とあるお話
ずるり、ずるりと砂の上を歩く。
ここは、レッドルビー王国のとある砂漠。
全身を白いボロ布で覆った、一人の人間が歩いていた。
「············」
皮膚の露出が一切ない。
口元が少しだけ見えるだけで、男か女かもわからない。ただ、砂漠の上を歩く何者かは只者ではない。
何故なら、砂の上を歩く何者かは······大きな荷台を引いていた。
腰にロープを巻き、荷台と連結している。荷台はラキューダ二頭で引くような大きな物で、砂の上を進む用にソリが取り付けられていたが、それでも人間が引くような物ではない。
そもそも、歩きにくい砂の上を、巨大な荷台を引いて歩ける人間などいるのだろうか。
「···········!」
荷台を引く何者かは立ち止まる。
僅かに覗く口元は汗一つかいていない。周囲を見渡しても何もない砂の上で立ち止まった理由は、ただ一つ。
「へへ、よく気付いたじゃねぇか」
何者かが立ち止まった少し先の砂上が盛り上がり、斧を持った髭面の男が現れた。
髭面の登場と同時に、周囲から銃を持った男たちが続々と砂から現れ、何者かに銃を突きつける。
「············」
何者かは、何も答えない。
代わりに、髭面の男が答えた。
「一度だけだ。積荷を置いて失せな。命は助けてやる」
髭面の男、そして何者かに銃を突き付ける連中。
そう、彼らは強盗団。砂漠を通る商人や旅人を狙う悪質な連中だ。砂に潜り獲物を待ち伏せ、通りかかった者を包囲、そして奪う。
狙いは、何者かの荷台だ。
「オレはBレート盗賊『砂斧』······冒険者ギルドの連中が付けたレートも役に立つもんだ。ちょいと脅せばすぐに竦み上がっちまう」
「············」
「あん?」
何者かの口が、パクパク動いた。
砂斧は何者かがボソボソ喋っていることに気がつく。
そして、聞いた。
「───釣れた」
何者かの口がニヤリと歪む。
そして、ローブを脱ぎ捨て叫んだ。
「神風流───『砂波』!!」
ほぼ垂直に足を上げて下ろし、踵落としを地面に打つ。
たったそれだけの動きで砂が爆発。まるで津波のように砂が舞い、何者かを包囲していた盗賊たちが銃を構えて引金に指を───。
「撃つんじゃねえ!! 同士撃ちになるぞ!!」
「ぶげあっ!?」「ぶがふっ!?」
砂が舞う中、盗賊たちの叫びが響き渡る。銃声や暴れる音が響く。
砂斧は斧を構え銃を抜く。そして、宙に舞った砂が落ちると同時に、何者かが纏っていたローブもフワリと落ちてきた。
「······ウソ、だろ?」
仲間が、ほとんど倒れていた。
何人か残っているが、片手で数えられるほどしかいない。
そして、何者かが引いていた荷台が銃弾により破壊されていた。中身は······岩がゴロゴロと入っているだけ。
ここで、砂斧はようやく理解した。
「まさか······」
「そ、アタシの狙いは最初からアンタたち。正確には、大きな積荷を狙って襲ってくるマヌケな盗賊たちね」
砂斧の背後から声が聞こえた。
振り返るとそこには───。
「なっ───お、女? しかもガキ!?」
「ガキ? アタシは十六、立派な大人よ!!」
そこにいたのは、少女だった。
しかも、ただの少女じゃない。腰近くまである銀髪、レッドルビー王国に住んでいるとは思えない純白の肌、そしてとても美しい碧玉の瞳を持っていた。
胸当てをしてお腹と肩は露出し、両手にはグローブ、膝から上にはレガースを装備している。しかもこのレガース、特注品なのか凝った装飾が施されているようだ。
砂斧は、この少女に心当たりがあった。
「聞いたことがある······盗賊や高レートの賞金首ばかりを狙う、銀色の冒険者の話」
「お、噂になってんの? ふふーん。アタシも有名になったわね」
「冒険者イチの問題児とも聞くぜ」
「は? だ、誰が問題児よ!!」
銀色の少女はプンスカ怒る。
そして、話は終わりとばかりにつま先を砂地にグリグリと擦りつけた。
「じゃ、やろっか······少しは楽しませてよね」
「舐めんじゃねえぞガキ······!! お前ら!!」
砂斧の残りの部下が銃を構え、砂斧は斧をブンブン振り回す。
「うっはーっ!! 滾ってきた滾ってきた!!」
銀髪の少女は笑いながら言った。
「神風流皆伝七代目『銀狼』カグヤ」
「名乗る名はねえ、砂斧と呼びな」
戦いが、始まった。
♢♢♢♢♢♢
銀髪の少女カグヤは、一人で砂漠を歩いていた。
「Bレート、あんなもんか······『能力』使うまでもなかったな」
砂斧とその仲間たちをあっさり倒したカグヤ。
賞金首や盗賊団をいくつも壊滅させたにもかかわらず、度重なる不祥事で未だに五等冒険者のままだが、カグヤにはどうでもよかった。
「はぁ〜あ······つまんなーい。アタシをゾクゾクさせるような強い奴、どっかにいないかなぁ」
そう言って、オアシスを目指す。
汗を流し、もう少し賞金首や盗賊でも探すかと退屈そうに欠伸をした。
カグヤは、ニヤリと笑う。
「アタシを満足させる奴、どこかにいないかなぁ?」




