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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第十四章・炎の彼方へ

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それは、究極の悪意にして救い

 俺は、先生たちに言った。


「先生、ラルゴおじさん、ヴァジュリ姉ちゃん、マンドラ婆ちゃん……あのさ、ちょっとだけでいいんだ。俺と……話してくれないか?」

「なに?」

「俺、みんなに話したいんだ。俺が生き返った後、どんな冒険をしたのか……どんな戦いをしたのか」


 俺の旅を、聞いてほしかった。

 俺の歩みを、成長を伝えたかった。

 戦いは終わった。でも……そのくらいの時間は、残ってる。

 先生は、どっかり座る。


「聞こう」

「先生……」

「ふふ。フレアのお話、聞きたいわ」

「ヴァジュリ姉ちゃん」

「酒があればいいんだがな!」

「ラルゴおじさん」

「ひひひ。あの世にいる連中に、いい土産話を持ってけそうじゃ」

「マンドラ婆ちゃん……ありがとう」


 温かい気持ちを胸に、俺は座る。

 ラルゴおじさん、ヴァジュリ姉ちゃん、マンドラ婆ちゃんも座った。

 何もない真っ白な空間だけど……今だけ、昔に戻れた。


「俺さ、地獄の業火で焼かれ続けて、身体はなくなっちゃったんだけど……魂だけで耐えれたんだ。ってか炎に慣れちゃってさ。地獄門の中を探検したら、七つの魔王宝珠を見つけたんだ。それを取り込んだら地獄炎が消えちゃってさ……地獄門の外に出れたんだ。んで、気付いたら千年経ってた」

「知ってはいたが、本人から聞くととんでもない話だな……」


 先生は苦笑する。

 先生のこんな顔、すっごく久しぶりに見た。


「で、村を探して歩いてたら、プリムって子とアイシェラって変なやつが襲われててさ、助けたんだ。その時、第一地獄炎が目覚めて、地獄炎が宿ってることに気付いたんだ」

「まぁ、女の子?」

「うん。お姫様と女騎士」

「ふふ、女の子ね。その子たち、かわいい?」

「プリムはかわいいけど、アイシェラは……変なヤツすぎてかわいいとか思ったことないなぁ」

「そ、そうなんだ……」


 ヴァジュリ姉ちゃんが苦笑する。


「それでさ、ブルーサファイア王国に行くことになって、いくつか町を経由して……初めて天使と戦ったんだ。小デブ天使」

「ほう、天使か」

「うん。あんま強くなかった。黒焦げにして、呪い食らわせてやった」

「かっかっか!! まぁ、そんなもんだろ」


 ラルゴおじさんが笑う。


「それと、ブルーサファイア王国に向かう途中の船で、ラーファルエルってクソ天使が襲ってきてさ……空は飛ぶし、速いし、けっこうヤバかったかも」

「ひひひ。呪術師は第五地獄炎じゃないと飛べないからねぇ」

「そうそう。いやーヤバかった。でも、第二地獄炎のおかげでなんとかなったよ」


 マンドラ婆ちゃんも、笑っていた。

 俺は、俺の旅路を話す。

 先生たちに、俺の話を聞いてもらいたかった。


 俺は、この瞬間───生き返って最高の幸せに包まれていた。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 次元のはざま、その外側。

 プリムたちは聖天使教会跡地にいた。

 天使の国ヘブンでは、聖天使教会本部の消滅や、浮遊神殿について天使たちに説明がされたり、アルデバロンが『人間への干渉をやめ、今後は同士としての道を進む』と言い出した。

 階梯天使には納得しない者も多く、聖天使教会から離反する者も多かった。

 だが、一般の天使には以外にも……『人間の国に行きたい』という者も多かった。

 ヒトと、天使は共存できる。

 

 ラティエルは、ヒトと天使が共に歩む道に協力するため、聖天使教会へ戻った。

 そこに、ダニエルとコクマエル、他の堕天使たちも多くいた。ちなみに……最後の黒天使であるマキエルとラハティエルは、いつの間にか消えていたそうだ。

 プリムたちは客人として、聖天使教会跡地に作った小屋にいた。

 もちろん、フレアを待つため。

 カグヤは小屋を出て、空を見上げる。


「ったく、遅いし……いつまでやってんのよ」


 カグヤが、上空に浮かぶ『次元のはざま』入口を見る。

 フレアが次元のはざまに入り、一日が経過していた。

 小屋には、プリムとアイシェラ、クロネ、ミカエル、ハクレン、ハイシャオ、そしてカグヤがいる。

 ナキは『女ばかりで落ちつかねぇ。ま、フレアにはいつでも会えるし、こっちの復興もあるだろうし仲間連れてくるわ』と言って、エルフの森に帰ってしまったのだ。

 すると、カグヤの隣にミカエルが。


「あそこの中、時間の流れが違うみたい。あそこでは一瞬でも、こっちの時間じゃ何日も経過する……なんてこと、あるみたいよ」

「じゃあなに? もうもう二度と会えないかもしれないってこと? アンタは天使だからそんなこと言えるけど、アタシらは」

「安心して。あたしはもう、天使の力を失ったから」

「え……」


 ミカエルの背中に、翼はない。

 アルデバロンたちとの戦いが終わった後、全て抜け落ちてしまったのだ。

 天使の力、命を燃やし尽くした一撃を放ったことで、搾りかすのような状態だ。

 カグヤは顔を反らす……そして。


「……ごめん」

「いいの。もう吹っ切れたし……それに、あたしは『最強の炎』を見つけたしね。ま、あんたらと一緒に最後まで待つわ」

「……大丈夫なの?」

「ええ。寿命もほとんど燃やし尽くしたから、あと百年も生きられないでしょうね。でも、人間の寿命もそれくらいでしょ? 同士として、最後までよろしくね」

「……ええ」


 カグヤは、ミカエルの手をそっと握る。


「な、何よ……あたし、そっちの趣味はないわよ」

「違うっての! 仲直りの握手よ!」

「……ぷっ、へんなやつ」


 ミカエルは笑った。

 強さを追い求めていた時とは違う、穏やかな笑みで。

 すると、お菓子を作っていたプリムたちが外へ出てきた。


「二人とも、クッキーが焼け───……」


 ◇◇◇◇◇◇




 それは、黒い塊だった。

 ヒトの形をした黒い何か。よく見るとそれは黒ではなく、黒く焼け焦げた何かだった。

 もう一つは、砕けた岩の塊。

 もう一つは、凍り付いた何か。

 黒い何かが、その二つを虹色に燃やした。


『もう、どうでもいい』


 くぐもった声が、上空に響く。


『もう、いらない』


 それは、悪意。

 それは、殺意。

 それは、それは、それは。恨み。


『こんな世界、もういらない。僕らももう、いらない。ぜんぶ滅ぼして、全部終わらせてやる』


 空の色が、黒く変わる。

 強大な力が、世界中を包み込んだ。

 純粋無垢な『力』だけが、溢れていた。




 ◇◇◇◇◇◇


 プリムたちは、完全に思考停止していた。

 上空に浮かぶ『何か』があった。

 真っ黒、氷漬け、砕けた何かだった。

 ミカエルが、真っ青になり……搾り出すように言う。


「か、神……? うそ、なんで? フレアに倒されたはずじゃ」


 アメン・ラー

 トリウィア。

 黒勾玉。

 フレアに焼き尽くされ、消滅したはずだった。

 落下場所を探したが、何もなかったとの報告もあった。

 黒い何かの声が、世界中に響く。


『すべてを「終」わらせ、全てを「滅」する……まずは、貴様らだ、地獄炎の呪術師』


 黒い何かは、次元のはざまに入っていく。

 狙いは、フレア。

 プリムは、震える声で言った。


「ふ、フレア……フレアぁぁぁぁっ!!」


 その声は、決して届かない。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
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― 新着の感想 ―
[一言] 生きとったんかワレェ!? あと3巻の表紙のミカエルいいですねぇ
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