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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第十四章・炎の彼方へ

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大好きな人たち

 そこは、なんとも言えない……真っ白な、ふわっとした空間だった。

 真っ白。でも、地面はあるし、呼吸もできる。

 純白というか、やや曇りがかった白というか。妙な空間だ。

 すると、胸に黒い炎が灯り、タケジザイテンの声が聞こえてきた。


『フレアくん。ここは僕ら地獄炎の魔王が、アメン・ラーたちを閉じ込めた空間だ。奴ら……長い時間をかけて内側と外側を繋ぎ、自分たちにとって居心地のいい空間に変えたみたいだね。恐らく、外で活動するための器を作ったのもここだろう』


 なるほどね。

 意外なことに、居心地がいい。昼寝とかするのに最適な空間だ。

 俺はキョロキョロしながら歩く。


「先生たち、いるのかな……」


 口に出すが、確信していた。

 先生たちは、きっとここにいる。

 俺は、胸が熱くなるのを感じていた。


「…………」

『……どうしたの?』


 腰に紫の炎が灯り、ティル・ナ・ノーグが話しかけてきた。

 炎は大きくなり、人形を抱いた少女がふわりと浮かぶ。


「……先生たちに会えたら、話したいな」

『戦うんじゃないの?』

「戦うさ。戦う……でも、話をしたい」

『……フレアが、そうしたいなら』


 ティル・ナ・ノーグは俺の周りをクルクル飛び、真正面へ。


『フレア、負けないで。それと、後悔しちゃダメだよ?』

「ああ、ありがとな」


 撫でようと思ったが、幻なので手がすり抜けてしまった。

 でも、ティル・ナ・ノーグは嬉しそうに微笑み、消える。


「…………」


 俺は拳を強く握り、前へ進む。

 そして、十分も歩いただろうか……見えた。


「……あ」


 まるで、待ち構えているかのように並び立つ四人。

 全員が、戦闘態勢だというのがわかった。

 俺は、胸にこみ上げてくるものを必死に抑える。


「マンドラ婆ちゃん、ラルゴおじさん、ヴァジュリ姉ちゃん……」


 歯を食いしばり、精一杯の睨みを返す。

 そして、最後の一人。


「……先生」


 俺の師匠、育ての親……俺が習った全ては、先生がくれたもの。

 タック先生。


「お前が来たということは、神は敗北したようだな」


 先生は、聞いたことのない硬い声だった。

 ああ、わかる。今なら全部、全部わかる。

 俺は歩みを止めず、ゆっくりと……前に進む。


「ワシらとのケリを付けに来たということか」

「だな。神が倒れたってんなら、最後の敵はオレらで違いねぇ」

「ヒヒヒ、まさか、最後の相手がフレアとはねぇ」

「……フレア」


 タック先生、ラルゴおじさん、マンドラ婆ちゃん、ヴァジュリ姉ちゃん。

 俺は、止まらない。

 先生の拳の射程内に入っても、止まらない。

 だって……先生は、先生たちは。


「フレ「もう、いいって!!」


 俺は叫ぶ。

 熱い何かが、喉から吐きだされる。

 目頭も熱くなる。何かが零れ落ちたような気がした。


「もう、わかってるんだ!! 先生たち、俺の知ってる先生たちのままなんだろ!? 冷たいふりしてもわかる!! 先生、ラルゴおじさん、マンドラ婆ちゃん、ヴァジュリ姉ちゃん……俺の知ってる、みんなのままなんだろ……?」

「「「「…………」」」」


 はぁ、と……ラルゴおじさんがため息を吐いた。


「タック、もういいだろ? 神はやられちまったようだしな」

「……ああ」

「え……あっ」

「フレア……っ」


 ヴァジュリ姉ちゃんが、俺に抱きついてきた。

 泣いているのがわかった。身体を震わせ、俺を抱く両腕に力を込める。


「ごめんね、ごめんね……神を倒すまで、逆らうことができなかったの」

「え……」

「ヒヒヒ……すまなかったね。でも、お前が神を倒したことで、ようやく支配から逃れられた。あいつらの道具に成り下がったアタシらを、許しておくれ」

「マンドラ婆ちゃん……」


 ヴァジュリ姉ちゃんは俺から離れ、額にキスをする。


「フレア、大きく、強くなったわね……」

「姉ちゃん……ほんとに、姉ちゃんなんだ」


 ヴァジュリ姉ちゃんは、柔らかく微笑む。

 すると、いつの間にか煙管に火を点けたラルゴおじさんが言った。


「フレア、本当に悪かったな。一度死んだオレらを、アメン・ラーが蘇らせた。身体を与えられ、本来の意思とは別の意思を与えられた。なんとか本来の意志を保つことはできたけどよ……まぁ、お前が神を倒したおかげで、本来の意志を表に出せた」

「そうだったんだ……」

「ま、多少は自分の意志を出せたがな」

「先生もなの?」

「……ワシは少し違う」


 先生は、俺をジッと見て微笑んだ。


「神には、一つだけ感謝しなきゃならんな」

「え?」

「こうして……お前に、最後の稽古を付けてやれる」

「……え?」


 マンドラ婆ちゃんは悟ったように、ヴァジュリ姉ちゃんは悲し気に、ラルゴおじさんは辛そうに離れて行く。俺はわけがわからず、先生を見た。

 先生は、優しさが消えていた。


「せ、先生……?」

「構えろ、フレア」

「な、なんで? 稽古って、ここで? そんなの、外に出てからでいいじゃん!! だって、神様はもう倒したんだ。先生たちは自由なんだよ!? また一緒に」

「無理だ」


 先生は、バッサリ切り捨てた。

 そして、左手をそっと持ち上げてみせてくれる。


「この身体は、もう限界が近い」

「な……」


 先生の手は、黒く変色して亀裂が入っていた。


「神は、ワシらを捨て駒にするつもりだったようじゃな。まぁ、恨みに恨んだ地獄炎の使い手だ。神の作る新世界、新人類に、ワシらの場所はなかったようじゃ」

「そ、そんな……そ、そうだ!! 第四地獄炎、天照大神なら」


 先生は、静かに首を振る。

 

「ワシらは、もう死んだ人間じゃ。こうしてお前に会えただけで幸せだ」

「う、うぅ……い、嫌だ、嫌だ!! なんで、なんでだよ!? そんなこと言うなら俺だって、俺だって死人みたいなモンだ!! だったら」

「フレア!!!!!!」

「ッ!!」


 先生は構える。

 甲の型……俺が初めに教わった、呪闘流の型で。


「お前は生きている。未来を歩む義務がある!! だからここで……過去を乗り越えろ!! ワシを越えろ!!」

「…………ッ!!」


 俺は目頭を拭い、構えを取る。

 同じ型で、先生の教え全てを思い出しながら。

 俺は、叫ぶ。


「呪闘流甲種第三級呪術師ヴァルフレア!! 先生……あなたを、超えさせてもらいます!!」

「呪闘流皆伝『地獄門守護神』タック……さぁフレア、かかって来い!!」


 燃え滾る熱い想いを拳に乗せ、俺は走り出した。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
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― 新着の感想 ―
[良い点] こういう簡単に割り切れるわけじゃなく、救いたい気持ちが最後まであるフレアが好きです [一言] 4人共消えちゃうんかなぁ… タック先生はダメそうだけど
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