BOSS・呪闘流八極式鋼種第一級呪術師ハイシャオ②
「神風流、『流星杭』!!」
カグヤの流星のような飛び蹴りが、ハイシャオを狙う。
だが、カグヤは呪符を取り出した。
「『硬くなれ』!!」
「チッ……」
呪符に込められた呪力が発動。カグヤの身体が鉄のように硬くなる。
カグヤは棍を無視し、ハイシャオめがけて前蹴りを繰り出した。
ハイシャオは、絶妙な体捌きでカグヤの蹴りを躱し、距離を取る。
憎々し気にカグヤを睨んで言った。
「呪符、何枚もらったのよ」
「そりゃもう山ほどね。アイツ、身体強化系の呪力を込めた呪符を何枚もくれたのよ。アタシとミカエルのぶんってね……相手は呪術師や神様だし、用意するに越したことはない、ってさ」
「……うっざ」
ハイシャオの呪術は、フレアの持たせた呪符が身代わりとなり無効化される。初めからミカエルかカグヤが戦うことを想定していたようだ。
呪術は、もう期待できない。
ハイシャオは深呼吸し、棍をクルクル回す。
「ガチでやってあげる」
「そりゃ光栄ね」
カグヤも、右足を軽く上げて構えを取った。
ハイシャオは、カグヤに聞く。
「あんたさ、兄貴のこと好きなの?」
「…………」
カグヤは、答えず走り出した。
◇◇◇◇◇◇
最初は、ムカつくやつだった。
水浴びをしていたカグヤの前に現れた。只者じゃないと一瞬でわかった。裸ということも忘れ襲い掛かった……今思えば、恥ずかしい。
「裏神風流、『孤高狼月』!!」
「鋼の型、『鉄鋼時雨』!!」
砂漠でタイマンを挑んだ。
そして敗北。リベンジを誓い同行することにした。
それからは、面白いことの連続だった。
天使との戦い、魔法使いの国でダンジョンに挑み、吸血鬼の国では死にかけた。パープルアメジスト王国ではゴーレムと戦い、エルフの国でも戦いの連続。
そのすべてに、フレアがいた。
いつの間にか、心を許して背中を任せていた。
一人の戦力、一人の人間、そして……一人の男として、信頼していた。
好きか嫌いかで言えば、間違いなく好きだ。
「鋼の型、『鎖錠鞭』!!」
「ぐっ!?」
フレアは、空に浮かんでいる『浮遊神殿』で、神様と戦っている。
神に天使。物語の住人のような相手が、敵なのだ。
そして、自分が戦っているのは呪術師。
「捕らえたっ!!」
「ぐぁっ!?」
カグヤの足に鎖が絡みつく。
地獄炎を帯びた鎖がカグヤの足を焼く。カグヤは舌打ちし、足を巨大化させて鎖を引きちぎった。
そして、地面を思いきり踏みつける。
「裏神風流、『地震割断』!!」
地面が割れ、地面から生えていたハイシャオの鎖が全て取れた。
ハイシャオは飛び上がり、カグヤに向かって棍を投げつける。
「っと!?」
「滅の型、『打厳』!!」
「がっ!?」
「甲の型、『鉄心甲』!!」
「ぐえっ!?」
腹に強烈な拳が叩き込まれ、そのまま肘打ちが入る。
カグヤは吐血。だが、歯を食いしばって耐え、横薙ぎの蹴りをハイシャオの側頭部へ。
だが、ハイシャオはほんの少しだけ首をひねって回避。
カグヤはそのまま勢いを付け、もう一度蹴りを喰らわせる───が。
「流の型、『漣』」
「!?」
蹴りにそっと手を添えられ、軌道を捻じ曲げられた。
ハイシャオが地面を踏むと、土から鉄棍が生成される。
「シッ!!」
「あがっ!?」
バチン!! と、鉄棍で顔を殴られた。
痛みで一瞬思考が飛ぶ。だが、気合で意識を保つ。
「ぐ、っは……」
強い。
近接戦闘は、フレアに匹敵する強さだ。
基礎四大行を使いこなし、カグヤの攻撃を躱しては反撃をする。
ハイシャオは、本気だった。
「あんたは強いよ。あたしが戦ってきた中で一番……でも、あたしが勝つ」
「ふざ、けんなっ……」
カグヤは折れない。
ハイシャオは、カグヤの胸元にある呪力を感じ取る。
呪術を込めた拳を喰らわせるたびに、呪符が消滅しているのがわかる。
恐らく、あと数回。数回攻撃を与えれば、呪符は全て消滅する。
その時が、カグヤの終わりだ。
「あんたの攻撃パターンは全て読んだ。足技をこれほどまで使いこなすなんて、呪術師の村でもいなかった」
「はぁ、はぁ、はぁ……アァァァァァッ!!」
「でも、もうおしまい」
「ご、がっ、がっ!?」
スパパパパン!! と、高速の打撃がカグヤの全身を叩く。
呪符が全て燃え尽きたのを確認。同時に、カグヤが膝をついた。
ハイシャオは、鉄棍を手に取り、最後の一撃を叩き込む。
第三地獄炎を最大まで燃やし、カグヤを完全に消滅させる。
「さよなら、カグヤ。あんたは強いけど、兄貴に相応しくはなかったね」
「…………」
そして───第三地獄炎を纏った鉄棍が、カグヤに触れた。
その瞬間、カグヤの全身が一気に燃え上がる。
ハイシャオは振り返り、フレアのいる浮遊神殿を見上げた。
「さて、兄貴を追わないと」
◇◇◇◇◇◇
「───まだだよ」
「え?」
◇◇◇◇◇◇
幼い声が聞こえた。
ハイシャオが振り返ると───目の前に何かがあった。
「だらぁぁぁっ!!」
「ぶがっ!?」
それは、カグヤの足の裏。
強烈な飛び蹴りが、ハイシャオの顔面に突き刺さった。
たたらを踏み後退するハイシャオ。だが、カグヤは止まらない。
「神風流、『夜叉風車』!! 『凪打ち』!! 『連牙弾』!!」
回転踵落とし、側頭部への蹴り、全身を狙った蹴りの連撃が叩き込まれる。
まだカグヤは止まらない。
「神風流第一奥義、『旋風・椋鳥ノ嵐』!!」
接近して飛び上がり、これでもかと蹴りを浴びせる。
それでも、カグヤは止まらない。
「アァァァァァ───ッ!!」
滅茶苦茶に蹴りまくった。
どんな技を使ったのかもわからない。
ハイシャオを、全力で蹴った。
そして、息も絶え絶えになり……ようやく止まる。
地面に転がったのは、全身骨折でピクリとも動かないハイシャオだ。
ハイシャオは、まだ意識があった。
「ど、して……」
「……勝負に横入りするやつは許さないけど、その信条を曲げたわ。今は、アンタをフレアの元へ行かせるわけにはいかないからね」
「……え」
カグヤの背後からひょっこり現れたのは、真っ白な呪闘衣を纏った少女。
「は、くれ……ン」
「ごめん、ハイシャオ。お兄ちゃんのためなの」
第四地獄炎の使い手、ハクレン。
ずっと姿が見えなかったが、今の今まで潜んでいたのだ。
もしもの場合の切り札として。仲間を救う《治療薬》として。
カグヤが燃やされた瞬間、第四地獄炎で瞬間的に治療したのだ。
カグヤはハクレンが現れた瞬間、迷った。勝負の邪魔をされるのは許せない……だが、フレアの元にハイシャオを行かせるわけにもいかない。
だから、曲げてしまった。
勝ったのに、カグヤは悔しそうだった。
「お願い。コイツを治して」
「いいの?」
「ええ」
「わかった。死なない程度に治しておく」
真っ白な炎が、ハイシャオを包み込む。
カグヤは、歯を食いしばりながら言った。
「仕切り直しよ」
「……え」
「今度は、邪魔が入らない場所で。本気で勝負しましょ」
「……」
まっすぐな目で、カグヤは言った。
そのまっすぐさが、ハイシャオには眩しかった。
こんな風に、純粋に戦いを楽しむなんて……。
「……あは」
ハイシャオは負けを認め、そのまま目を閉じた。




