宿屋にて、これからのことを
俺、プリム、アイシェラ、シラヌイは、ホワイトパール王城から出た。
プリムは振り返り、王城を見上げる。
「…………」
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「うん。ようやく、わたしはわたしの過去に決着を付けられた気がする……失ったものは戻らないけど、わたしはフレアたちとの旅でいろんなものを手に入れた。もう、捨てない。わたしの大事なものは、わたしが守る」
「お嬢様……」
「プリム、強くなったな」
「えへへ……」
『わん!』
もう、プリムは大丈夫だろう。
アイシェラはそっと涙を拭い、プリムに言う。
「お嬢様。私は、お嬢様の剣であり盾。それは永遠に変わることがありません。これからも、よろしくお願いいたします」
「うん。でもアイシェラ、わたしはアイシェラの幸せも願ってるのよ? 結婚して、子供を産んで、アイシェラなりの幸せを掴んで欲しいって思ってる」
「私の幸せは、お嬢様と共にあることです。お嬢様との子供……うむむ、養子を取るべきか」
「もう! アイシェラ、ちゃんと男の人を好きになってよ!」
「ははは。私はお嬢様がいればそれでよしなので」
相変わらずのアイシェラだ。でも、変態的な言動もなく笑っていた。
プリムもアイシェラも、スッキリしたようで何よりだ。
あとは……俺の問題だけ、かな。
「プリム、アイシェラ。とりあえず、ミカエルたちのところに行こうぜ」
「はい。でも、場所は……?」
「ハクレンの呪力を感じるから大丈夫。カグヤたちもそこにいるだろ」
「ふん。では、案内しろ」
『わぅん!』
俺たちは、ハクレンたちがいる宿に向かって歩き出した。
こうやって三人と一匹で歩くのが、とても懐かしく感じていた。
◇◇◇◇◇◇
到着したのは、これまたでっかい宿屋だった。
白い煉瓦で建てられ、看板には『本日貸し切り』って書かれている。
中に入ると、クロネが出迎えてくれた。
「にゃん。用事は済んだのかにゃん?」
「はい。全部終わりました」
「そっか。じゃ、こっちに来るにゃん。ここ、貸し切りにゃん。ご飯も食べ放題だし、まずは腹ごしらえするにゃん」
「メシ!? 俺めっちゃ腹減ってる!! よっしゃメシだメシ!!」
宿屋の食堂へ入ると、テーブルいっぱいに料理が並んでいた。
というか、全員メシ食ってる。
カグヤ、ナキ、ダニエルにラティエル、アブディエルにミカエル、コクマとかいう奴がメシを食い、酒を飲んでいた。
「あ、来たわね。ふふん、先にいただいてるわよー」
「おま、カグヤ、その肉俺も食う!!」
「ふふーん。アンタなんかにやらないわよ。一人で特異種たちと楽しんじゃってさ、ズルい奴にあげる肉はないしー」
「ふっざけんな!!」
俺はテーブルに並んでいた骨付き肉を食べる。
すると、カグヤも負けじと肉を食らい始めた。
「ったく、ガキね」
「ま、いいじゃねぇか。それよりミカエル、お前も食えよ」
「食べてるわよ。ってかダニエル、あんたとラティエル何してたの?」
「えっとね……血溜組を抑えようとしたんだけど、いきなりみんな引いちゃって。フレアくんたちを探して彷徨ってたら、そこのハクレンちゃんが『終わったから来て』って」
「つまり、何もしてないってことね」
「「うぐ……」」
ダニエルとラティエルは、ミカエルのツッコミに黙り込む。
煙草を吸っていたナキは、プリムとアイシェラにグラスを渡した。
「ほれ、メシ食え。話はそれからだ」
「かたじけない」
「ありがとう、ナキさん」
「……二人とも、すっきりした顔だな。いろいろ解決したようで何よりだぜ」
ナキはグラスを掲げ、二人と合わせた。
クロネはいつの間にか魚を食べてるし……コクマとかいう奴は、部屋の隅で本を読んでいる。アブディエルも一緒に本を読んでいた。
すると、肉を喰う俺のそばにハクレンが。
「お兄ちゃん、ここ貸し切った」
「ん、おお」
「みんな集めた」
「お、おう」
「ごはん、準備した」
「……おう」
「おいしい?」
「おう、うまいぞ」
「…………」
「…………」
「お兄ちゃん……ほめて」
「ああ、そういうことな。よーしよし、よくやったぞ」
「えへへ」
ハクレンを撫でると、顔をほころばせた。
妹か……ハイシャオみたいなわけわからん奴より、こういう素直な子の方がいいな。
ハクレンにも肉を勧め、みんなで楽しく食事をした。
◇◇◇◇◇◇
「俺、神様をブチのめしてくる。ミカエル、聖天使教会の本部まで案内してくれ」
食事が終わり、俺はオレンジジュースを飲みながら言った。
ミカエルは、小さくため息を吐く。
「間違いなく、神はあんたを迎え撃つ準備をしているでしょうね」
「関係ない。先生たちを解放して、もう二度とこんなことができないように、神様たちをぶん殴ってやらないとな」
「……フレア、本当にヤバいわよ? 聖天使教会にはアルデバロンを筆頭に、ジブリールとガブリエル、サラカエルもいる。階梯天使の軍勢が数万、そして……ドビエル。神に命じられて何をやっているのかわかんないけど、碌なことじゃない」
ドビエル。その言葉にアブディエルが反応する。
「私も行く。ドビエル……殺してやる」
「アタシも!! 強いやつと戦えるなら、いくらでもやってやるわ」
アブディエル、カグヤは行くみたいだな。
「わたしも行きます。わたしの力が役に立つかもしれない……」
「お嬢様のいるところに私はいる」
「うちも、情報収集は任せるにゃん」
「へ、借りは返すぜ、フレア」
プリム、アイシェラ、クロネ、ナキも行くのな。
「オレも行くぜ。今度こそ、借りは返す」
「私も! ミカちゃん、あなたは?」
「…………」
ミカエルは、俺をまっすぐ見た。
「呪術師は、あんたしか相手にできないわ」
「ああ」
「それと神。あたしたちの創造者……一度対峙したけど、戦って勝てる気がしなかった。神も、あんたが相手するしかないでしょうね」
「うん」
「だから───……それ以外は、任せなさい。あたしの『炎』で、道を作る」
「いいんだな? 敵対しても」
「ええ。あたしは、あたしの信じる道を行く」
そして、ハクレン。
「ハクレン、お前は」
「いく。お兄ちゃんと一緒」
「……わかった。じゃあ、プリムたちを守ってくれ」
「うん。終わったら、一緒に冒険しようね」
「ああ。約束な」
ハクレンの頭を撫でると、シラヌイが俺の足にすり寄ってきた。
『くぅーん』
「わかってる。お前も一緒だな」
『わん!』
よーし。これで神様に喧嘩売ることができる。
待ってろよ……先生たち。




