お届け者の皇子さま
ギーシュが案内してくれたのは、見晴らしのいい高台にある家だった。
俺はベランダに出る。すると、港やさっきまでいた小屋がとても小さく見えた。
「すっげぇ……海、それに町。知らない世界ってこんなに感動するんだな」
「フレア、楽しそうです」
「ま、そりゃな」
プリムは俺の隣に立ち、同じ景色を眺めていた。
ちなみにアイシェラは寝てる。虫歯と口内炎の苦しみで気を失ったままだ。
ベランダには潮風が吹く。日差しが強く火照った身体にしおか潮風が当たり、とても気持ちいい。
「フレア、すぐに帰ってきてくださいね」
「ああ。すぐに帰ってきて一緒に冒険だ!」
「はい! えへへ……楽しいことばかりで嬉しいです」
「そうだな。俺、知らないことばかりだ。海の次は何が見れるかすっげぇわくわくしてる。プリム、お前も楽しいこといっぱい見つけられるといいな」
「……はい!」
俺の出発は明日。
ブルーサファイア王の隠し子を、レッドルビー王国に住む祖父とやらのもとへ送る。その道中の護衛が仕事だ。この仕事を終えれば、プリムの帰る家に必要な物が手に入る……だっけ? よく聞いてなかったから覚えてねーや。
「フレア……」
「ん?」
「私、アイシェラと待ってます。フレアが帰ってきたら、一緒に旅をしましょうね」
「おう。すぐに戻ってくるから待っててな」
プリムが手を差し出したので、俺はその手を握る。
さっさと用事を済ませて帰ろう。俺はそう思った。
「うぅぅ~……ひめさまぁ」
さて、行く前にアイシェラを治してやろうかな。
◇◇◇◇◇◇
翌日。プリムとアイシェラを連れて港へ。
ギーシュに会った小屋に入ると、中には少年と……おいおい、また女騎士かよ。
「やぁ、来てくれたね」
「おう。で、そっちが?」
「うん。ボクの弟のニーアと、聖騎士のレイチェルだ」
見た感じ、おどおどした少年。
栗色のサラサラな髪に女みたいな容姿だ。背も低いし華奢な感じ……まぁ六歳だしこんなもんか。
女騎士はアイシェラみたいな感じ。金髪のポニーテールにキリっとした目、鎧を着ているけど……いや、脱げよそれ。
ニーアという少年は俺に頭を下げる。
「は、はじめまして。ぼくはニーアと申します。あの、とっても強い人が護衛してくれるって聞いて……よ、よろしくおねがいします!」
「おう。俺はフレア、よろしくな」
「は、はい!」
「で、あんたは?」
女騎士を見ると、スッと目を細めた……なんか嫌な予感。
「ふん。天使様を倒したと聞いたからどんな者かと思えば、まだ子供ではないか」
「うわー……この感じ」
「なんだ貴様……」
「いや、アイシェラみたいだなーって」
「黙れ。貴様のような得体の知れない奴を警戒するのは当然だ」
「いや、得体の知れないって……護衛のことは話してると思うけど」
金髪ポニテ女騎士はアイシェラを見て手を差し出す。
「聖騎士アイシェラ殿とお見受けする。私はレイチェル……あなたのお噂はかねがね」
「これはご丁寧に。よろしく頼む、レイチェル殿」
「おーい、よろしくすんのは俺だろ?」
「「黙れ」」
「…………」
早くも疲れてきた……こんな奴と一緒に旅すんのかよ。
すると、ニーアがくいくいと俺の袖を引っ張る。
「あ、あの。ぼく……」
「ん?」
「ぼく、がんばります!」
「え、あ、うん」
ニーアはぐっと拳を握る。よくわからんがやる気満々のようだ。
すると、レイチェルが二ーアに近づく。
「はぁ、はぁ……ぼ、坊ちゃまかわえぇ……お、おねえさん、鼻血でそう!! ふんす、ふんす!!」
「は?」
「れ、レイチェルぅ……息が荒いよぉ、ふぇぇ」
「ふぇぇぇーーーっ!? な、ナマでふぇぇキターーーーーーッ!!」
「…………」
レイチェルは、アイシェラと同類だった。
◇◇◇◇◇◇
ギーシュの手配した船に乗り、俺とシラヌイ、ニーアとレイチェルは出発した。
プリムが手を振るのを見えなくなるまで見る……なんか寂しいね。
「あの、フレアさん」
「ん、どした?」
「ぼく、小さくて弱っちいです。皿洗いくらいしかできないです。でも、がんばりますので、これからよろしくおねがいします!」
「お、おお。さっきも聞いたけど」
「黙れ。坊ちゃまのお言葉は一言一句胸に刻め!! ふぁぁ、坊ちゃまかわええ!!」
「あんた、アイシェラと同じ匂いがするよ……」
『わぅん!!』
「わわ、なんでしょう?」
シラヌイがニーアの周囲をくるくる回り、ニーアがシラヌイの頭を撫でるとシラヌイはニーアをペロペロ舐めはじめた。
「あははっ、く、くすぐったいよ」
『わぅぅん!』
「坊ちゃまとペロペロプレイ…………よし今夜やるか」
「あんたも頭おかしいんだなぁ」
レイチェルはうんうん頷いている……こいつキモイ。
ニーアはともかく、レイチェルは気持ち悪い。
ニーアのために虫歯と口内炎の呪いの準備でもしておくか。
「さーて。ブルーサファイア王国に行った早々に、レッドルビー王国に行くことになるとは」
船の上で、俺は海を眺める。
潮風が髪を撫で、遠ざかるブルーサファイア王国から、新たな地であるレッドルビー王国に思いを馳せる。
シラヌイと遊ぶニーアと、ニーアを見てハァハァする女騎士レイチェル。
プリムのために、この二人と一緒にレッドルビー王国へ。
俺は、まだ知らない。
『砂漠』の王国レッドルビーに待ち受けるなにかを。




