ドビエルの攻撃
ドビエルは、頭をガシガシ掻く。
「ぐ、おぉ……い、今のは、一体!!」
巨大な光が、この辺りを飲み込んだ。
量産型天使は消滅。階梯天使たちのダメージも大きく、聖天使教会本部も壊滅状態だ。
ドビエルは、瓦礫の山を見ながら考える。
「今の一撃、並の天使には扱えない力だ。間違いなく十二使徒レベル。ジャッジメントか、神器か、その二つか……ミカエルのジャッジメントではなかった。今の光はまさか、ロシエル……いや、奴は死んだとの報告が。あれほどの光、それに上空に展開した魔方陣。あの魔方陣の公式、どこかで……待て待て。あり得ない。私が知らない魔法だと? あり得ん、あり得ん……」
ドビエルはブツブツ言いながら考え込む。
そして、ハッとしたように上空を見上げた。
「ッ!? 神よ!! ───おお、無事だったか!!」
上空に浮かぶ『浮遊神殿』は、神々しい輝きを見せていた。
ドビエルは神に祈り、自分がなすべきことを考える。
「我が使命は、人類の殲滅。ふむ……この場にいた量産型天使は消滅したが、替えはいくらでもいる。私は予定通り、人間の世界へ向けて」
ドビエルは、自身の神器である『黒く悪しき試験管』を取り出し、上空へ投げた。
ドビエルの翼が広がり、ドビエルも上空へ。
「さぁ……始めましょうか。世界の終わり、そして始まりを!!」
ドビエルのジャッジメント。
試験管から黒いモヤが生み出され、空いっぱいに広がる……『夜の聖天使・百鬼夜行』が増殖し、漆黒の全身鎧を纏った量産型天使が生み出された。
量産型天使たちは、一気に数百出現。
「クハハハハハッ!! クハハハハハッ!! ああ神よ!! 見ててくださいィィィィィィィィ!!」
量産型天使たちは、七つの方向に飛び去った。
◇◇◇◇◇◇
少し離れた場所にいるプリムたちは、向かってくる黒い物体に気が付いた。
「なんだ、あれは……!?」
アイシェラが見たのは、黒い天使。
全身鎧を纏った漆黒の天使たちだ。
ナキは舌打ちし、腰に装備した矢筒に手を添える。
「あれは量産型天使ってヤツか。ちくしょう……フレアたち、間に合わなかったのか!?」
「にゃん!! どうするにゃん!!」
「やるしかあるまい……!!」
アイシェラはブルーパンサーに命じる。
「『実装』!!」
「『ウェアライズ』」
青い豹ことブルーパンサーがアイシェラの全身を包み込む。
ナキは口笛を吹き、数十本の矢を同時に浮かべる。
クロネは前傾姿勢になり、尻尾の毛を逆立てながらナイフを抜いた。
プリムは───祈るように、両手を合わせていた。
「フレア……信じています」
プリムたちの前に、量産型天使が舞い降る。
アイシェラは舌打ちし、槍を構えながら言う。
「こちらだけというわけでもあるまい。恐らく、七つの大陸中に量産型天使たちが」
「大丈夫」
プリムは、祈る姿勢のまま、力強く言った。
「この世界の人たちはみんな強いです。わたしたちは知っています。みんな、天使様には負けません!!」
◇◇◇◇◇◇
ダニエル、ラティエルの二人は、階梯天使たちを半分以上倒した。
「ぶはぁ、っはぁ……き、キッツイわぁ」
「ですね。あの、これを」
ラティエルは足下に小さな木を生み出し、そこに実った小さな木の実をダニエルへ。
ダニエルはそれを食べると、一気に体力が回復する。
「うおお、すっげぇ!!」
「『ドーピング・チェリー』です。食べると元気いっぱい、眠気スッキリの実ですよ。ちょっと寿命が短くなっちゃいますけどね」
「え!?」
「ふふ、冗談です」
果たして冗談なのか。
すると、ダニエルとラティエルの周囲に『土』が盛り上がる。
この土には、見覚えがあった。
「ズリエル……」
「先輩……」
ズリエル。
以前は、メタボリックなお腹に、常に脂汗を流していたが今は違う。痩せ細り、真っ青な顔で、頬もこけ……頭部は、ずいぶんと寂しくなっていた。
ラティエルは察した。
「だ、大丈夫ですか?」
「そう見えますか……?」
「い、いえ。今にも死にそうで」
「ええ、死にそうです」
ニコリと笑ったズリエル。だが、その笑顔はゾンビのようだった。
「もう、限界です。ははは、聖天使教会が木っ端微塵!! やった!! 仕事しなくていい~♪ もうお仕事嫌だ~♪ 私が一人でお仕事~♪」
「ず、ズリエル……」
ズリエルは、精神的に参っていた。
たとえ神がいようと、聖天使教会の事務仕事はある。
それらを、たった一人で支えてきたズリエル。体重は五十キロ以上落ち、食事もままならない状態だったズリエルは、恐るべきダイエットを成功させていた。
「ダニエル先輩。私、逃げ出した先輩の代わり、果たしましたよ」
「あ、ああ。ありがとよ……」
「じゃあ、お願いが」
「な、なんだ?」
ずも、ずも……と、ダニエルの周囲の土が盛り上がっていく。
「一発、殴らせろォォォォォォォォ───ッ!!」
「やっぱそう来るよなぁ!?」
「うーん、私はどうしたら」
怒り狂ったズリエルが、ダニエルとラティエルに襲い掛かる。




