そのころのミカエルたち
プリム、アイシェラ、ナキ、クロネ、シラヌイは、ホワイトパール王城謁見の間にいた。
城に来て案内されたはいいが、コクマは別室に閉じ込められ、プリムたちだけここに案内されたのだ。
プリムは、懐かしさに胸が満たされていた。
「ここ、懐かしい……謁見の間。あまり入ったことはないけど、それでも懐かしいわ」
プリムは、思わず微笑んでしまった。
アイシェラがそっとプリムを支えると、プリムは微笑む。
ナキは煙草を吸い、クロネは周囲を警戒。シラヌイは尻尾を振りながらナキの足下をグルグル回っていた。
「ふぅ~……で、王様は?」
「にゃん。煙いにゃん、こんなところで吸うにゃん」
「おっと失礼。で、王様は?」
ナキがそう言うと、玉座の後ろにあるドアが開いた。
現れたのは、王冠を被った青年。
白を基調としたマントを羽織る、プリムと同じ髪色と目をした、ウィンダー国王だった。
ウィンダーは玉座にどっかり座り、プリムをジーっと見た。
「久しぶりだね、プリマヴェーラ」
「ウィンダーお兄様……お久しぶりです」
プリムはスカートを持ち上げて一礼。
クロネ、ナキは気付いた。ウィンダーが謁見の間に入ると同時に、薄い気配が二十以上増えた。恐らく、護衛が山のようにいるだろう。
ウィンダーは、薄い笑みを浮かべながら言う。
「で、話したいことがあるんだって? 妹の頼みだ、聞いてあげるよ」
「ウィンダーお兄様……お兄様。お姉様方はどこへ?」
「ああ、みんな死んだよ。あはは……実に、不幸な事故でねぇ」
「……そうですか。では、お父様は」
「元気……ではないけど、生きてるよ。家族がみんな死んじゃってるところで、病魔に侵されちゃってねぇ。王位をボクに譲って引退したのさ」
ウィンダーは、王とは思えない軽さで言う。
だが、プリムは特に気にしていない。
「お兄様。私はもう、ホワイトパール王国に興味がありません。あなたがどんな政治を行おうが、この国がどんな発展をして、どんな国になるのか。私にはもう関係ありません」
「そうだね……で?」
「ですが、ここは私の故郷です。私を育ててくれたお父様に、最後のお別れくらいはさせてください。そしてウィンダーお兄様、あなたにも」
「…………」
ウィンダーは、確認するように言う。
「プリマヴェーラ。本当に、王位はいらないのかい?」
「はい。私はもうホワイトパール王族ではありません。なので、これは妹として、兄にする最初で最後のお願いです」
「ふーん……」
プリムとウィンダーはまっすぐ向き合う。同じ髪色、同じ眼で。
そして、ウィンダーは頷いた。
「わかった。いいよ」
「ありがとうございます」
「やれやれ、どうやら杞憂だったみたいだ。例の特異種をけしかけて大暴れするのかと思ったけどね」
「そんなこと、意味はありません。私はもう、あなた方にも、この国にも興味ありませんから」
「あははははっ! なかなかいうね……まぁ、いいよ。ボクはもう王様だし、ボクを殺したところで反逆者となるのが落ちさ。プリマヴェーラ、キミがこの国の女王になれる可能性はないよ」
「……はぁ、悲しい人ですね。私は世界を旅して、世界の広さを知りました。一国の王であるあなたには理解できないかもしれませんが、世界には王様以上に価値のある物がいくらでもありましたよ。そんな小さなもの、私の人生には必要ありません」
「……ふーん」
プリムは慈愛に満ちた笑みを浮かべる。
ウィンダーは鼻を鳴らした。
「ちょ~っと待った!! ふふん、悪いけど、まだ用事は残ってるのよねぇ」
と───玉座後ろのドアが開き、二人の少女が現れた。
一人はハイシャオ。もう一人はハクレンだ。
ハイシャオの手には鎖があり、それぞれカグヤ、ミカエル、アブディエル、コクマを拘束している。
「カグヤ!! これは……お兄様、どういう」
「……さぁ?」
ウィンダーも困惑していた。ウィンダーにもわからないようだ。
アイシェラはプリムを守るように前へ。ナキ、クロネ、シラヌイも戦闘態勢を取る。
そして、ハイシャオが言った。
「王様、まだ終わってないよ」
「え、あの……どういう」
「とりあえず、ここにいる特異種、全員貸して。これからあたしたちが、試験をするから」
「し、試験?」
「うん。ヴァジュリ師匠のお願いでね、フレアを試します」
「……???」
わけがわからなかった。
ハイシャオは、手に持っている棒を床に叩き付ける。
「鋼の型、『鎖錠鹵獲』」
すると、床がドロリと溶けて形が変わり、鉄の鎖となってプリムたちを捕獲する。
鎖が生き物のようにうねり、プリムたちはハイシャオとハクレンの元へ移動した。
「きゃぁっ!?」
「ぬぅぅっ!?」
「ぐぉぉっ!?」
「うにゃぁぁっ!?」
『きゃうんっ!!』
全員が、ハイシャオに捕まった。
すると、プリムたちの力が抜けていく……鎖に流された呪力で、完全に無力化されていた。
ハイシャオは、鎖を揺らしながら言う。
「ごめんね。これが最後の試練……フレアの『資格』を試すんだって」
「……え?」
「あたしもよくわかんないけど、ここにいる特異種たちとフレアを戦わせるんだって。ホワイトパール王国って特異種がすっごく多いからさ、試練には絶好の場所みたい。だからあたしたち、ここを選んだの」
「ど、どういう……ぅぅ」
力が抜けていく。
カグヤ、ミカエルも弱々しい。間違いなく呪術で弱っていた。
そして、謁見の間の扉が開く。
現れたのは、この場にいる誰もが知っている姿。
「おお、ここが謁見の間かぁ~……って、みんな揃ってんじゃん!! おーい、無事だったかー?」
あまりにもいつも通りに、地獄炎の呪術師ヴァルフレアが現れた。




