝てる奴はいないわね。神風流の皆伝、そして『銀狼』を名乗ることが許されたから」

「銀狼……?」

「うん。アタシ、孤児なんだけどね、神風流のアタシの師匠が、アタシの髪を気に入って弟子にしてくれたの。カグヤって名前も付けてくれた」


 そう言って、カグヤは空……月へと指さす。


「月の国のおとぎ話に、カグヤヒメってのが出てくるの。銀色の美しい月に住む王妃の名前がカグヤ、お前の髪は月のように美しいって……だからカグヤ」

「へぇ……」


 カグヤは嬉しそうにほほ笑んだ。


「神風流の皆伝を受けて、銀狼を名乗ることを許されて……師匠は死んだわ」

「死んだ?」

「うん。殺された」

「え」


 な、なんか重い話になってきた。


「犯人はわかってる。でも……今のアタシじゃ届かない。だから強い奴を片っ端から倒して強くなる」

「お前、だから盗賊だの冒険者だの喧嘩売ってたのか」

「うん。レッドルビー王国にはもうアタシを満足させることはできない、そう思ってたときに現れたのがアンタ……これ、運命じゃない?」

「そうか?」

「そうよ。まぁそういうことで、アンタに付いていけば天使とも戦えるってわけね」

「いや、知らん」

「じゃ、アタシ寝るから。おやすみー」


 すっごい終わらせ方だなおい。いきなり話終わったぞ。

 カグヤはテントの中へ消え……ちょいまて、夜警。


「…………まぁ、いっか」


 結局、カグヤは朝まで起きなかった……俺一人で夜警かい。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
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