エピローグ①
世界の滅亡が防がれた。
英雄の名はヴァルフレア。最後の呪術師として、その拳を振るい神と戦った。
世界中が、空に映るフレアと神の戦いを見た。
ヒトも、天使も、吸血鬼も、竜人も、エルフも、獣人も……この世界に生きる全てを守るために拳を振るうその姿は、他種族の意識を変えた。
まず、天使。
「これより、天使の『願い』は無償で行う。そして、ヒトや他種族に手を出すことを禁ずる」
聖天使教会は、『神聖天使教会』と名を変え、人々のために働く天使となった。
もちろん、わだかまりはあるし、未だに天使を崇拝する者も多い。だが、フレアの戦いを見た天使が、その意識を変えて人々のために何かをしようとするのも、また事実だった。
天使は、恐怖ではない。
世界のために何かをする、一つの種族になろうとしていた。
「ダニエルさん、ズリエルさん。こっちの書類、まだ終わってないですよ?」
「か、勘弁してくれ……」
「お、同じく……うぅぅ」
神聖天使教会の執務室に、ダニエルとズリエル、補佐となったラティエルがいた。
ダニエルは、顔を青くしながら言う。
「お、オレ……冒険者家業に戻りたいんだけど、なんで働かされてんの?」
「わ、私は教会を辞めたいんですけど……」
「だーめ! 協会が新しくなって、やることいっぱいなんですから! 他の堕天使の方にも声をかけたんですけど、逃げられちゃって……」
「で、捕まったのがオレとズリエルね……うぅ」
ちなみに、ズリエルは堕天。白かった翼は灰色になった。
ダニエルと冒険者に! と思ったのだが……イエロートパーズ王国のダンジョン前で、ラティエルに捕まってしまったのだ。
「さ! お仕事いっぱいありますよ。終わったら、冒険者に戻って構いませんから!」
「「うぅぅ……勘弁して」」
神聖天使教会は、少しずつ新しい道を歩み出した。
◇◇◇◇◇◇
レッドルビー王国では、ニーアが勉強をしていた。
教師はレイチェル。マルチューラが暇つぶしにソファでだらけている。
「坊ちゃま、休憩しましょうか」
「うん」
ペンを置き、ニーアは背伸びをする。
最近、身長が伸びてきた。銃と体術の腕前も上がってきた。
勉強は好きなので、成績は優秀。将来を期待されている、レッドルビー王国の王候補だ。
ニーアは、レイチェルが持ってきた氷水を飲む。
「っぷは……フレアさん、元気かなぁ」
「大丈夫でしょう。あの男は元気な姿しか覚えがありません」
「あはは、確かに」
「それより、問題は……はぁ、あいつのせいで」
レイチェルがため息を吐く。
最近の問題は、フレアを探しに冒険者やらが王城に来ることだ。
最後の戦いは、あまりにも見事だった。
間違いなく、フレアはこの世界で最強の戦士。その戦士に弟子入りしたいと冒険者が集まって来たり、なぜかレッドルビー王国にフレアが滞在しているとデマまで回っていた。
おかげで、毎日フレアに面会を求めてくる冒険者がひっきりなしだ。
「どこで何をしているのやら……」
「……たぶん、すぐに会えると思う」
「え?」
「だって、フレアさん……あの戦いも、冒険の一つとした思ってなさそうだし。戻ってきたら、またいつも通り冒険をはじめると思う。きっと、またここに来ると思うよ」
「坊ちゃま……」
と、ここでソファでダラけていたマルチューラが言う。
「ふふ、いつまでも子供じゃないのね。かっこいいじゃない?」
「そ、そうかな」
「ええ。ふふふ、レイチェル……そろそろ、どっちが正妻になるか決めないとね」
「確かにその通りだ。ククク……おもしろい」
「ふ、二人ともぉ!」
レッドルビー王国は、今日も平和だった。
◇◇◇◇◇◇
ブルーサファイア王国では、ギーシュが執務に追われていた。
「はぁ~……参ったな。ヴァルフレアの行方なんて知らないし」
「キリキリ働きなさいな!!」
「ひっ!?」
ギーシュの傍にいたのは、ヒョウカだ。
執務と、なぜかフレアの捜索もやっていた。かなりの激務に、ギーシュはへとへとだ。
「ああ、フレア様。何処へ……あなたのヒョウカは、ここにおりますのに!!」
「…………」
「なんですか、その眼は」
「い、いえ」
ヒョウカの足に青い炎がまとわりつく。
すると、いつの間にかいたサリエルとキトリエルが。
「はぁ~……つーか、いつまでもブルーサファイア王国で待つより、探しに出た方がよくない?」
「ふむ。一理ある『答』ですな」
「……確かに」
ヒョウカは少し考え込む。
そして、ギーシュに言う。
「船を一隻用意なさい。目的地はホワイトパール王国」
「え……」
「明日、フレア様を探しに発ちます」
「あ、明日? あの、いきなり言われても」
「……何か?」
「や、やります、はい」
ギーシュは、泣く泣く作業を開始した。
策謀家で頭脳明晰なのだが、押しに弱いという弱点があった。
「サリエル、キトリエル。出発準備を!」
「へーい」
「かしこまりました。お嬢様」
こうして、ヒョウカたちはフレアを探す旅に出発した。




