新たな十二使徒
「ほぇぇ……もう嫌だぁ」
聖天使教会本部。
十二使徒のズリエルは、高く積まれた書類の山を見てゲンナリし、机に突っ伏してしまった。
やることが多すぎる。
ラーファルエルの降格、好き放題やってる残りの十二使徒、様々な残務処理。なぜかズリエル一人で処理をしていた。
「うぅ、なんで私ばっかり……出会いが欲しい、美味しい物たべたい、ふわふわな布団の中で居眠りしたい……」
十二使徒イチの苦労人ズリエルは、死んだ目で書類の一枚を掴む。
それには、『十二使徒『風』ラーファルエル降格報告書』と記されている。ミカエルが出した書類で、誤字脱字だらけなのでズリエルがチェック、アルデバロンに提出する書類だ。
「ラーファルエルさん……」
ラーファルエルが、地獄門の呪術師に敗北した。
報告では、最初こそ優勢だったが、第二地獄炎の炎が現れ平静を乱し敗北ということになっている。
ラーファルエルは千年前の大戦に参加しておらず、地獄炎にも種類があることをわかっていなかった。圧倒的な熱量を持つ第一地獄炎相手なら負けない。それこそがラーファルエルの敗因だ。
『十二使徒神器』を没収され、第七階梯天使にまで降格したラーファルエル。今は反省用の独房で一人過ごしていることだろう。
「あ゛~~~……地獄門の呪術師って、どうすりゃいいのよ……ミカエルさんは戦う気満々だし、他の方たちもなんかやる気になってるし……たった一人しかいないなら放っておけばいいのにぃ……それより、誰か私を助けてくれぇぇぇ~~~……」
ズリエルの意見は正しい。
フレアは、天使に興味がない。「悪い奴らは俺が倒す!!」とか「悪しき天使、その組織は俺が壊滅させる!!」など考えてすらいない。楽しく世界を冒険するのがフレアの目的であり、今までは喧嘩を売られたから買っただけだ。
ぶっちゃけ相手にしないのが正しい。だが、ラーファルエルを倒したという結果が、十二使徒やその下の天使たちの目に留まったのだ。
頬もこけ、青ざめた表情でズリエルは笑う。
「そうだ、熱いコーヒーを淹れよう……ははは、仕事仕事~♪」
フラフラと立ち上がり、自分の執務室の隅にあるコーヒーポッドのもとへ向かう。
コーヒーポットに手を伸ばすと……。
「あれ?」
ポットがスーッとずれた。
もう一度手を伸ばすが、ポットは再びずれる。まるでズリエルの手には捕まらない、そう言っているように見えたが……ズリエルにはすぐにわかった。
「これは……あぁ、メタトロンさんですね」
「あ、バレちゃった。あははは」
「もう、もっと上手くやりなさいよ」
「ごめんごめん。姉さん」
執務室の天井に、少年と少女がいた。
全く同じ顔をした金髪の天使だ。双子の天使は手を繋ぎ、クルクルと踊るように執務室内を飛び回る。
「サンダルフォンさん、メタトロンさん……あの~、よければ仕事の手伝いを」
「「や~だよっ! あははははっ!」」
「あ、あはははは……はは」
聖天使教会十二使徒。
姉のサンダルフォン、弟のメタトロン。
双子の天使は、ズリエルをからかうように飛び回り言う。
「ねぇズリエル。ラーファルエルを倒した呪術師だけど」
「あたしたちが狩ってもいい?」
「え、あーいや、うーん……その、危険なのでやめたほうがいいかもですな」
「なぜ?」
「なぜ?」
「ボクたち」
「あたしたちが」
「負けると思うのかい?」
「負けると思うの?」
「い、いえ。そういうわけじゃ……その、ラーファルエルさんもやられちゃいましたし、情報を集めないと」
「いらないよ」
「いらないわ」
「だって」「だって」
メタトロンとサンダルフォンは手を繋ぎ、ズリエルの前で止まった。
「ボクと姉さんが揃えば無敵」
「あたしとメタトロンが揃えば無敵」
「「あははははっ!!」」
「あ、あはは……」
ズリエルは、この双子が苦手だった。
二人の能力は組み合わせれば確かに無敵。過去に、ミカエルに手傷を負わせたこともある。
だが、目的がよろしくない。
「あの~……地獄門の呪術師と戦う理由がないので」
「そんなの関係ないよ。ヒマだから戦いたいのさ」
「そうね。やることないんだもの」
「じゃ、じゃあ書類仕事を」
「「やだ」」
「…………」
メタトロンとサンダルフォンは翼を広げ、窓から出ていった。
ズリエルはコーヒーポットに手を伸ばし、自分のカップにコーヒーを注ぐ……。
「あ……入ってない」
コーヒーポットは、空っぽだった。
ズリエルは「ははは」と笑い、一人ぼっちで仕事を再開した。




