みんな無事で安心した!!
潜水艇とかいう木造りの船に入った俺は、シラヌイが飛び掛かってくるのを受け止めた。
『きゃうぅぅん!! わんわんっ!!』
「ははっ、シラヌイ!! よかった、お前も無事だったか」
『きゅぅぅん……』
「よしよし」
尻尾を千切れそうなくらい振り、俺に甘えるシラヌイ。
俺はシラヌイを抱っこし、頭や背をナデナデワシワシしまくる。するとプリムとアイシェラが俺のもとへやってきた……あ、おばさんもいる。
「フレア、天使様はどうなったのですか?」
「ああ、やっつけた」
「そうですか……よかったです」
「貴様……まさか十二使徒まで降すとは。とんでもない奴だな」
「いや、けっこう強かったよあいつ。さすがに負けるかと思った」
ぶっちゃけ、空飛べるって反則だよなー。俺、空飛べないし。
今回は地形が海だったこともあるし、蒼い炎でラーファルエルの虚をつけたってのもある。俺が頭に血が上ってたこともあるし、もっと冷静に対応すれば赤い炎だけでも倒せたかも。
ま、いいや。ラーファルエルの野郎にはもう負ける気がしない。
「……船が十隻とも粉々になったのは痛いねぇ。造船所が忙しくなるだろうさ」
「あ、おばさん。怪我は?」
「おばさん言うな糞餓鬼。それと、お前に聞きたいことがいくつもある……天使を殺ったのはお前かい?」
「殺してないよ。つーか逃げられた」
「……それと、潜水艇が一時浮上できなかった。海面にびっしり氷が張り、さらに氷柱が何本も降り注いできた。これはお前がやったのかい?」
「うん。青いおばさんの炎でやった」
「「「…………???」」」
プリム、アイシェラ、エリザベータおばさんが首を傾げる。
青いおばさんの炎って言ってもわかんねーか。
「えーと、赤い炎じゃラーファルエルを燃やせなかった。んでやられそうになったら青いおばさん……第二地獄炎の蒼い炎が出たんだ」
「だ、第二、地獄炎?」
「ああ。なんでも燃やす赤い炎とは別の、なんでも凍らせるあおい蒼い炎な。ほれ」
俺は右手の人差し指に蒼い炎を灯す。
アイシェラとエリザベータおばさんはギョッとしたが、プリムは目を輝かせた。
「わぁ~♪ すっごく綺麗な青……うぅん、空みたいな蒼、ですね」
「だろ? ラーファルエルの野郎、これ見てめっちゃビビってさぁ」
「ふふ。フレアってばすごい!」
「おう!!」
シラヌイとプリムがキャッキャと喜ぶ横で、アイシェラとエリザベータおばさんが言う。
「アイシェラ、こいつは……」
「こいつは地獄門の呪術師……恐らく生き残りだ」
「地獄門の呪術師だと? 確証は」
「ある。こいつは天使を何人も屠ってきた。それに、私自身、呪術をその身に受けたからな……長寿にして病魔に侵されたことがない天使にとって、呪術による苦しみは恐ろしく効果的だ。エリザベータ、口内炎を口の中いっぱいに作られ、全ての歯が虫歯に侵され、頭痛と腹痛が同時に起こった状態でまともに戦えると思うか?」
「…………」
「あいつは、それを平気でやる。触れただけで生きる者全てを病魔に侵す。そして……地獄の炎。さらに得体の知れない武器……天使の神器とはまた違う、恐るべき何かをその身に宿している」
「…………なるほどね」
「確か、ブルーサファイア王国には『堕天使』がいたな……会わせてみたらどうだ?」
「……一応、上に報告はしよう。『天使の襲撃により船は全滅、だが乗り合わせた呪術師の生き残りに助けられた』とな」
「そうしてくれ。それと、姫様と私のことは」
「第七王子にのみ書状を送った。恐らく、港で秘密裏に迎えが来るだろう」
「そうか」
「一国の王族の亡命だ。第七王子が国王に報告するかしないかは賭けだぞ」
「……恐らく、大丈夫だと思う」
「……確証はあるのか?」
「さぁな。それに、隠れ家だけ用意してもらえばいい。姫様は冒険に出る予定だからな」
「…………第七王子がそれを許すかどうかは私は知らないよ」
「いいさ。姫様なら説得してくれる」
難しい話なので俺は聞くのをやめた。
それより気になったのは、おばさんの怪我だ。
「なぁおばさん、怪我は大丈夫なのか?」
「おばさん言うんじゃないよ。怪我は……まぁ問題ない。可愛いお姫様のおかげでね」
「……っ」
プリムが身体をすくませる……なんだ?
エリザベータおばさんはクククと笑う。
「心配しなさんな。あんたの『力』のことは誰にも言わないよ。それにその力、持ってるのはあんただけじゃないしねぇ……」
「……え?」
「ふふ、部下にも口止めはしてある。まさか『癒し』の力をこの身で体験することになるとはねぇ」
「ああああの!! それ以上は!!」
「はいはい。悪かったね」
「癒し? プリムの力のことか?」
「ああ、特異種の魔法さ」
「特異種?」
「おっと、これ以上はお姫様に叱られちまうね」
「?????」
首を傾げると、プリムが袖を引っ張った。
「フレア、その……私には癒しの魔法がある、それだけ知っていてくれれば」
「わかった」
「……ありがとうございます」
ま、どうでもいいから深く聞かない。
すると、おばさんの部下の一人が来て言った。
「船長!! 陸が見えやした!!」
「デカい声出すんじゃないよ!! 狭い潜水艇じゃ声が響くんだ!!」
「すす、すいやせん!!」
「おばさんの声のがデカくね?」
「やかましい!!」
俺のツッコミに対し、さらにデカい声でおばさんは怒鳴った。
こうして、ブルーサファイア王国に到着した。




