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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第三章・神風の銀狼カグヤ

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カグヤ

「あ、俺戻らないとやばいな」

「え?」

「俺、護衛なんだよ。ニーアの傍から離れるとやばい」

「ニーア?」

「悪い。お前との戦いはまた今度。じゃーな」

「あ、ちょっと!!」


 銀髪女が着替えを始めている間、俺は気がついた。

 よく考えたら、こんなことしてる場合じゃない。ちょっと様子を見に来ただけなのに、もう五分以上経過している。怪しい気配は感じないけど、あまり空けるのはよくない。

 俺は自己強化の呪いで身体強化をして、オアシスから離れた。


「あんた、名前は────」


 銀髪女が何やら叫んでいたが、答えるのも面倒なので無視。

 ま、なんとなくだけど……また会えそうな気がする。 

 少し急ごうと、身体強化だけではなく足から炎を噴射、ほんの一分ほどで野営地に戻った。


「……よし、異状なし」


 周囲を警戒するが、怪しい気配はなし。

 テントの中も静かだし、ラキューダもフガフガ言いながら寝てる。

 俺は焚火の近くに座り、さっきの女のことを思う。


「…………うーん、なんか引っかかるな」


 銀髪の女。 

 それにしても、見事な足技だった。俺も足技は習ったけど、たぶんあの女のが数段上だ。

 炎を使えば勝てる。でも……武闘家として勝負してみたい。

 盗賊とか天使とか、クソみたいな連中なら容赦なく炎で焼ける。でも、あの女……ほんの少し触れあっただけでわかる。『武』に対して自信を持っている姿勢が。


「…………」


 うーむ。ムラっとする……なんか、無性に身体を動かしたい。


「よし、少しだけ」


 俺は立ち上がり、呪闘技の構えを取る。

 甲の型、流の型、滅の型……先生から教わった型で演武を行う。

 そして、考える。


「足技……流の型で流し、滅の型で一撃。それか流の型でカウンターを狙い……」


 ほんの少し対峙しただけだがわかる。

 たぶん、あの女……足技ならできないことはない。俺と同い年くらいなのに達人級の技を会得しているな。

 呪闘流の甲種三級の俺で勝てるか……はは、こんな気持ちになるのは久しぶりだ。


「待て、流の型で……いや、甲の……うーん」


 この日、俺は朝まで悩んでいた。


 ◇◇◇◇◇◇


「ふぁぁ……」

「フレアさん、夜遅くまでありがとうございます」

「ん、あぁ……いいってことよ」


 町で買った干し肉と野菜のスープを飲みながらニーアが言う。

 結局、一睡もせずに型の反復をしてた。眠いけど朝食をしっかり食べる。

 ニーアは、心配そうに俺を見る。


「あの、大丈夫ですか? なんだか目がしょぼしょぼしてます」

「ちょい眠いだけだ。なぁレイチェル、少しだけ寝ていいか?」

「好きにしろ。ただし、貴様の寝床は荷台の屋根だぞ」

「べつにどこでもいいよ。じゃ、テントの片付けと出発準備は任せっから……」


 そう言って、俺は荷台の屋根に飛び乗って寝る。

 近くにオアシスがあるのになんでここで野営したとか、昨日の夜に銀髪の女と会ったこととか、話すことはあったが俺は寝た。

 途中、荷台が揺れて走り出す気配を感じたが俺は無視。そのまま太陽の光を浴びながらグーグー寝る。


「これだけ揺れても寝ているとは……全く、図太い奴だ」

「くかー……」

「あはは。ねぇレイチェル、町はまだ?」

「あと二日ほどの距離にオアシスの町があります。そこで再び装備を整え、オアシスジャングルを抜け、大砂漠を進むと『レッドルビー王国』が見えます。そうですね……目的地まで二週間ほどです」

「二週間かぁ……」

「坊ちゃま。私は坊ちゃまに付いていきますよ。これからもずっと」

「レイチェル……ありがとう!」

「きゃわぇぇなぁもう!!」


 なんかうるさいな……ああ、レイチェルが盛ってんのか。


「なぁ、そういえばさ……昨日の夜、すげぇ奴に会ったんだ」

「フレアさん!! 起きたんですね」

「おう」


 俺は屋根から顔を出す。ニーアは、荷台の正面小窓を開けてレイチェルと話していた。レイチェルは俺を見るなり嫌そうに顔をしかめる。


「すごい奴? おい貴様、賊が寄っていたなど聞いていないぞ」

「今言ったからな。それに賊じゃないぞ、すっごい強い女だった」

「すっごい強い女、ですか?」

「ああ。長い銀髪でさ、真っ白な肌で足技を使う奴だ。いきなり襲われたけどなんとか引き分けた。ガチで戦ったらどうなるかわからん」

「……銀髪だと?」


 レイチェルが訝しみ…………カッと目を見開いた。


「ま、待て貴様……確か、貴様が受けた依頼」

「あん?」

「特異種の討伐だ。マスル・マッスル氏から受けた依頼の特異種の特徴……確か、銀髪の少女じゃなかったか?」

「そうなのか?」

「依頼書を読め!!」


 そう言えば、マスル・マッスルから紙の束もらったっけ。面倒で荷物のどこかに突っ込んだままだ。

 ニーアが荷物をごそごそ漁り、押し込まれてボロボロになった依頼書を取り出した。


「えっと、とくい、しゅ……えっと、とく、ちょう、えーっと、ぎんいろの、おんな」

「どれ、貸してみろ」

「あぅぅ。まだうまく読めないですぅ」


 ニーアは、読み書きを習い始めたばかりだから仕方ない。

 ラキューダが止まった。どうやら俺が読んでいるから気を使ってくれたようだ……レイチェル、気が利くじゃん。


「えーっと、依頼内容は『五等冒険者カグヤの討伐』か。内容は、カグヤを殺すのではなく倒すのが目的、お灸を据えてやれ……お灸ってなんだ? で、カグヤの特徴は銀髪碧眼で十六歳……なんだ同い年じゃん。足技を得意とする特異種で、過去にSレートの魔獣を単独撃破したこともある。へぇ……Sレートってすごい」


 銀髪碧眼で足技が得意な女。こりゃ決まり……ん?


「おい、どうしたんだよ。黙って……」

「……おい、前を見ろ」

「ふ、フレアさん……あれ」

「あん?…………あ」


 ラキューダが止まったのは、俺が依頼書を読むためじゃなかった。

 ラキューダの正面に人が立っていた。


「あ」


 銀髪碧眼、足を覆うレガース、なぜか腕を組んで不敵な笑みを浮かべている。

 

「みーつけた……ふふん、アタシから逃れられると思ってんの? アンタ」

「あ、こいつだこいつ。昨日の素っ裸女」

「なぁ!? ばば、馬鹿なこと言うなこのアホ!!」

「バカなのかアホなのかどっちだよ」

「両方よこのアホ馬鹿!!」


 なんだこいつ。暑いのか知らんけど顔を赤くして地団駄踏んでる。

 レイチェルは俺に言った。


「いいか、戦うなら我々に被害が出ないようにやれ。坊ちゃまに危険が及ぶようなら、私は迷わず貴様を置いて逃げるからな」

「いいよ。っと」


 俺は屋根から飛び降り、女の前に。


「昨日は悪かったな。わざわざここまで来てくれたのか?」

「別に? ここから町へ向かうなら安全なルートを進むと思って張ってただけ。このクソ暑い中、まさか荷台で寝てるとは思わなかったけどね」

「そうかい。で、戦うのか?」

「当然。アンタだってその気でしょ? アタシ、強い奴を見ると戦いたくなんのよ……今は、アンタに夢中」

「そりゃどうも……ま、俺も依頼を受けた身だし、お前を倒さないとな」

「依頼?」

「ああ。マスル・マッスルがお前にお灸を据えろってさ」

「……あの筋肉野郎」


 俺は屈伸し、手をプラプラさせる。

 寝起きだし、身体はバッチリ動く。

 銀髪女も首を鳴らし、足をほぼ垂直に掲げた……すっげえ股間柔らかいな。


「じゃ、やろっか」

「おう」


 俺は甲の型、銀髪女は半身で足を前にして拳を構える。

 やっぱり、こいつは強い。だからこそ……楽しい。


「呪闘流甲種第三級呪術師ヴァルフレア」

「神風流皆伝七代目『銀狼』カグヤ」


 互いに名乗る。

 武闘家としての誇りを懸けて。

 チリチリした空気が俺たちの間に流れる……。


「ッ!!」

「ッ!!」


 俺とカグヤは砂地を蹴り────戦いが始まった。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
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