明るく行こう
「私はホワイトパール王国第七王女プリマヴェーラ。プリムとお呼びください」
「姫様……だいぶぶっちゃけましたね」
「も、もう! アイシェラも自己紹介!」
「ふん……かなりの使い手のようだが、感謝する。私はアイシェラ。プリマヴェーラ様の聖騎士だ」
「…………どうも、ヴァルフレアです。フレアでいいです」
ホワイトパール王国。
第七王女プリマヴェーラ。
聖騎士。
わけわからん単語がいっぱいだ……つーか、ホワイトパール王国ってなんだ?
王国。確か、王様が治める国のことだよな。姫。つまり、王様の子供……第七王女。つまり、七人目の子供。
そんな子供が、こんな森でなにを?
「おい、お前……この『死の森』でなにをしていた?」
「へ? 死の森?」
「とぼけるな。強力な磁場が常に発生している森で、入ったら二度と出られないと言われている森だ。お前のような軽装の若者が、こんなところで何をしている」
「いや、それを言うならこっちも……女の子二人でなにしてんのよ」
「う、うるさい!! 見ての通り、だまされたんだ!!」
「……は、はぁ」
だまされたって……見てわからん。
転がる男は十人で、一人は燃えてしまった。残りは俺の呪術で苦しんでいる。
すると、プリムがおずおずと言う。
「護衛を雇ったのですが、姉上の回し者でして……この森に連れられ、殺される寸前でしたの」
「そうだったのか……って、殺される!? あんたが!?」
「姫様に無礼な口を利くな!!」
「アイシェラは黙って!! もう、いちいち喧嘩を売らないの!!」
「も、申し訳ございません……」
「えーと……よくわからんけど、無事ならよかった」
なんか面倒そうだな……どうしよう。
「お、お待ちください!!」
「はい?」
「その、ヴァルフレア様」
「フレアでいいよ」
「ではフレア様。私の護衛になっていただけません?」
「なっ、姫様!?」
護衛。
つまり、このお姫様を守るのか。
身体も鈍ってるし、俺も話を聞きたいし、別にいいか。
「私は反対です!! 素性の知れない青年を同行させるなど……姫様、あなたは自分がどれほど美しい存在か理解していない!! 見た感じ、同世代の少年……隙を見つけ、姫様のお美しい肢体に飛び掛かるやもしれません!!」
「か、考えすぎ……ってかアイシェラ、考えがキモイ」
「うっ……ふぅ。それに、護衛なら私がいます。やはり大人数で動くより、私と姫様の二人きりで」
「それはそれで嫌。アイシェラ、たまに怖い目で私を見るし、ヨダレ垂らしてるの見たことあるし」
「うっ……ふぅ」
なんかこの女騎士ヤバい……初対面でもわかるぞ。
「俺はいいよ。人を探していたし、今の時代の話を聞きたいから」
「まぁ!! では決まりですね。よろしくお願いいたしますわ、フレア様」
「ああ、よろしく」
「ぐぅぅ……私と姫様の二人きりの逃避行が……おのれ、フレアめ」
アイシェラからの視線が痛い……やっぱりこいつが一番の危険人物じゃね?
◇◇◇◇◇◇
森は強烈な磁場とか言ってたけど、俺には関係ない。
呪符を取り出し、呪力を込める。
「『出口どっちだ?』……よし、あっちだ」
呪符が燃え、蛇のような炎が矢印の形となり、俺たちに道を示す。
道案内の呪術。村で習ったときは使い道なかったけど、役に立つじゃん。
「不思議な魔法ですね……」
「姫様、徒歩で申し訳ございません……馬が生きていれば、二人で乗って森を抜けられたのですが」
「アイシェラ、黙って」
「うっ……ふぅ」
「えーと、とりあえず森を出たらいろいろ話を聞かせて。俺、生き返ったばかりで今の時代のことがよくわからないんだ」
「「…………???」」
プリムとアイシェラは首を傾げた。
あ、そっか。俺の事情を話しておいたほうがいいかな。別に隠すようなことじゃないし、話しておけば質問しやすい。それに先生も言ってた。『嘘つきは泥棒の始まり』ってね。
「俺、『地獄門』の炎を安定させるための生贄として門に入ったんだ。なぜか死ななかったんで、地獄の炎を全部喰らって出てきたばかりなんだよ。村に戻ったら廃村になってるし……」
「…………はい?」
「お、お前……何を言ってるんだ?」
「え? だから地獄の炎を魂で喰って出てきたんだって」
「「…………」」
俺は、自分の考えが正しいかどうか試してみる。
右手を開き、軽く念じる……すると、赤い炎が皮膚から飛び出した。グラブや衣服は燃えず、自分の意志である程度コントロールできるようだ。
でも、まだよくわからない。検証が必要だ。
「な?」
「ま、待て。お前……まさか、『地獄門の呪術師』の関係者か!?」
「は? 地獄門の呪術師って……俺は呪術師だけど」
「「!!」」
アイシェラとプリムとは目を見開く。
なんだこの反応? 俺、変なこと……言ったんだよな。けっこう時間たってるし、わけわからん頭のおかしい奴って認識されたのかも。
「フレア様……あなた、死の森の先にある村から来たんですの?」
「ああ。俺の故郷だよ」
「……まさか、生き残りがいたなんて」
「は?」
「フレア様。落ち着いてくださいね……あの村は、地獄門の呪術師と呼ばれた、七つの炎の管理者が住まう村でしたの」
「……七つ?」
おかしいな、炎は八つあったけど。
アイシェラが立ち止まり、プリムの前に出る。
「地獄門の呪術師は地獄の炎を操る最強の集団と呼ばれた。徒手空拳で重騎士を圧倒し、たった五人の呪術師が千人の大部隊を滅ぼしたとも言われている。この世界最強の戦闘部族として、世界中から恐れられていた」
「へぇ~、そうなんだ」
「ああ。千年前にな」
「……………………はい?」
千年前。
え? せ、千年前?
「地獄門の呪術師は、千年前の大戦で滅びた。呪術師の炎と対になる『聖天使』の力によってな」
「そうなんだ~……」
「ああ。子供でも知っている話だ」
な、なんか……すごい話を聞いているようだ。
「千年前の大戦時、地獄門の呪術師は聖天使を圧倒していた。だが、戦いの最中、なぜか呪術師の炎が弱まり、聖天使が呪術師を倒し始めた。天使の力に地獄の炎が屈服したと伝わっているが……当時の天使は言っていた」
「……ゴクリ」
「地獄の炎が呪術師を見限ったのではない。炎が喰われ力を失ったのだ、とな」
「…………え」
炎が喰われた。
え、うそ。待て待て。まさか……お、俺のせい?
地獄門の呪術師が力を失ったのは、俺が炎を喰ったから。
赤い宝石、青、黄、緑、紫、黒、白……そして黄金の宝石を吸収した。
全ての炎が消えて、俺は肉体を手に入れて戻ってきた。
千年前の大戦。あれが、千年前の出来事だったのか?
「…………マジかよ」
つまり、俺のせい?
え、呪術師が滅びたのは……おれのせい?
「…………」
「フレア様?」
「あ、いや……なんか、ショックだな。ははは」
なんてこった……ははは。
俺、呪術師の生き残りか……なんでだろう。あんまり悲しくない。
「貴様の話を信じたわけではないが……その炎、そしてこの案内、呪術なのだろう?」
「……まぁ」
「なら、この話は終わりだ。外まで案内してくれ。次は、私と姫様の出会いの話をしよう」
「しませんー、私の護衛のお願いの話ですー」
「うっ……ふぅ。そ、そうだった。ではフレアよ、案内を頼む」
「わかった」
ま、仕方ないか。
今更悲しんでも仕方ない。生きるために今は歩こう。