LAST BOSS・終滅神ジハド③/たとえ声が届かなくても
ボロボロだった。
魔神器は砕け、全身血まみれ。
気持ちでは負けていないが、それでも劣勢……敗色濃厚だった。
プリムたちは、空を見上げる。
ジハドの力なのか、上空にフレアが見える。だが、実態があるのではなく、透き通った映像のような物がみえた。
そこに、空を埋め尽くすほど多い銀の量産型天使。フレアを襲い、ボロボロになりながら迎撃する。
さらにジハドが接近。フレアを殴り、吹き飛ばす。
転がったフレアに向け、光線が照射される。フレアは地面を転がって回避するが、息も絶え絶えで動きが鈍い。
何発か光線を喰らい、血が出た。
『ぐ、あぁぁっ!?』
「フレア!!」
プリムが叫ぶが、声は届かない。
涙が止まらず、祈るように両手を握ることしかできない。
隣にいたカグヤも、歯ぎしりしていた。
「ねぇ!! あそこに行けないの!? あんな天使、アタシがブチ殺してやる!!」
「無理よ。行けるならとっくに行ってる……あそこに見えるだけで、あそこにいない。どういう原理なのか知らないけど……」
ミカエルも、悔しがっていた。
「にゃん……あいつ、ヤバいにゃん」
「フレアが、あそこまでやられるとは……」
クロネとアイシェラは青ざめていた。
いつも見ていたからわかる。フレアは強い……間違いなく、この世界で最強だ。だが、新たに生まれた神は、そのフレアすら圧倒していた。
フレアを除いた、この世界全ての戦力が集まっても勝てるかどうか……いや、決して勝てない。
文字通り、フレアが負ければ世界は滅びるだろう。
「我々は、何もできないのか……」
「にゃあ……」
空を見上げ、アイシェラとクロネは茫然としていた。
◇◇◇◇◇◇
聖天使教会でも、フレアの戦いを見ていた。
上空に現れたのは、異形の黒い神。アメン・ラーたち三柱とは違う姿。
だが、持っている力は、聖天使教会……いや、全ての天使が終結しても、まるで歯が立たない力。
まさに、世界を終わらせ、滅するという名にふさわしい神だ。
アルデバロンは、上空を見つめたまま言う。
「この世の終わり、または始まりか……」
「あわわわわわ……どどど、どうしましょうアルデバロン様ぁぁぁっ!!」
ズリエルが慌てる。だが、アルデバロンは落ち着いていた。
「もはや、我々にできることはない。呪術師ヴァルフレアが勝つか、終滅神ジハドが勝つか……」
「うぅ……結婚したかった」
「「この、馬鹿垂れ!!」」
「あいっだぁぁぁっ!?」
いつの間にかいたジブリールとガブリエルが、ズリエルをブッ叩いた。
吹っ飛ぶズリエル。壁に激突してピクピクしていた。
「アルデバロン、あんた……新しい聖天使教会を、天使の歴史を始めるんじゃなかったのかい? 諦めるなんてあんたらしくないね」
「全くだ。アルデバロン、あたしらにもできることはあるんじゃないかい?」
「何……?」
「あ、あの……なんで私を叩いたんですか?」
聖天使教会の後ろには、天使の町ヘブンがある。
これだけの騒ぎ。今頃、階梯天使たちが治安維持に走っているはずだ。
アルデバロンは、フッと笑った。
「そうだな。我々にも、祈りを捧げるくらいはできよう……くくくっ、呪術師に世界の未来を託すことになろうとはな」
「それでいい。たとえ戦えなくても、祈ることくらいはできる」
「届かなくても、声援くらいは送れるさね」
ジブリールとガブリエルは、アルデバロンの背中をバシッと叩いた。
アルデバロンは、頷く。
「ズリエル、ヘブンに住まう全ての天使に伝えろ。呪術師ヴァルフレアの勝利を祈り、声を送れと。我々天使はこの世界を守護してきた。どんなことでもすべきだと、な」
「あ、アルデバロン様……」
「ズリエル。生き残ったら……メシを奢ってやる。任せたぞ」
「は、はいぃぃぃっ!!」
ズリエルは立ち上がり、天使の翼を広げて窓から飛んで行った。
そして、上空を見上げ、叫ぶ。
「呪術師ヴァルフレア!! 絶対に負けるなよ!!」
声は届かない。
でも、伝えることはきっと、間違っていない。




