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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第三章・神風の銀狼カグヤ

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めんどくせぇ……。

「戻ったか……って待て待て、なんだその手は!!」

「え、下痢にして虫歯と口内炎の呪いをかけようと思って」

「ま、待て待て。悪かった、私が悪かった!!」

「…………」


 宿屋に戻ると、レイチェルとニーアが出迎えてくれた。

 はにかむニーアを無視してレイチェルをぶん殴ろうとすると、レイチェルは慌てて謝る。

 まぁ俺も鬼じゃない。謝れば許してやらんこともない。


「フレアさん、おかえりです」

「ただいま。悪かったなニーア、怪我はないか?」

「うん。レイチェルが手当てしてくれたんだぁ」


 ニーアの膝には小さなガーゼが当てられていた。よかった、大したことはないみたいだ。


「どうせ消毒だとか言って、傷口舐めたんだろ?」

「…………」

「すごい! よくわかったねフレアさん」

「お前……いや、うん。もういいや。それより、けっこう面倒なことになってな」

「めんどうなこと?」


 ニーアが首を傾げた。

 俺は、マスル・マッスルとの会話をニーアとレイチェルに話す。

 すると、あからさまにレイチェルが顔を歪めた。


「面倒ごとを……」

「いや、原因はお前にもあるからな。ニーア、どうするかはお前が決めてくれ。マスル・マッスルの話、断ってもいい」

「でも、困ってるんだよね?」

「あー……どうなんだろ?」


 マスル・マッスルの依頼は、特異種とかいう奴を叩きのめすこと。

 けっこうな手練れらしいことはわかったけど、俺が受ける義理はない。だって俺の目的はニーアを送り届けることで、冒険者ギルド長の頼みを聞くことじゃない。

 ニーアはにっこり笑って言った。


「受けよう! フレアさんのかっこいいところが見れるかもしれないし、困ってる人を放ってはおけないよ!」

「坊ちゃまきゃわわ! で、ですが坊ちゃま……どのような危険があるか」

「本音が最初に来るのがあんたらしいな。で……いいのか?」

「うん! フレアさん、おねがいします。困ってるギルド長さんをたすけてあげて」

「あ、ああ……まぁ、困ってるかどうかは知らんけど」


 すると、部屋のドアがノックされた。

 レイチェルが警戒しつつ開けると、冒険者ギルドの遣いとやらが手紙を届けに来た。

 手紙には、『明日全員で来てください』的なことがニーア宛に書いてあった。

 俺は手紙を見て息を吐く。


「めんどくせぇことになったなぁ……」

「お前のせいだろう」

「いや、お前のせいでもあるぞ」

「でもでも! なんだか楽しいよね! 冒険みたい!」

「坊ちゃま……だ、抱きてぇ」

「ったく、こいつは欲望のままに生きてやがるな」

「あはは。フレアさんとレイチェル、仲良しだよね。レイチェル、『宿も替えましょう、あいつが来ます』なんて言うから止めるの大変だったんだぁ。ほんとはすっごく仲良しなのにね」

「…………ほぉ、そうなのか」

「ま、待て。冗談に決まっているだろう」


 というわけで、明日はみんなでマスル・マッスルのもとへ。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。さっそくニーアとレイチェルを連れて冒険者ギルドへ。

 入るなりマスル・マッスルの部屋に案内された。

 暑苦しい笑顔で俺たちを迎えたマスル・マッスルはソファへ案内し、緊張して小さくなっているニーアに話しかけた。


「やぁやぁ、よくきてくれたね」

「は、はじめまして。ぼく、ニーアともうします。その」

「ははは、堅くならないで大丈夫。今お茶とお菓子を用意するよ」

「お菓子!」


 お菓子でニーアはパッと明るくなる。

 俺は欠伸、レイチェルは警戒しつつ、ギルド職員の淹れてくれたお茶を飲む……あ、美味い。

 レイチェルはお茶を飲まず、座るなり切り出した。


「依頼の内容を」

「はは、せっかちなお嬢さんだ。ニーアくん、話していいかな?」

「ふぁ!? ふぁい!!」


 ニーアは、口いっぱいにクッキーを頬張っていた。

 レイチェルはだらしなく顔を緩め、ニーアの口元を拭いている。

 話が長くなると眠くなるので、シラヌイを撫でながら俺が切り出した。


「さっさと話してくれよ」

「そうだね。キミに依頼する仕事の内容だが、とある『特異種』を懲らしめてほしい」

「懲らしめる? 殺さなくていいのか?」

「うんうん。やはりキミはいいね、内容も話してないのに『殺す』なんて言葉が出るとは。純粋なのか冷酷なのか、殺し屋向きだね」

「御託はいいっての」

「おっと失礼。そうだな……殺さなくていい。というか殺すことは難しいからね」

「ふーん」

「問題の『特異種』も冒険者なんだが、かなり問題児でね……仲間を攻撃するわ、依頼を放棄するわ、気に食わないって理由だけで大暴れするわで、かなりの被害が出ている。力で押さえつけようにも、上級冒険者が束になっても敵わない強さだからもう大変。特級クラスならなんとかなるかもしれないけど、現状対処できる特級冒険者がいないんだ」

「で、俺にそいつを懲らしめろって? 別にいいけどさ、あんたがやればいいんじゃねーの?」


 マスル・マッスル、こいつはかなり強い。

 俺よりは弱いと思うけど、量産型雑魚天使くらいなら楽勝で倒せるだろう。

 すると、マスル・マッスルは苦笑した。


「はは……それでもいいんだけど、私もタダじゃ済まないからね。ギルドの運営に差し支える恐れがあるから、迂闊には戦えない。あの子を懲らしめることのできる冒険者を探してたけど……キミを見てピンと来たよ。キミなら、あの子を止められるとね」

「はぁ……」


 いつの間にかニーアを膝に乗せて頭をナデナデしていたレイチェルが、真面目な顔で言った。


「特異種が相手と言うのはわかった。『能力』は把握しているのか?」

「んー、強化系ということはわかってるんだけど、戦った子はみんな再起不能で、どんな力を使ったか話したがらないからよくわからないんだ」

「そうか。まぁ、こいつがしくじればまた別な当て馬を探すだけだろうが聞いておく。報酬は?」

「白金貨一枚。正規の依頼じゃないから冒険者の等級査定には響かないけど、ボクに恩を売れる」

「ほぉ……元特級冒険者のマスル・マッスルに恩を売る、か」

「うん。どうかな?」

「…………坊ちゃま」

「ふぁい?」

「きゃわわなところ申し訳ありませんが、ここは受けるべきです。仮にこいつがしくじっても我々にはなんの問題もありません。こいつが死んでも私と二人でラブラブいちゃいちゃしながら進めますし、邪魔者を排除できてラッキーと思えます」

「そ、そうなの? いちゃいちゃってなに?」

「ふふ。今夜たっぷり教えてあげましょうね♪」

「…………こいつ」


 俺の扱い酷すぎだろ。まぁ負ける気はしないけどな。

 ニーアはお菓子をモグモグ食べながら俺を見る。


「フレアさん。ギルド長さんのお願い、受けてもいいですか?」

「あー……好きにしろよ。俺が負けるわけないしな」

「はい! じゃあギルド長さん、あなたのお願い、ぼくたちが引き受けます!」

「おお、これはありがとうございます」


 マスル・マッスルは手を伸ばし、二ーアに握手を求めた。

 対等な相手として見てくれることが嬉しかったのか、ニーアはマスル・マッスルの手を握ってブンブンブンブンと振っている。いや、やるの俺だけどね。

 そして、討伐対象が暴れてるらしい地域を経由していくルートを教えてもらい、面倒くさい話がようやく終わった。


「よし。出発は明日にしよう。坊ちゃま、今夜は一緒に湯あみを」

「え!? な、なんでそんな話になるの?」

「ふふ。た~っぷりキレイキレイにしてあげますからね♪」

「い、いいよぉ」

「ははは。仲がよろしいことで」


 ニーア、レイチェル、マスル・マッスルは楽し気に笑う。

 だが、話はまだ終わっていない。


「ちょい待ち。一つだけ聞かせてほしい」

「……なんですかな?」


 マスル・マッスルの頬がぴくっと動き、レイチェルとニーアも俺を見た。

 ずっと気になってた……でも、ようやく聞ける。


「あのさ、『特異種』ってなに?」


 ◇◇◇◇◇◇


「特異種とは、地水火風光闇雷の七属性と異なる特殊能力を持った人間だ。よし帰るぞ、坊ちゃま、お昼は何が食べたいですか?」

「ちょ、説明雑じゃね!? おい!!」

「れ、レイチェルぅ、歩けるから下ろしてよぉ」


 レイチェルは、ニーアを抱っこして歩き去った。

 俺もその後を追おうと部屋から出ようとする。


「フレアくん」

「ん?」

「気を付けてね。『特異種』の強さは十二階梯天使に匹敵する。冒険者最上級の『特級冒険者』は、全員が特異種だ」

「そうなん? ま、ラーファルエルより下なら負けねーよ」


 そう言って、俺は部屋を出た。

 

「……ラーファルエル? まさか、十二使徒? え?」


 マスル・マッスルの声がドア越しに聞こえたような気がした……。


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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
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