世界に散らばる悪意、そして希望④
グリーンエメラルド領土にも、量産型天使『夜天光』が現れた。
だが……龍人族の王であるヴァルトアンデルスが、部下にこう命じた。
「潰せ」
たったそれだけで、夜天光は龍人たちに蹂躙される。
いくら現れても、圧倒的な力の前に蹴散らされる。
階梯天使でも同じ、十二使徒でも蹂躙されるレベルの強さだ。
ヴァルトアンデルスは、玉座に座ったままため息を吐いた。
「羽付き共め。とうとう喧嘩を売りに来たか……ふん、くだらん」
側近が、ヴァルトアンデルスに跪く。
「陛下。出陣の準備ができました」
「うむ。では、久しぶりの暴れようかの……」
ヴァルトアンデルスは城を出て、中庭へ。
そこには、大勢の武装した龍人たちが並んでいた。
ヴァルトアンデルスは、全身に力を込める……すると、身体が巨大化し、鱗が浮き上がり、爪、牙が生えた。そこに現れたのは、巨大なドラゴン。
ドラゴンの王、ドラゴンロード。
『さぁて、天使ども……龍人に逆らった報いを受けてもらおうかの!!』
グリーンエメラルド領土に踏み込んだ夜天光は、あっという間に蹂躙された。
◇◇◇◇◇◇
「はっはっは」
ホワイトパール王国郊外にある貧民街に、一人の僧がいた。
僧の周りには、いくつもの黒い天使たちが転がっている。
僧は、掴んでいた天使の頭を握り潰した。
「やれやれ。この世の終わりかの?」
僧の名は、特級冒険者序列一位『覇王拳』メテオ・ブルトガング。
今は、貧民街で生活をしている。
いつも通り起き、飯を喰らい、子供たちに稽古を付けていると、黒い天使が現れたのだ。
それも、尋常な数ではない。
メテオ和尚は頭をボリボリ掻き、貧民街に隠れている子供たちに言う。
「おお~い。まだ出てくるなよ? どうやら、まだまだ来そうじゃからな」
メテオ和尚は首をコキコキ鳴らす。
すると、ホワイトパール王国の門が開き、大勢の冒険者が現れた。
全員が、武器を持っている。
そして冒険者だけじゃない。ホワイトパール王国の正規軍も現れた。
ホワイトパール国王ウィンダーの指示で、国を守るために出てきたのである。その背後に、前国王がいるのもメテオ和尚は知っていた。
「国と冒険者が手を取り合い、人々を守るか。ふふふ、天晴じゃ!」
メテオ和尚は、大きなお腹をポンっと叩いてゲラゲラ笑う。
さらに、ホワイトパール王国とは反対の方向から、武装した冒険者たちがやってきた。
「おお? あれは……ホッ、血溜組か。ははは、やつらも動いたか。それに、他の特級冒険者たちも動きだしたようじゃなぁ」
冒険者たちは、国を守るために動きだした。
天使に恐れるだけの人間ではない。
時代が変わる。人が天使を恐れることがなくなる。
天使の時代が終わり、新たな時代が始まる。
メテオ和尚は、眩しいものを見るように目を細め、笑みを浮かべた。
「見ておるか、フレア。人はどんどん変わっていく。はっはっは……本当に、素晴らしいのぉ!!」
メテオ和尚に向かってくる夜天光。
すると、和尚の全身が真っ赤に染まり、血管と神経が浮かび上がる。
身長が三メートルほどまで伸び、たるんだお腹が引き締まり、全身が筋肉の鎧に包まれた。
「『荒呉和尚』」
和尚の拳が、夜天光を数体まとめて吹き飛ばした。
構えを取り、真っ赤な血達磨のような風貌の和尚は叫ぶ。
「錦流の禁忌、忌まわしき『血達磨』の拳……見せちゃるかの!!」
血達磨となったメテオ和尚は、夜天光を蹴散らしていった。




