次元のはざま、その向こうに
アメン・ラーたちを倒すと、浮遊神殿が静かに落下……聖天使教会跡地に着陸した。
量産型天使は消滅。残りの十二使徒や階梯天使たちも負けを認めたようだ。
そして、大勢が浮遊神殿に集まってきた。
俺は、集まってきたみんなを出迎える。
「よ、勝ったぞ」
「「「「「「軽い!!」」」」」」
「うおっ」
プリム、カグヤ、クロネ、アイシェラ、ナキ、ミカちゃんが一斉にツッコむ。
そして、シラヌイが飛び掛かってきたのでキャッチ。思いきり撫でまわした。
『きゅぅぅぅん』
「よしよし。おーおー、こんなボロボロで……頑張ったな」
『わんわん!!』
シラヌイは嬉しそうに鳴いた。
さて、集まったメンツだが……なんか多いな。
「それにしても、いっぱいいるな。おいダニエル、みんな紹介してくれよ」
「おま、ここでオレに振るのか!? まぁいいけど……」
ダニエルが全員を紹介する。
えーと、この場にいるのが聖天使教会のアルデバロン。その部下のジブリールとガブリエルにズリエル。ボロボロのハイシャオにハクレン。堕天使のコクマエルにアブディエル。黒天使のマキエル、ラハティエルか。それと俺の仲間たちだな。
アルデバロンが、俺の前に出る。
「神を倒したのだな」
「ああ。どうする? あんたも俺とやるか?」
「……やめておこう。オレでは絶対に勝てん。ふふ、最強の炎か……ミカエル、お前の言った通りだ」
「ふん、当然でしょ」
「???」
よくわからん。
すると、アルデバロンは言う。
「ジブリール、ガブリエル、ズリエル。我々は階梯天使たちをまとめるぞ。これから新しい時代がやってくる……我々天使もまた、変わらねばならん」
「やれやれ、年寄りを酷使しおって」
「まぁ、悪くないけどねぇ」
「え。え、え……わ、私も? え。ダニエル先輩、あの」
「すまん、アルデバロンの旦那には逆らえん」
「えェェェェェェェェ!?」
アルデバロンたちは、階梯天使をまとめるべく去って行った。
なんとなくだけど、天使はこれから変わっていく気がする。
そして、ハイシャオ。
「兄貴……行くの?」
「ああ。ケリつけないとな」
振り返ると、浮遊神殿に空く巨大な穴……神が作った異空間がある。
この奥に、先生たちがいる。
「兄貴……」
「お前、負けたんだろ?」
「……わかる?」
「ああ。で、大丈夫なのか?」
「……まぁね」
ハイシャオは笑った。
負けたことで得るものがあったんだろう。ハイシャオはカグヤをチラッと見る。カグヤはフンと鼻を鳴らしてそっぽ向く。
「あたし、兄貴の帰り待ってるから。強者を求めて旅へ! なーんて展開にはならないから安心してね。妹として、家族として……待ってるから」
「……おう」
家族か。
ハイシャオ。こいつも寂しかったのかな。
千年前の人間は、もう俺とハイシャオしかいない。こいつが兄貴を求めてるなら、応えてやってもいいかな……なんて思う。
「お兄ちゃん」
「ハクレン、お前もご苦労さん」
「うん……」
ハクレンを撫でてやると、顔をほころばせる。
こいつもまとめて面倒みてやるか。へへ、俺が兄貴ねぇ。
ハクレンをハイシャオに渡し、堕天使たちを見る。
「ダニエル、おつかれさん」
「おう。あ~酒飲みたいぜ」
「ラティエルも」
「うん」
「アブディエル」
「……私は、自分の仕事をしただけ」
「えっと、コクマエル」
「あはは。いや~疲れたよ」
堕天使たちは相変わらずだな。ま、無事でなにより。
そして、幼女を連れてる糸目の天使……こいつ、誰だろう?
「ああ、ワタクシは傍観者なのでお気になさらず」
「おなか、へった」
「お、おお」
よくわからん。まぁいいや。
そして、仲間たち。
俺はプリムたちを前に、ちゃんと言う。
「みんな。俺たちの旅はここでおしまい。俺……あの中にいる先生たちと、ケリつけてくる」
「……やはり、行くのだな」
「ああ」
アイシェラ。
アイシェラは、俺の前に立つ。
アイシェラはボロボロだった。怪我とかは治療されているが、傍らに控えるブルーパンサーは傷だらけで、激戦だったことがわかる。
「私からは一つだけ……死ぬな」
「ああ」
「フン、お前が死んだらお嬢様が悲しむ。それと……私も」
「え、お前も?」
「……察しろ、馬鹿め」
「はいはい。なんだかんだで、ずっと一緒だったもんな。アイシェラ、お前はプリム好きの変態だと思ってるけど……俺、お前のこと好きだぞ」
「やめろ。私はお嬢様命だ……まぁ、私も嫌いではない」
「ああ、ありがとな」
「……ふん」
アイシェラと軽く手を合わせた。
そして、クロネ。
「にゃん」
「クロネ。ここまでありがとな」
「にゃん。最後かもしれないし……うちの身体触ったこと、許してやるにゃん」
「お、ありがとよ」
「……ちゃんと帰ってくるにゃん」
「ああ」
クロネはそっと寄り添い、俺の胸に頭を擦りつけた。
頭を撫で、ネコミミを優しく揉むと、クロネの喉がゴロゴロなる。
俺から離れ、アイシェラの後ろへ隠れてしまった。
そして、ナキ。
「さっさと終わらせてこいよ。んで、メシ食おうぜ」
「お、いいな。やっぱ肉かな?」
「ああ。肉でも魚でも何でもいい。へへ、奢ってやるよ」
「ありがとな」
「おう……負けんじゃねぇぞ」
「ああ」
ナキとハイタッチ。
そして、ミカエル。
「行きなさい。そして、決着を」
「ああ。全部終わらせる」
「ええ。終わったら……」
「ん?」
「終わったら、ちゃんと帰ってきて」
「はは、当たり前だって」
「……待ってるから」
ミカエルは、俺の肩に頭を寄せる。
今気づいた。ミカエルの翼がない……それに、天使としての力をほとんど感じない。
まるで、布一杯に吸い込んだ水を、限界まで絞り出したような状態。
「…………っ」
何かを言おうかと思ったけど、やめた。
きっとミカエルは、限界まで力を出したんだ。それでいい。
ミカエルの頭を撫で、言う。
「ありがとな、ミカちゃん」
「ミカちゃん言うな、馬鹿」
そう言って、ミカエルは笑って離れた。
入れ替わるように、カグヤが前に出た。
「死んだら殺す。死にたくなかったらさっさと行ってさっさと帰ってきなさい」
「おま、相変わらずすぎだろ……逆に安心するぞ」
「ふん。アタシはアタシよ。でもね、自分の信条を曲げても、アンタには死んでほしくないの」
「……お前、ほんとにカグヤか?」
「どーいう意味よ!!」
ぷんすか怒るカグヤ。
カグヤの蹴りを躱し、俺は拳を突き付ける。
「お前とも決着ついてないしな。速攻で戻ってくる」
「ええ。それと、アタシに勝てたらいいものあげる」
「お、なんだ?」
「いいものよ。アンタに相応しいもの……」
「?」
「と、とにかく!! 負けたら殺す!! 以上!!」
「いでっ!?」
カグヤは俺の胸を叩き、耳まで赤くしながら引っ込んだ。
最後に───……プリム。
「フレア」
「おう」
「頑張ってください。わたし……待ってますから」
「ああ」
プリムは俺の手を握り、温かな光で包み込む。
怪我が綺麗に治り、体力も回復したような気がした。
そして、俺の手を引き……唇に温かかく柔らかな物が触れた。
「えへへ、しちゃいました」
「びっくりした……お前、やるな」
「はじめてのキスです。フレア、大好きです」
「ああ、俺も好きだぞ」
「……えへへ」
プリムはぽろぽろ涙を流す。
俺は頭を撫で、目を拭ってやった。
「みんなと待っててくれ。ちゃんと帰ってくるからさ」
「……はい」
プリムをアイシェラに任せ、俺は拳を打ち付ける。
振り返ると、次元のはざまが見える。
空間に空いた亀裂。この先に先生たちがいる。
「っしゃ!! じゃあ、行きますか!!」
俺は気合を入れ、次元のはざまに飛び込んだ。




