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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第三章・神風の銀狼カグヤ

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銀の女

「うん、めっぇぇぇぇ!! なんだこれ、砂豚めっちゃ美味ぇな!!」

「お、おいしいですぅ!!」

「確かに……シンプルに焼いて塩コショウを振っただけなのに」


 砂豚の襲撃から数時間。俺たちは砂漠の岩場を休憩所にして休んでいた。

 砂豚、なんとか一匹だけ残して倒した。倒すのは楽勝だったけど、殺さないように倒すのが大変だった……弱すぎてすぐに死んじゃうから、全滅させるとこだった。

 レイチェル曰く、『砂豚はBレート魔獣……下級冒険者じゃ手も足も出ないはずだが』なんて言ってたが、俺からすれば雑魚も雑魚。

 皮を剥ぎ、血抜きをして内臓を抜く、そして食べられる部分を斬って焼くだけ。それがこんなに美味いとは……ラキューダも喜んでガフガフ食べてるし、シラヌイなんておかわりしてた。


『きゃうぅぅん!!』

「はは、美味いってさ」

「そっか。よかったね」

『きゅぅぅん』


 シラヌイ、ニーアが気に入ったのか傍にいる。俺の命令を聞いて守っているんだろうけど、やっぱり頭がいいなこいつ。

 俺はシラヌイを軽く撫で、右手を反らして仕込み刃を出す。


「ニーア、おかわりは?」

「えっと、もうお腹いっぱいで……」

「じゃあ俺とレイチェルだけだな」

「待て、私は食べると言ってないぞ」

「いらないのか?」

「…………いる」


 俺は仕込み刃で肉を切り、荷物の中から鉄串を出して肉を刺す。そして焼く。

 ジュウジュウといい音がして、香ばしく脂の乗った香りが俺とレイチェルの鼻孔をくすぐる。


「「ゴクリ……」」


 おっと、レイチェルと俺の喉が鳴った。

 くふふ。世界にはまだまだ美味しいものがいっぱいある。この砂豚の肉もその一つ……あ、そうだ。世界中の美味しいものを食べまくる旅ってのもいいな。プリムとか『世界中の蛇が食べたいです!』とか言いそうだ……はは、面白い。


「おい、焦げてるぞ!!」

「あ、悪い」


 やばいやばい。ちょっと焦げてしまった。 

 だが、この焦げが美味いんだよ。肉の焦げはご馳走だって先生も言ってたしな。

 レイチェルに睨まれたが無視。焦げ肉を渡して齧る……うん、やっぱ美味い。


「む……」

「焦げも美味いだろ?」

「……まぁな」


 俺とレイチェルは肉を完食。そして、ニーアが静かなことに気が付く。


「お、寝てる」

「きゃわぇぇ……だ、抱きたいぜぇ」

「おい、起こすなよ」

「ででで、でも、汗もかいたしお着換えしないと!! よ、夜は冷えるし一緒に寝てもいいよね!? だ、抱きしめてもいいよね!?」

「いいんじゃね? 俺が見張りするから。あと変なことすんなよ?」

「私を愚弄するか貴様!!」

「あーもううっさい……」


 ニーアをレイチェルに任せ、荷台の近くに建てたテントに二人は入った。

 シラヌイも一緒に付いていったので安心だ。ニーアに危機が迫ったらレイチェルを燃やすように言ってあるし。

 ラキューダはいつの間にか寝てるし、俺一人になってしまった。


「呪業でもして鍛えるかな」


 全身に負荷をかけ、筋力トレーニングをする。

 肉体を呪うことで抵抗力を高めるのが目的だ。おかげで、俺の身体は毒が効かない。


「…………ん?」


 ふと、妙な気配を感じた。

 研ぎ澄まし、周囲を探る。

 ラキューダの息遣い、パチパチと燃える焚火、テントの中から聞こえる衣擦れ……。


「…………」


 もっと先を感じろ。

 周囲の岩場、砂粒の擦れる音、ほんの少しだけ聞こえるのは……水音か。

 目的地の先に水場がある。たぶん、一キロ以内……レイチェルの案内でこの岩場に来たけど、水場があるって知らなかったのかな。


「…………どうすっかな」


 周辺に妙な気配はない。

 夜行性の魔獣もいるらしいけど、少なくとも俺には感じない……たぶん大丈夫だな。

 気配察知は夜戦において重要だ。先生との訓練で、闇に紛れた先生が落とす針の音を察知しろってのがあった……クリアまでかなりかかったけどな。

 おかげで、集中すれば半径二キロくらいなら怪しい気配や殺気を感じ取れる。


「……少しだけ様子を見るか。一キロくらいなら数分で行けるし、確認して戻るだけなら五分も掛からない」


 俺は立ち上がり、もう一度周囲を確認……うん、大丈夫。

 屈伸し、足を曲げ伸ばし、手をプラプラさせ、呪符を一枚取り出す。


光球(デラセ)


 呪符が燃え、小さな炎の玉が浮かぶ。

 明かりと虫よけの呪術だ。ふわふわと浮き、俺の後ろを付いてくる。


「さーて、軽く見回るかね」


 俺は呪力を足に込めて跳躍。

 近くの岩場に飛び乗り、怪しい気配の場所まで走り出した。


 ◇◇◇◇◇◇


 ────ちゃぷ。

 そんな水音が響いた。


「…………」


 俺は、不思議な感覚にとらわれていた。

 目の前には、小さなため池……えっと、オアシス?がある。

 そこに、一人の人間がいた。


 生まれたままの姿で水浴びをしているようだ。

 月明かりに照らされた肌は青白く、身体の形で女だとわかる。髪はとても長く、月明かりで銀色に輝いている……なんだこの感じ。俺、おかしい……。

 立ち尽くす俺。

 そして、女がこっちを見た。そりゃそうだ……光球の光で明るいからな。


「…………」

「…………」


 俺と女は、見つめ合う。

 綺麗な青い瞳……ああそうか、そういうことか。俺……この子を『綺麗』って感じてるんだ。

 少女は目を見開き、スッと細め────。


「────ッ!!」


 近くの岩を蹴り砕き、浮いた岩の欠片を回し蹴りの要領で蹴り飛ばした。

 岩の欠片は正確に俺の顔面へ。


「っどわっ!?」


 首を捻って躱す。だが、光球(デラセ)に直撃して光が掻き消された。

 やっべぇ、こいつ……俺を殺す気だ!!

 女は片手で胸を隠す……なるほど、戦闘するのに手を塞ぐってことは。


「────はやっ」


 一足飛びで俺のもとへ。

 そうか、こいつ……足が武器!!

 

「っく────」

「!?」


 顔面を狙ったハイキックをギリで躱す。

 反撃、股間ががら空き────相手は片足立ち、チャンス。

 だが、俺の思考よりも早く女は次の行動へ。まずい、こいつは初手から俺を殺す気満々、対する俺は初手から出遅れてる────!!


「神風流、『蛇絡み』」

「ぐわっ!?」


 ハイキックの軌道が変わった。

 顔を通り過ぎたと思った瞬間、軸足の位置を足指だけでずらし、膝関節で首を摑まれそのまま体勢を崩された。そしてそのまま俺の身体を両手で摑み、軸足の膝でボディを狙った膝蹴り────。

 ここで、俺もようやく覚醒。


「この……っ!!」

「っ!!」


 膝蹴りを右手で摑み、そのまま呪力を流そうとした。

 だが女は俺の身体から全力で離れる。そして、互いに距離が開いた。

 俺は甲の型で構える。相手は俺を強者と認めたのか、身体を隠すのを止めて構えた……こいつ、格闘技経験者、いや……かなりの使い手だ。


「…………」

「…………」


 どうする。

 たぶん、炎を出せば勝てる。

 でも……武闘家としての俺が、それを否定している。

 こいつと、格闘技だけで戦いたい。

 ゴクリと唾を飲み込むと、同じような顔をした女が言った。


「ねぇ……仕切り直していい? あんた、滅茶苦茶強いでしょ……やるなら万全な状態で」

「……いいぞ」


 先に仕掛けてきた女が構えを解く。

 殺気が消えたのを確認し、俺も構えを解いた。

 女は、俺をジーっと見る。


「なんだよ」

「あのさ、アタシ……女だけど」

「見りゃわかるっつの」

「……一応、見られてハズいって気持ちはあんのよ。あっち向け」

「あ、そっか。女は肌を見られると恥ずかしいんだっけ……」

「……変な奴ね。当たり前でしょ」


 こうして、俺と銀髪の女は出会った……出会ってしまった。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
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― 新着の感想 ―
[良い点] ラッキースケベ(本人にとってはラッキーでもスケベでもない)は新しい [一言] 更新ありがとうございます。楽しみに待ってます。
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