いざ、砂漠へ
いざ、砂漠へ。
宿から出た俺たちは外の暑さに参る……わけないだろ。
俺は暑いのも熱いのも平気だが、宿の外に出て数分でニーアとレイチェルは汗だくになった。
ラキューダに餌をやる俺にレイチェルは言う。
「おい、貴様は荷車の屋根に乗れ……」
「え、徒歩じゃねーの?」
「冗談に決まっているだろう。私とて気遣いくらいはできるぞ」
「ははは」
「なんだその笑いは……」
「ま、ありがとよ。辛くなったら乗ることにするよ」
「何? おい貴様、まさか」
「うん。砂地は歩きにくいし、下半身のトレーニングに最適だ。いけるところまで歩いていくから、気にしないでいいよ」
「なっ……ば、馬鹿を言うな!! 砂漠越えを徒歩など」
「いいからいいから、ほれほれ、ニーアが参ってるぞ」
「え」
俺が指を差した先で、ニーアがしゃがみ込んでいた。近くには心配そうに尻尾を振るシラヌイも。
暑いのはわかるけど体力なさすぎだろ。いや、六歳児ならこんなもんなのか?
レイチェルは俺のことなど忘れ一瞬でニーアのもとへ。
『ブルルルルッ……』
『グモォォォッ!!』
「おっと。はいはい、餌ね」
俺は二頭のラキューダに餌をたっぷり与える。
こいつら、体内に大量の水分を蓄えてるから水を飲まなくても歩けるらしい。下半身もぶっとくて逞しいし、全身の毛が日光から肌をガードしてくれるとか。
蹄もめっちゃデカくて硬そうだし、砂漠でこれほど頼りになる生き物はいない。
「よし、よろしく頼むぞ」
俺はラキューダを撫で、荷車に繋ぐ。
「ふ、フレアさぁぁ~ん……あちゅいですぅぅ」
「水飲んどけよー。レイチェル、行こうぜ」
「私に指図するな。さぁ坊ちゃま、荷車に乗ってくださいね」
「んん~……」
ニーアを荷車に乗せ、シラヌイも乗り込み、レイチェルが御者席に座り手綱を握る。
俺はその場で屈伸、足を伸ばし、手をプラプラさせ、軽くジャンプ。
目的地は、砂漠を越えた先にある街。その道中、マスル・マッスルの依頼である問題児の冒険者にお灸を据える。
問題児冒険者は、砂漠を縄張りにして強者を求めて戦っているらしい。
「では行くぞ。遅れたら置いていくからな」
「へいへい」
「フレアさん、無理せずにぃぃ~……」
「お前もな。ちゃんと水飲んで寝てろよ」
レイチェルが手綱を揺するとラキューダが走り出した。
俺は走り出し、荷車を追う。
「ほっほっほっほ……うん、いけそうだ」
ラキューダ、けっこう速いじゃん。
でも、追えない速度じゃない。いい感じいい感じ。
さぁて、砂漠越えと行きますか!
◇◇◇◇◇◇
砂、砂、砂……砂漠って砂しかないのな。あと妙にトゲトゲした緑色の植物。
「う、おぉっ……走りにくいっ」
砂の上って走りにくい。
足は沈むし、砂に取られてこけそうになるし。でも、いい訓練になる。
『呪行』で肉体を酷使しつつ、砂の上を走る。基礎体力と全身を鍛えることができる、いいトレーニングだ。
懐かしいな。昔、先生と一緒に川の底で訓練したっけ。肺活量と全身の筋肉を鍛えるには水中が最も最適だって言ってたからな。砂の上は砂の上でいい訓練になる。
「おい、遅れるな」
「わーってるっつの!!」
レイチェルの隣を走り、ラキューダと並走する俺。
ラキューダのやつ、俺と一緒に走るのが嬉しいのか競争するように加速していく。
「こ、こら!! ラキューダを興奮させるな!!」
「え、駄目?」
「駄目だ!! 坊ちゃまが乗っていることを忘れるな!!」
「あ、そっか」
速度を落として砂上を走る……うん、ラキューダも落ち着いた。
だが、真の脅威はここからだった。
「ん? レイチェル、なんかいるぞ」
「あれは……マズい、『砂豚』だ!! 追ってくるぞ!!」
「すなぶた?」
「見ろ!!」
ラキューダ三頭分くらいの長さの生物だ。
茶色い身体に肉厚のある身体、背びれと尾びれがあり、手はヒレのようになっている。そして顔は凶悪で、口の中には牙がびっしり生えていた。
驚いたことに、そいつは砂に潜ってスイスイ進んでくる。背びれだけが砂から出て、まるで海を泳ぐ魚のようだ。
「おおー」
「呆けてる場合か!! あれは肉食、ラキューダを狙ってる!!」
「なにぃ? じゃあぶっ飛ばす!!」
まっすぐ突っ込んでくる砂豚の前に俺は出る。そして、砂豚めがけて突っ込んだ。
両手には第一地獄炎。砂に潜ってるけど背びれのおかげで位置はばっちり。
前に出たおかげで、砂豚の狙いは俺になった。
「へへーん!! こっちこっち!!」
砂上を走るが、砂豚のほうが速い。
でも、これでいい。追いつかれるのはわかってる。
「第一地獄炎、『砂炎竜巻蹴り』!!」
足に炎を纏い、思いきり蹴り上げる。
炎と砂が混ざって燃え上がり、炎の勢いで砂と砂豚が宙を舞う。
『ピギャァァァァァーーーッ!?』
砂豚に炎が引火……おお、燃える砂豚、美味そうじゃん。
だが、俺の炎は全てを焼き尽くす。砂豚は骨も残らないだろう。
「燃えすぎるのもなぁ……砂豚、美味そうだ」
炎の砂嵐が収まり、砂豚は骨も残らなかった。
◇◇◇◇◇◇
「馬鹿者!! 戻ってこい!!」
「え? あ!!」
レイチェルの声に反応して振り返ると、砂豚の群れがラキューダと荷車を包囲していた。
その数、10……やっば、喰われちまう。
「待ってろ、すぐ行くからなっ!!」
俺は慌てて駆け出す。
砂豚……一匹くらい、燃やさないで倒してみよう。
ふふふ。今日のメシは砂豚肉……ニーアとレイチェルも喜ぶだろうぜ。




