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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第十二章・白き愛の国ホワイトパール

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神の名のもとに

「う、はぁ、はぁ、はぁ……あぁぁ」


 聖天使教会。

 聖天使教会十二使徒の一人ズリエルは、死にかけていた。

 真っ青な顔、やつれボロボロになった皮膚、髪の毛はすっかり抜け落ち、生気が感じられない。死んでいるのか生きているのかすら曖昧な状態だった。

 ズリエルは、よろよろと身体を起こす。


「し、しぬ……死んじゃう。こんな、こんな」


 ズリエルがいるのは、執務室。

 執務室には未決済の書類が山のように積まれている。

 そう……聖天使教会全ての事務を、ズリエルがたった一人で処理しているのだ。

 聖天使教会も組織。いかに神がいようと、組織としての事務作業は行わなければならない。

 

「うぅぅ……て、手を、手を貸して」


 ズリエルは、聖天使教会序列四位。十二使徒でも四番目に偉い立場なのだが、どうも扱いが悪い。

 部下には馬鹿にされ、他の十二使徒たちから仕事は押し付けられ……神が現れてからというもの、十二使徒はズリエルを除き、誰も事務をやらなくなったのだ。

 

「そりゃ、神様は大事だけど……うぅぅ、もう限界!!」


 ズリエルは立ち上がり、窓を開け、土の地面に両手を向けた。


「『契約事務員(アルバイター)』」


 ボコボコと土が盛り上がり、人の形……ズリエルの形となる。

 ズリエルの司る属性は《土》で、土を意のままに操る。ズリエルは主に、自分の分身を作っては仕事の手伝いをさせていた。

 今回も、土人形に事務を手伝ってもらっている……が、集中力が切れると土に戻ってしまう。執務室が土まみれになり掃除が大変だった記憶は新しい。

 

「さぁみなさん!! 聖天使教会を支える最強の事務員!! このズリエルの底力を見せてやりましょう!!」


 ズリエルは髪を梳かし、よれよれのローブを脱ぎ捨て叫ぶ。


「我が神器、『サラリー・オブ・ビジネスマン』!! 来たれ!!」


 ズリエルが叫ぶと、ズリエルの身体にローブとは違う『服』が装備される。さらに、メガネも新しくなり、革製の高級カバンも現れた。

 これを身に着けることにより、ズリエルは聖天使教会最強の事務員となる。

 そして、土人形もまた、同じ格好をしていた。


「さぁ行きますよ!! 『土の聖天使(ズリエル)社畜万歳(ワークワーク)』!!」


 最高の事務員となったズリエルと土人形たちは、恐るべき速度で仕事をこなしていく。

 

「聖天使教会。縁の下の力持ちと呼ばれたこの私が……負けるわけにはいかんのです!!」


 ほとんど天使のいなくなった聖天使教会で、ズリエルは孤独な戦いをしていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 聖天使教会本部。

 本部最上階層は神殿となっており、天使たちはここで祈りを捧げる。

 今は、『楽園の三柱神』と呼ばれる神たちの部屋となっていた。

 神殿には、三つの玉座があり、三人の神が座っている。


「ドビエル、進捗はどう?」

「はっ!! 強化された量産型の数は七十万体を超えました。あと数日で二百万を超えるでしょう」

「そうかい。そのまま準備続けて」

「かしこまりました」


 アメン・ラー。

 外見は十六歳ほどの少年だ。

 背後に十三本の剣が浮かび、顔には大きな火傷跡が残っている。

 その隣には、竪琴を引く女性。


「あなたたち、間もなく火乃加具土命たちの器がやってきます。階梯天使と量産型を使い、この世界を浄化する準備を」

「「「「はっ……」」」」


 女性の名はトリウィア。

 アメン・ラーと同じ神。トリウィアはクスっと笑う。


「それにしても意地悪ねぇ……世界浄化を、あの子がここに来ると同時に行うなんて」

「そりゃそうさ。フレアはボクがこの手で殺す。フレアが戦っている間に、この世界の人間たちを一掃する……気付いた時にはもう、何も残っていない。ははは、最高じゃないか」

「酷い人。まぁ、面白いけどね」


 トリウィアは竪琴を引く。

 すると、アメン・ラーの反対側の玉座に鎮座した『石』が震えた。

 黒勾玉。鉱物の神で、しゃべることはできないが意志を持つ神だ。

 アメン・ラーは、ゆっくりと背後を見る。


「ふふふ……もうすぐだ。『常世のはざま』……フレア、キミの零式創世炎が無敵じゃないってこと、その身を持って証明してやるよ」


 常世のはざま。

 異空間への入口。かつて楽園の三柱神を閉じ込めていた牢獄の入口が、禍々しく燃えていた。

 その奥には、四人の人影。

 

「さぁて……計画は最終段階。世界を浄化し、新たな神の世界を創ろうか」


 ◇◇◇◇◇◇


 アメン・ラーたちは『常世のはざま』に消えた。

 残された天使たちは、未だに跪いていた……が、アルデバロンが立ちあがる。


「総員、戦闘準備……ヴァルフレアを迎え撃つ」


 階梯天使たちは出て行った。

 残されたのは、五人の天使。

 アルデバロン、サラカエル、ジブリール、ガブリエル。そしてドビエルだ。

 アルデバロンは、サラカエルに言う。


「サラカエル……お前の部下は」

「知らん。それに、オレがいれば十分だろう」

「……やれやれ。敵は地獄炎の呪術師。さらにミカエルも付いている」

「だからどうした? フン、最強の天使だと? くだらないな」

「…………」


 アルデバロンはため息を吐く。

 ジブリールとガブリエルも、同じだった。


「ジブリール……本当にいいのかい?」

「フン。今さら何を言ってもしょうがないさね。それに、あたしらはもう年だ。信じるモンを変えるほど、若くはないのさ。だったら……闘うしかあるまい」

「……やれやれ。あたしもだけど、あんたも馬鹿だねぇ」


 戦うしか、道は残されていない。

 天使の長、堕天使の長、黒天使の長として、天使たちはフレアに戦いを挑み、死ぬ。


 ◇◇◇◇◇◇


 黒天使たちのアジトに、一人の少女がいた。


「…………」

「ラハティエルさん」

「あ、マキエル……」


 やってきたのはマキエル。

 糸目で、漆黒のスーツ上下、黒い帽子をかぶった男だ。

 マキエルは、ラハティエルに聞く。


「どうしてここへ? ここはもう放棄したはず」

「……わかんない。わたし、戦えないし、何もできないから。だから、待つことしかできないの」

「そうですか……ふふ、ワタクシも同じです。ワタクシの仕事は暗躍。もはや、ワタクシにできることはもうない」

「たたかわないの?」

「はい。ワタクシ、戦いは苦手で」

「わたしも」


 ラハティエルは、クスリと笑う。

 マキエルは少し考え、そっと手を差し出した。


「?」

「ラハティエルさん。遊びに行きませんか?」

「あそび?」

「ええ。とびっきりの遊びです。この、人の世界を賭けた、人間と神の戦いがどうなるかを、特等席で観戦するのですよ」

「それ、たのしい?」

「きっと、間違いなく」

「んー……わかった、いいよ」


 マキエルは、そっと帽子を押さえ頭を下げた。

 

「ねぇねぇ、どこいく?」

「では───……」


 マキエルがラハティエルに目的地を伝える。

 ラハティエルは、次元に干渉する大鎌『ディ・メン・ション』を振るい、次元に亀裂を生み出す。

 二人はその亀裂に入り、どこかへ消えてしまった。

 最後、マキエルは……こんなことを呟いた。


「さぁ、見せていただきましょうか。人間、神、天使、呪術師が紡ぐ、物語の結末を」

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
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