エピローグ②
イエロートパーズ王国では、フリオニールが魔法学園の訓練場で剣を振っていた。
そこに、ラモンとレイラが合流する。
「やっほ~」
「お疲れ、フリオニール」
「やあ! きみたちも訓練かい?」
爽やかに汗を拭うフリオニール。
レイラはグラブを、ラモンは模造剣を持っていた。
二人は頷き、フリオニールの傍で訓練を始める。
「そういえば聞いた? ブリコラージュ理事長の話」
「ああ、病に侵されていると聞いたが……天使様の治療で、なんとか回復したとか」
「なんとか、っていうかぁ……天使様も匙を投げたみたいで、ほんの少しだけ病状をやわらげただけみたいだよ。まだベッドの上みたいだねぇ」
ラモンは早くも大汗を流していた。逆に、レイラは正拳突きを何度も繰り返しているのに余裕そうだ。
フリオニールは、ふむと唸る。
「理事長。元気になってほしいな」
「うん……天使様ですら治せない病気ってのもねぇ」
「……」
「レイラ、どうしたんだ?」
「いや、なんとなくだけど……フレアさんなら治せるんじゃない?」
「「え?」」
「だって、見たでしょ? フレアさん、あんな大怪我してたのに、白い炎に包まれたら綺麗に治っちゃったの……あれなら、治せるかも」
「確かに……だが、フレアくんはどこにいるのか」
「そうなんだよね……ね、ラモン。あんたの家、お金持ちなんでしょ? 探せない?」
「ん~……父上に頼んでみるけど」
ちなみに、ブリコラージュを『病』にしたのはフレアだ。
そこまでは気付かれていない。
フリオニールは、剣を振る。
「フレアくんには必ず会える。ははは、再会が楽しみだ!!」
イエロートパーズ王国では、今日も魔法使いたちが勉強をしていた。
◇◇◇◇◇◇
ブラックオニキス王国。
ハンプティダンプティの国では、三人の真祖が集まっていた。
「……で、何用だ」
「ほっほっほ。なぁに、茶を飲みに来ただけじゃ。な、ツァラトゥストラ」
「あ、ああ……」
「……?」
ツァラトゥストラがビクビクしているのが少し気になったが、ハンプティダンプティは流す。
そして、高級ワインを何本か出すと、ヴァルプルギウスが「ほ!」と目を見開く。
「まさか、おぬしがワインとはな。くくく、フレアのおかげかの?」
「黙れジジィ……殺すぞ」
「ほほほ。どうせ死なんからええぞ。それより、ツァラトゥストラ……何を怯えとる?」
「え!? あ、いや……その」
ツァラトゥストラは、チラチラと真祖二人を見る。
言うべきか、言わざるべきか。
心臓を、呪術師に握られているなんて、言えなかった。
「ほほほ、まるで心臓を鷲掴みにされてるようじゃのう」
「!? ヴぁ、ヴァルプルギウス……まさか」
「ま、死にはしないじゃろ。あやつがああなったのは、おぬしが原因のところもあるしの……何年、何百年とかけて反省したら、何とかしてやろう」
「う、うぅぅ……っ」
「?」
ハンプティダンプティだけは、首を傾げていた。
「さぁて、今はそのワインを開けようかの」
「……ふん」
「……うぅ」
真祖たちの宴会は、よくわからないテンションで始まった。
◇◇◇◇◇◇
ツァラトゥストラの氷城で、オグロは空を見上げていた。
その隣に、リンゴを丸かじりしながらジョカが現れる。
「あんた、これからどうするの?」
「……わかんない」
「復讐は終わった。第六地獄炎で心臓を呪い、第七地獄炎で隠したから、あのツァラトゥストラには見つけることはできない。どこにいても、指先一つで呪い殺せる……今も、ビクビクしてるでしょうね」
「知ってるよ。だから?」
「だったら、引きこもってないで旅にでも出たら?」
「……ボクの旅は終わったよ。もう、目指すべき場所なんて」
「ないなら、見つけたら? せっかくヴァルフレアが世界を救ったんだし、あんたが笑える場所もきっとある。それに……あたしが、付き合ってあげてもいいわ」
「……前から思ってたけど、なんでボクに付き合うんだ?」
「あんたが、可愛いから」
「……ばかばかしい」
オグロは、そっぽ向いた。
ジョカはリンゴをシャリッと齧る。
「あんた、ヒョウカには随分と気に入られてたようね。会いに行ってみたら?」
「やだよ。ヒョウカは乱暴だし、上から目線だし……正直、苦手」
「じゃあ、ハクレンは?」
「あいつ、何考えてるかわかんないし」
「ハイシャオは?」
「……あいつが一番わかんない」
「セキドウにフウゲツは死んじゃったし……」
「…………」
オグロは、ため息を吐いた。
そして、空を見上げる。
「……まぁ、引きこもってるだけじゃ、辛いかな」
「よし決まり。じゃ、どこに行く?」
「どこでもいいよ」
「ここからだと……お、パープルアメジスト王国が近いわね。確かあそこ、温泉の町があったはず。どう? 温泉、行ってみない?」
「温泉か……」
「ふふ、混浴でもいいわよ?」
「ブッ!? ばばば、馬鹿言うな!!」
「ふふ、かわいい」
ジョカにからかわれつつも、オグロは歩きだす。
ブラックオニキス王国を出て、パープルアメジスト王国にある温泉郷ユポポへ。
旅の終わりはない。歩き続ける限り、旅は続く。
オグロとジョカは、再び旅に出た。




