レッドルビー王国への進路
「貴様だけはぜっっっっっっっっっったいに許さんからな」
「悪かったって。あと、トイレ詰まらせたのは俺のせいじゃないからな」
「だ、黙れ!! それ以上喋ると貴様の舌を斬り落とすぞ!!」
「わかったわかった」
「あ、あの。二人とも喧嘩しないで……」
「はい坊ちゃま♪ ふふふふふ、今日も可愛いですねぇ~♪ 食べちゃいたい、ちゅ♪」
「ふえぇ、ぼくは男の子だよぉ……」
「フォーーーーーーーッ!! 元気でたぁぁぁぁっ!!」
朝からやかましいなぁ……。
リヴァイアサンを退けた翌日。俺の呪いの効果が切れてトイレから解放されたレイチェルは、俺に怒りをぶつけながらニーアの困り顔に興奮するという器用なマネをした。
一睡もせずに下痢ピー状態だったから頬がこけ、目元もクマができている。でもニーアと喋るレイチェルは幸せそうだった。
俺は欠伸をして聞く。
「なぁ、レッドルビー王国に向かってんだろ? あとどんくらいで到着すんだ? 今後の予定は?」
俺、ニーアの護衛をよろしくと言われただけで、レッドルビー王国のことを何も聞かされてねーや。
レイチェルは俺を睨んでそっぽ向くが、ニーアが『お願い、教えてあげて』と上目遣いで言う。するとニヨニヨとだらしない顔をしてから俺のほうを向いた……こいつ、ほんと忙しいな。
「馬鹿にもわかるように説明してやる」
レイチェルは椅子に座り、俺はベッドに座った。するとニーアは俺の隣に座る。
「ぼ、坊ちゃまは私の膝の上に来ましょうね~♪ はいはいカムカム」
「い、いいよぉ。ぼく、フレアさんの隣がいい」
「ぐっきぃぃぃぃっ!! 貴様、覚えてろよ……」
「なんで俺が……いいから教えてくれよ」
「くっ……」
レイチェルはポニーテールをふわっと揺らし、息を整える。
「現在向かっているのがレッドルビー王国領土際にある港町だ。そこでラーキュダを手に入れ、レッドルビー王国へ向かって進む」
「え、すぐにレッドルビー王国じゃないのか?」
「そうだ。レッドルビー王国は砂漠の国、ラーキュダを使って砂漠越えをせねばならん。それに、いくつか町を経由して進まねばならんから……最低、三十日以上はかかる」
「え!? ま、マジか!? 聞いてないぞ!?」
「今言っただろう」
「うっそ……」
てっきり、船を下りた先にあるのかと思ってた。
おいおい、サバク……。
「なぁ、サバクってなんだ?」
「無知な馬鹿と聞いていたが案の定だな。砂漠とは砂の大地だ。限られた場所にあるオアシスを経由しながら進む。私は何度か砂漠越えをしたことがあるから案内は任せろ」
「砂の大地……じゃあ、ラーキュダって?」
「砂漠越えに欠かせない動物だ。暑さに強く脚力も非常に強い。砂の大地を歩ける唯一の動物だ」
「へぇ~」
「へぇ~」
って、ニーアまで感心していた。
俺はニーアに言う。
「お前も知らなかったのか?」
「は、はい。ぼく、ずっと宿屋で働いてたので……読み書きも得意じゃないし、本も読めないので」
「ふーん」
読み書きか。
千年経った今でも、文字や数字は変わっていない。俺は先生に習ったから読み書きはできるし、呪術師の言語も読める。
「なんなら、俺が教えてやろうか?」
「え? い、いいんですか?」
「ああ。いいぞ」
「ふわぁぁ……よ、よろしくお願いします!!」
「おう「待て待て待てーーーーーっ!! 貴様、その役目は私、私のものだ!!」……うるさいなぁ」
案の定、レイチェルが興奮して俺に詰め寄る。
今度は口内炎にしてやろうかな。
「ぼ、坊ちゃまに個別授業……せ、性教育もありだよね? ぐふふ、お、お姉さんが手取り足取り……ハァハァ、ハァハァ!! たまんねぇぇぇーーーーーっ!!」
「ニーア、こいつ海に捨ててくか?」
「だ、だめです!! えと……あはは」
レイチェル、マジでアイシェラと同類だわ。
聖騎士ってのはこんなド変態ばかりなのかな。
すると、我に返ったレイチェルが咳払いをする。
「貴様の役目は護衛だ。いいか、砂漠やレッドルビー王国周辺には高レートの魔獣が多く出現する。Aレートのリヴァイアサンを屠った貴様なら問題ないだろうが、坊ちゃまをしっかり守れよ」
「あいよー……って、レートってなんだ?」
「そんなことも知らんのか……いいか、魔獣は全て『格付け』……つまり『レート表記』されている。最低はE、最高はSまで……いや、それ以上もあるが今はいい。それらは全て、『冒険者ギルド』の『魔獣対策部門』が格付けをしている」
「冒険者ギルド? 魔獣対策部門?」
「…………貴様、そんなことも知らんのか」
「しょうがねぇじゃん。千年前と全然違うし、つーか俺、村から出たことないし」
「「……千年前?」」
お、ニーアとレイチェルの声が被さった。
まぁ、別に隠すことじゃないし言ってもいいか。
「ああ。俺、千年間ずっと炎の中を彷徨ってたみたいでな、この世界のこと全然知らないんだ」
ニーアとレイチェルは、同時に首を傾げた。
◇◇◇◇◇◇
かくかくしかじか、うまうまがじがじ。
「……信じられん」
「地獄門の呪術師……ぼ、ぼくでも知ってます。天使様と戦争をして滅んだ、世界を呪う炎を使った人たちだって」
「俺、それの生き残り」
生け贄になったこと、炎に包まれたけど死ななかったこと、地獄門の中にあった宝石を吸収したら地獄の炎が消え、外に出たら千年経過してたことを伝える。やっぱり信じられないようだ……まぁそうだよな、俺だってよくわかってないもん。
でも、親切な焼き鳥や青いおばさんの力は確かに感じている。
「ま、俺はそういうこと。故郷も廃墟になって知り合いも誰もいないから、世界を回ろうと思って冒険中……ああ、今はプリムのためにお前をレッドルビー王国に届ける手伝いをしてるけどな」
「あ、あの、ぼく……今のお話」
「信じなくてもいいよ。俺はお前をじいちゃんの所に送るだけだからな」
「フレアさん……」
レイチェルは、ふんと鼻を鳴らす。
「確かに、貴様の素性はどうでもいい。貴様に求めるのは、命を掛けて坊ちゃまを守れということだけだ」
「はいはい。言われんでもわかってるって」
それにしても、砂漠かぁ……どんなところか楽しみだな。




