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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第十二章・白き愛の国ホワイトパール

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ホワイトパール王国内にて

 ようやく、到着した。

 

「ここがホワイトパール王国……」

「人間の国、ね」

「ああ。プリムにとっては旅の始まり。俺にとっては……あれ、何もないや」


 旅の始まりこそホワイトパール王国だけど、ここに来たことないな。すぐに港に向かってブルーサファイア王国に向かったし。

 ある意味、俺にとって旅の始まりなのかもな。

 俺は手首をブラブラさせ、首をコキコキ鳴らす。


「どうしたの?」

「ん、すぐに戦闘になる可能性あるしな」


 拳をパシッとぶつけると、火の粉が飛ぶ。

 アブディエルはごくりと喉を鳴らし、周囲を警戒した。

 今のところ、敵意は感じない。町に入ってからが勝負だ。

 巨大な門は空いているので、二人で並んで町の中へ……すると、兵士が俺たちを止めた。


「お待ちください。ヴァルフレア様ですね?」

「そうだけど」

「国王陛下がお待ちです。こちらへどうぞ」

「「……」」


 なんか、簡単に入れそうだ。

 アブディエルと顔を見合わせ、意見を聞く。


「どうする?」

「どうするもなにも、行先は王城でしょ? 選択肢はある?」

「ない……いつもは殴り込みとか、大暴れした後とかだから、拍子抜けでよ」

「……無駄な労力がかからないのはいいことでしょ」

「まぁ確かに」


 俺は兵士に言う。


「じゃ、案内よろしく」

「かしこまりました。馬車を用意しておりますので、こちらへ」


 兵士と一緒に行くと、立派な馬車が止まっていた。

 馬車のドアも開けてくれるし、馬車内には飲み物やお菓子なんかもあった。

 俺たちが座るとドアがしまり、馬車がゆっくり走り出す。

 さっそく、俺はクッキーに手を伸ばす。


「いやー、いいね。お菓子うまっ」

「あなたね……少しは緊張感持ちなさいよ」

「大丈夫だろ……もぐもぐ……いやー、こんなに楽なの初めてだな。ホワイトパール王国っていいところかも」

「……はぁ」


 アブディエルはため息を吐く。

 馬車は城下町をのんびり走る……窓を開けて町を見た。


「奴隷売買組織があんなことしてるなんて思えない街並みだな……」


 町は、平和だった。

 冒険者たちが串焼きを齧りながら談笑し、子供たちがボール投げをして遊び、商人の馬車が通り過ぎていく。道行く人も、みんな健康そうで体力がありそうだ。

 町の外に、子供たちばかりが住む貧民街があるなんて、想像できないな。

 こんなに明るい街だからこそ、闇は深いのかもしれない。


「人間の闇……天使である私ですら、ヒトの悪意に恐怖したことがある。天使は人間の命なんて何とも思っていないけど、人間は同族の人間ですら、ゴミのように命を扱うことがある。私には、それが不思議でならないわ」

「…………」


 アブディエルの言うことは正しい。奴隷売買組織で嫌って程見たからな。

 クッキーがなくなるころ、ホワイトパール王城へ到着した。

 馬車から降り、真っ白な城を見上げる。


「でっけーな。なぁ、城ってなんで大きいんだ?」

「さぁ? 攻め込まれた時に、大きくて堅牢な砦になるからじゃない?」

「ふーん」

「そんなことより……迎えが来たわよ」

「……おう」


 城門前に、見知った顔があった。

 真っ白な呪闘着、白い髪、赤い目。俺より少し年下の少女……ハクレンが、こちらを見ていた。

 俺と目が合うと、スタスタ歩いてくる。

 いつの間にか馬車は去り、周囲には誰もいなかった。


「久しぶり、フレア」

「プリムたちは?」

「みんないる。お師匠様が、お話したいって」

「……案内しろ」

「ん、こっち」


 ハクレンは、城を指さしてスタスタ歩く。

 俺は最大級の警戒、アブディエルは汗を流し緊張していた。


「安心しろ。俺が守ってやるから」

「それはどうも……でも、私だって戦えるわ。もう油断しない」


 王城内は、とても静かだった。

 人の気配がほとんどない。知らんけど、こういう城にはメイドやら騎士やら兵士やらが働いているんじゃないのか? 

 ハクレンの案内で進むこと十分。中庭を抜け、こじんまりした白い建物に到着した。


「ここ、お師匠さまがいる」

「プリムたちは?」

「いない」

「は? おい、プリムたち……」

「まずは、お師匠さまのお話」

「…………わかった」

「あなたは、こっち」

「えっ」


 ハクレンは、アブディエルの手首を掴む───そして、一瞬で呪力を流した。


「ぐ、あっ……」

「アブディエル!? おま、何をっ!!」

「ちょっと痺れさせただけ。フレア、はやくお師匠さまのところに行って」

「お前……」

「早く」


 ハクレンは、全くの無感情だった。

 このまま拒否すれば、アブディエルを殺すかもしれない。

 アブディエルを担ぎ、ハクレンは歩きだした。


「…………」


 俺は、白い建物を見る。

 そして、ドアまで進み……慎重にドアを開けた。

 そこにいたのは───やっぱり、ヴァジュリ姉ちゃんだった。


「フレア……また会えたわね」

「…………」

「今、お茶を淹れるわ。さぁ、座って」


 室内は、白で統一されていた。

 椅子にテーブル、茶器。ほとんど白。

 俺は柔らかそうなソファに座ると、ヴァジュリ姉ちゃんがお茶を出してくれる。

 それには手を付けず、切り出した。


「どういうこと? なんで俺を呼んだ?」

「ちゃんと、話しておこうと思ってね……『楽園の三柱神』様のこと」

「楽園の三柱神……」

「あのお方たちは、神でありながら、この世界の『器』を手にした神。目的は一つ、この世界に住む全ての生物を消去し、『新人類』を産み、新たな世界を創ること」

「……そんなの、できるわけない」

「できる。あの方たちと、天使の力、そして新人類……私たちのような、改良された魂と肉体を持つ人間がいればね」

「…………」

「お願いフレア。今からでも遅くない。あのお方たちに忠誠を誓って。地獄炎の魔王に、はじまりの神の器であるあなたがいれば、新世界はすぐそこに」

「いや、無理。俺あいつら嫌いだし」

「……そう」


 ヴァジュリ姉ちゃんは俯いた。

 本気で悲しんでいるのがわかる……でも、俺は引かない。

 引いてたまる───……あれ?

 ヴァジュリ姉ちゃんの指、人差し指が動いていた。


「私は、フレアを傷付けたくないの……私だけじゃない。ラルゴさんも、マンドラ先生も、タックさんも、みんながあなたを───」


 俺は見た。

 ヴァジュリ姉ちゃんの指が、動いてる。

 この軌道……字だ。

 そして、息を飲む。


 かんし、かみ、しゃべるな。


「っ……」

「おねがい、話を聞いて」

「…………」


 噓だろ?……ヴァジュリ姉ちゃん、何かを伝えようとしてる。


「フレア、あなたと戦いたくない。あなたならきっと、気付ける」

「…………」


 かみ、けいかく、せかい、ほろぼす、とめて

 わたし、こころ、のぞかれる、てつだえない、おねがい

 ふれあ、せいてんしきょうかい、ほんぶ、いまなら、とめられる

 

「ヴァジュリ姉ちゃん……」

「決心してくれた?」

「うん。俺……やっぱり、あいつらを倒すよ。ヴァジュリ姉ちゃん」

「そう……」


 ああ、やっぱり……ヴァジュリ姉ちゃんは、ヴァジュリ姉ちゃんだ。

 俺は懐かしさに、胸がいっぱいになる。

 駄目だ。泣くな……泣いたら、台無しだ。

 ヴァジュリ姉ちゃんが全てを賭け、俺に伝えてくれたんだ。

 神、計画、世界を滅ぼす。それを止められるのは、地獄炎の魔王を宿した呪術師である、俺だけ。


「なら、話は終わり。今日は見逃してあげるけど───次は容赦しないわ」

「うん……俺も、覚悟を決めるよ」

「そう。じゃあ、お別れね……今度会うときは、本気で相手をしてあげる」

「……うん」


 そう言って、ヴァジュリ姉ちゃんは立ち上がり部屋を出る。

 部屋を出る前に、俺に言う。


「あなたの仲間は、今頃ウィンダー国王とお話しているわ。ふふ、なかなか強い子たちね……いい仲間に恵まれたじゃない」

「ああ、俺の自慢だ」

「そう……じゃあ、さよなら」


 ヴァジュリ姉ちゃんは、悲し気に微笑んで部屋を出た。

 俺は大きくため息を吐き……冷めきったお茶に手を伸ばす。


「あ……これ」


 ヴァジュリ姉ちゃんが淹れたお茶は、呪術師の村でよく飲んでいた薬草茶だった。

 ようやく俺は、淹れたてを飲まなかったことを後悔した。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
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― 新着の感想 ―
[気になる点] 筆談と喋ってる内容が変わらなくて、筆談にする意味がない
[良い点] ヴァジュリさんが(ほんとの意味での)敵じゃなくってよかった……。 [一言] 神との決戦が目前ですね。 他の家族とも、どうなっていくのか……。ますますたのしみです。 フレアくん、とにかく今…
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