LAST BOSS・終滅神ジハド⑤/きみに贈る希望の言葉Ⅱ
ブラックオニキス王国でも、上空を見上げる者が多かった。
まず、女王ハンプティダンプティ。
「…………ふん」
つまらなそうに上空を見上げ、使用人の人間に言う。
「ワインを」
「は、はいっ」
人間は食料。
それがかつての考えだったが、フレアと戦い敗北してから改めた。
人間、獣人、天使を解放。仕事を与え、国から出る許可を与えた。
そして、国外と取引し、ヒトの食料などを輸入するようになった。もちろん血は飲むが、犯罪を犯した人間や、動物や魔獣の血だけを飲むようになった。
ハンプティダンプティは、ワインに凝っていた。
「……わらわを倒した男が、負けるわけがない」
「え?」
「なんでもない。それより、つまみにチーズを持ってこい」
「は、はい!」
使用人の女はぺこりと頭を下げ、部屋を出て行った。
ハンプティダンプティは、窓の外……上空を見る。
「…………この世を、終わらせるなよ。呪術師」
出てきた言葉は、意外にもフレアを応援する言葉だった。
◇◇◇◇◇◇
ツァラトゥストラの町では、呪術師オグロとジョカが、氷の城のバルコニーで空を見上げていた。
「世界の終わりかしらねぇ」
「どうだか。ま、終わるならいいけど……復讐も終わったしね」
「あらら。冷たいわねぇ」
ジョカは、げっそりしているツァラトゥストラを見た。
弱点の心臓を握られ、心身共に参っている。
今までの悪行のツケが回ってきた。ジョカはそう思っている。
「ね、応援しない?」
「え?」
「応援。どうせ暇でしょ?」
「……しないよ。面倒くさい」
「あんた、ほんとに変わったわねぇ。びくびくオドオドしてた頃が懐かしいわ」
「う、うるさい」
「ふふ、まぁいいわ。私はまだ死にたくないし、声援くらい送るけどね」
「…………ふん」
オグロはそっぽ向き、ジョカは空を見上げて言う。
「ふふ、負けちゃダメよ? 誰だって、まだまだ死にたくないんだから」
◇◇◇◇◇◇
真祖の吸血鬼ヴァルプルギウスは、自宅でのんびりお茶を飲んでいた。
そこに、使用人の吸血鬼オードレンが言う。
「主。いいのですか?」
「ん?」
「このままでは、世界が……」
「大丈夫じゃ。あの小僧が負けるわけがない」
「しかし……」
「ま、わしらはのんびり茶を飲みながら待つとしよう」
フレアの勝利を確信しているヴァルプルギウスは、特に空を見上げることなく茶を啜っていた。
◇◇◇◇◇◇
パープルアメジスト王国、モルガン整備工場。
モルガンとメイカの兄妹は、新型ゴーレムの開発と整備で大忙しだった。
「メイカ!! こっちのパーツは「そっちはこっちです!! 兄さんはいじらないで!!」す、すみません!!」
メイカに怒鳴られ縮こまるモルガン。
設計こそ得意だが、整備は苦手なモルガン。
上空に現れた敵に対抗するために、新型ゴーレムの開発を急ピッチで行っていた。
「待っててください、フレアさん!! この巨大ゴーレム『シラヌイ・摩天楼型」と『カミカゼ丸・竜巻型』で……!!」
工場にあったのは、全長二十メートル以上ある巨大な『犬』と『狼』のゴーレムだ。かつて特級冒険者にしてゴーレム開発者のラングラングラー博士が作った巨大ゴーレムより精密で、出力もある巨大ゴーレムがあった。
それを見上げる三人のゴーレムマスター。
「……あれ、オレたちが乗るのか?」
「……たぶん」
「だ、大丈夫でしょうか……」
モルガン整備工場専属のゴーレムマスター、ケイン、アルコ、エミリーの三人は、巨大ゴーレムを見上げながら言う。
「なぁ、こっちは任せて、フレアさんの応援しようぜ」
「応援って……」
「正直、コレでどうにかできると思わんし……」
「確かに……」
三人はヒソヒソ言いながら、こっそり外へ出た。
上空では、ボロボロのフレアが戦っている。
「フレアさん!! がんばれーっ!!」
「負けないでくださいっ!!」
「ファイトですっ!!」
「あんたらっ!! 稼働テストするからこっち来て!!」
「「「ひっ!?」」」
メイカに呼び戻され、三人はあっさり工場内へ戻された。
◇◇◇◇◇◇
グリーンエメラルド王国では、ナキが上空を見上げていた。
「フレア、ヤバいのと戦ってやがるな……クソ、負けんじゃねぇぞ」
仲間と共に、エルフ式の祈りを捧げる。
すると、すぐそばに大勢の龍人たちが並び、龍人式の祈りをささげた。
その後ろにいるのは、龍王ヴァルトアンデルス。
「へ、王様直々に来るとはね」
ナキが言うと、ヴァルトアンデルスはフンと唸る。
ここは、グリーンエメラルド中央にある、新しくできた村。龍人とエルフが開拓を始めた、新しい王国になる予定の場所であった。
龍人の支配が終わり、エルフや他種族が共に過ごす国造りを始めたのである。
ここに、龍王ヴァルトアンデルスが現れたのは、初めてのことだった。
「この世の終わりかもしれんのだ。どこにいようが、勝手だろう」
「あいよ。じゃ、祈ろうぜ」
「……祈りなど」
「無駄とは言わせないぜ。祈りや想いは届く。それがエルフの教えだからな……他種族と共存するなら、そういうところも勉強しな」
「……む」
ズケズケした物言いだった。
ナキがこんなに強く言えるのは、やはりフレアの影響だろう。
ナキは、もう一度空を見上げた。
「頑張れ、フレア……約束、忘れんじゃねぇぞ」
ナキは、もう一度祈りを捧げ、フレアの勝利を信じ願った。
◇◇◇◇◇◇
ホワイトパール王国、貧民街。
子供たちに囲まれ、メテオ和尚はウンウン頷いた。
「気張れよフレア……世界は、おぬしにかかっているぞ」
貧民街は、少しずつホワイトパール王国からの支援が入るようになった。
住まいが整備され、炊き出しも始まった。
和尚も、子供たちから好かれ父親のような存在になりつつあった。
この子供たちの未来、平和が、フレアにかかっている。
「さぁ子供たち!! フレアを応援しようぞ!! 声を出して!!」
「「「「「フレア!! がんばれーっ!!」」」」」
「うむ!! フレア、がんばれーっ!! わっはっはっはっは!!」
子供たち、そして和尚の叫びが響き渡った。
◇◇◇◇◇◇
ホワイトパール王国の王城では、ウィンダー国王と前国王が並んで空を見上げていた。
「う、わわ……ち、父上、どうしましょう!! に、逃げ」
「逃げるのは最後だ。ウィンダー、王の責務を全うしろ」
「えええ!? いや、王が、王族が逃げるのが最初じゃ」
「違う。王は最後、国の最後を見届けるという役割がある。王族なんて、国を最初に作った者の血縁と言うだけだ。民がいれば、それだけで『国』となる」
「そ、そんな無茶な」
「それに……もう、逃げ場などない」
「うぅ……」
ウィンダーは、今にも泣きそうな顔で空を見上げた。
「ああもう!! ま、負けるなよ!! プリマヴェーラの護衛!! 負けるなよ!!」
「ほう、応援とは。ふふ、なかなかいうじゃないか、ウィンダー」
「いや、なんというか、勝手に出たというか」
「ははは。ウィンダー、国を想うならもっと声を出せ。お前が声を出せば、国民も声を出すだろう」
「……そう、かな」
「うむ。王として成長しろ、ウィンダー」
「…………でも僕は、家族を」
「それは許されることじゃない。だが、成長とは別の問題だ」
「…………」
ウィンダーはキッと空を見上げ、叫ぶように声を振り絞った。
フレアを応援する声は、世界中から響き始める。




