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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第三章・神風の銀狼カグヤ

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BOSS・神風流皆伝七代目『銀狼』カグヤ①

 先手必勝。

 互いにそう思ったのか、俺とカグヤは砂の足場が爆発する勢いで突進。俺は右の正拳、カグヤは右足の前蹴りをほぼ同じタイミングで放つ。

 

「っぐ……!!」

「腕と足、どっちが筋力あるかわかるよね」


 カグヤは、俺の右拳に足の裏を合わせてきた。

 確かにこいつの言うとおり、腕と足では筋量がまるで違う。俺の腕が見事に押し返される。

 しかもこいつ、拳と足の衝突する力を足場にして空中で体勢を変えやがった。


「神風流、『凪討ち』」

「うっぐぁ!?」


 左足の横蹴り。信じられない体勢からの一撃なのに、俺の側頭部を正確に狙ってきた。

 俺はなんとか左腕で受けるが、崩れた体勢での防御は衝撃を完全に吸収できない。頭が少し揺らされた。

 カグヤはすでに両足が地面に付いている。信じられない攻撃速度、そして技の柔軟性だった。


「神風流、『三雷羽(さんらいう)』」

「こ、甲の型、『鉄剛(てっこう)』!!」


 爪先を使った三連続の突き。狙いは喉、心臓、股間。

 俺は半身になり、全身に力を込めて自らを呪う……呪いは『硬くなれ(カタタク)』という呪い。

 呪いは、口内炎とか下痢とか頭痛だけじゃない。肉体を強化する呪いだってある。


「ん────?」

「甲の型、『牛進(ぎゅうしん)』!!」


 半身のまま、全身の硬化しての突撃。

 だが、カグヤはあっさりと回避。まるで舞うように宙へ。そのまま回転して着地。

 俺は身体の向きを変え、もう一度甲の型で構えた。

 カグヤは長い銀髪を手でかき上げて笑う。

 俺も首をコキっと鳴らして笑った。


「あんた、やっぱ強い……並大抵の奴なら最初の前蹴りで内臓破裂だよ。拳で受けるなんて今までいなかった」

「お前もな。体捌きが人間技じゃねぇ……何手先まで考えてんだよ」

「別に考えてないよ。なーんとなく、その場に合った技を出してるだけ。あんたが出し惜しみしてるのもわかるけど、これって真剣勝負じゃないの?」

「真剣勝負だからこそ使えないんだよ。お前だって本気じゃないじゃん」

「アタシも、使えば終わっちゃうからね。アンタみたいな強い奴久しぶりだから、長く楽しみたいって気持ちもあんのよ」

「は、なんじゃそりゃ……でも、長く楽しむってのはわかる」

「お、わかってるじゃん。アタシたち気が合うかもね」


 カグヤはニッコリ笑う。

 俺も笑う。なんとなくだけど、こいつは嫌いじゃない。

 俺もカグヤもまだ本気じゃない。でも、互いにわかっている。お互いの格闘術だけでは勝負が付かないということが。

 でも、どうしよう。そう思った瞬間、妙な気配を感じた。


「────ん?」

「……気付いた?」

「……ああ。なんか来てるな」


 カグヤも何か感じたのか、注意を俺ではないどこかへ向けた。

 

「なんだろう、でっかいな……」

「うん……しかも、けっこう速いね」

「ま、どうでもいい」

「そうだね」


 何かが、来る。

 でも……俺とカグヤの勝負の邪魔はさせない。

 何かが来る。場所は……砂中!!


 ◇◇◇◇◇◇


 フレアとカグヤの戦いから少し離れた場所に、この辺りでは最大規模の盗賊団がいた。

 数は二百人。全員が砂漠用の武装で身を固め、鎧を着せたラキューダが引く荷台はスパイクや大砲がいくつも取りつけられていた。

 その中で、ひと際大きな荷台に乗る魔獣の骨でできた鎧を着る大男がいる。

 大男は、この盗賊団の首領だった。


「お頭!! この辺りが『銀狼』の狩場でさぁ!!」

「おう。小生意気なクソ餓鬼め……可愛い傘下の盗賊団たちを潰した礼はたっぷりしてやるけぇ!!」


 カグヤに潰されたいくつもの盗賊団は、この盗賊団の傘下だった。

 首領は、いくつもの盗賊団が潰されたことに心を痛め、ついに全軍を率いてカグヤの討伐に出向いたのだ。もちろん、カグヤが一人だとか十六歳の少女だとかは関係ない。

 鎧ラキューダを引く部下の御者は言った。


「お頭ぁ!! この辺りは……」

「知っちょる!! いいから行けやボケ!! ワシらの進軍を妨げる奴らはハチの巣じゃぁぁっ!!」

「お、おいぃぃっす!!」


 首領は銃をバンバン撃ち、周囲の盗賊たちを鼓舞する。

 情報では、カグヤはこの辺りの砂漠で盗賊や冒険者を狩っている。これほどの集団で走れば嫌でも気付き、向かってくる。

 今までのパターンから、数が多いからとカグヤが逃げることはない。


「ぎゃーっはっはっはぁ!! 待ってろ小娘ぇぇ……ワシらを怒らせたこと後悔させちゃる!!」

「「「「「オォォォォォォォッ!!!!!」」」」」


 そして、遥か前方に小さな荷台とラキューダを発見……望遠鏡で見ていた部下が叫ぶ。


「お頭、発見しやしたぁぁ!! 妙な連中もいますが……」

「構わねぇ!! 全員ひっ捕らえて拷問パーチーじゃぁぁぁっ!!」

「「「「「うおぉぉぉぉぉっ!!!!!」」」」」


 盗賊たちは、一斉に銃を抜く。

 百頭以上のラキューダが走る地鳴りが響く……が。


「……お、お頭。ちょいと」

「ぎゃーっはっはっはぁ!! あ? なんだ」

「い、いえ、なんかおかしいっす……地鳴り、地鳴りが」

「あぁん?……」

 

 地鳴りが、地震になった。

 ドドドドドドドドド、ではなく、ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!……と、ラキューダの足音では説明できない揺れになったのである。

 その原因は、遠い位置にいた盗賊団たちにはすぐわかった。

 盗賊団の進軍が止まり、フレアたちのいる位置の砂が盛り上がっていく瞬間をバッチリ見た。


「あ、ありゃ……まま、まさか」


 首領はびっしょりと冷たい汗をかく。暑さではない恐怖からくる汗だ。

 このレッドルビー王国に住む者ならだれもが知っている。

 砂の王とも呼ばれた、伝説の大魔獣。




「ででで、でで……『砂漠龍王(デザート・ドラゴン)』……っ」




 ◇◇◇◇◇◇


 それは、どんでもないデカさだった。

 巨大な砂色の……なんだ? デカい首長のガチガチした硬そうな奴だ。

 

「なんだこいつ?」


 首を傾げる俺。

 大きさは、ブルーサファイア王国の大型船くらいかな?

 ラキューダが怯えてしゃがみ込み、ニーアは盛大に漏らし、レイチェルもガタガタ震えていた。


「あ、あわわわわ……」

「まま、まさか……で、『砂漠龍王(デザート・ドラゴン)』!? ささ、砂漠の伝説が、なぜ」

「なぁ、知り合いか?」

「ばばば、馬鹿を言うな……さ、砂漠最強の魔獣だ!! かか、勝つとか負けるとかの次元じゃない、かつて砂漠の町や国をいくつも滅ぼした、SSレートの魔獣だ!!」

「SS……すっげぇな」


 俺は大型船のような首長ドラゴンを眺める。

 そして、気が付いた。


「おっもしろそうじゃん!! でもアタシ、勝負の横入りってマジムカつくのよね」

「お、奇遇じゃん。俺も俺も」

「デザートドラゴンだかなんだか知らないけど……」

「ああ、ご退場願おうか」


 俺は全身から炎を噴出する。


「第一地獄炎、『大炎上灼熱陣』」

「おぉ!? それがあんたの本気?」

「おう。俺、炎を操れるんだ」


 メラメラと炎が爆発的に燃え上がる。

 すると、カグヤも笑う。


「あははっ!! じゃ、アタシも見せてあげる。トドメは譲ってくれる?」

「いいぞ。じゃあ……やるか」

「うん!!」


 カグヤは跳躍……って、普通にジャンプしただけなのに首長ドラゴンよりも高い!!

 なるほど、そういうことか。

 俺は炎を巨大な球形にして、デザートドラゴンに向けて投げつけた。


「第一地獄炎、『神炎太陽』!!」


 巨大な炎がデザートドラゴンを直撃。全身が一気に燃え上がる。


『グォォォォォォォーーーーーーンンンッ!?』


 デザートドラゴンが燃え、叫ぶ。

 そして、遥か上空にいたカグヤの右足が……まるで鉄のように輝いた。


「裏神風流、『鉄空芯』!!」


 とんでもない勢いで落下したカグヤの足は、デザートドラゴンの頭を貫通。落下の衝撃で地面に大きな陥没痕ができた。

 なるほど、これがカグヤの『能力』……。


「さ、続きやるよ!!」

「おう!!」


 デザートドラゴンは即死。死体はメラメラ燃え、骨も残らなかった。


 ◇◇◇◇◇◇


「……………………」

「お、お頭ぁ?」

「…………か、帰るぞ」


 一部始終を見ていた首領は、汗をダラダラ流しながら言った。

 炎を操る少年とカグヤが、SSレートの魔獣を瞬殺……。


「お、お頭?」

「帰るっつってんじゃ!! 引くぞ!!」


 盗賊団は、何もすることなく引いていった……。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
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