フレアとアブディエル
和尚と別れ、ホワイトパール王国の正門に向かって歩いていると……気付いた。
「…………ん? これは、呪力?」
脈動するような、黒い呪力。
ホワイトパール内じゃない、ここから少し離れた場所か。
俺は正門を眺める。
「あー……ここまで来て、まだ入れないのかよ。呪力……誰だ? ヴァジュリ姉ちゃんか? それとも、ハイシャオかハクレンか……また別の奴か」
俺は頭を掻き、ため息を吐く。
カグヤたちを探す前に、こっちから終わらせるか。
敵なら叩く、そうじゃなかったら無視する。
「じゃ、行くか……なんか寄り道ばっかりだな」
カグヤやミカちゃんたちはともかく、プリムたちは大丈夫かなぁ。
◇◇◇◇◇◇
ホワイトパール王国から少し離れた場所に、小さな森があった。
「なっ……お前!?」
「ぅ……」
そこに、アブディエルが倒れていた。
抱き起し確認すると、着ている服の胸部分が破かれ、心臓付近に呪符が張られている。
さらに背中。青く内出血していた。背中の服が破れていることから、衝撃で弾けたようだ。
「これは『鎧通し』……この呪符、心臓から命を吸って呪力に返還している。そうか、これは目印……俺がアブディエルを見つけるための目印か」
「ふ、レア……」
「待ってろ。すぐに楽にしてやる」
俺は胸の呪符をはがす。
剥しただけでは呪術の効果は切れない。指先に呪力を集め、アブディエルの心臓付近を指でなぞった。
「ぅ、あ……」
「呪力の流れを断ち切る。すぐに楽になるぞ」
「ぅ……」
「よし、あとは背中」
左足に『天照如意具足』を装備し、アブディエルを抱きしめながら全身を第四地獄炎で燃やす。すると、アブディエルの傷付いた身体が綺麗に癒された。
「おい、しっかりしろ。おい」
「あぅ……叩かないでよ」
「呪符は剥したし、呪術の処理もした。背中の傷も治したぞ」
「…………」
「何があった? ミカエル、カグヤは?」
「……連れて行かれたわ」
「は? 連れて行かれたって、あの二人をか?」
「ええ」
アブディエルは、悔し気に顔を歪めた。
「あの、白い女の子……呪術師に」
「呪術師……白いっていうと、ハクレンか」
「ホワイトパール王国に連れて行かれたわ。『疫病魔』が会いたいって」
「……ヴァジュリ姉ちゃんが?」
「ええ。私はメッセンジャー……あなたに、このことを伝えるために残された」
「そうか。じゃあ、ホワイトパール王国に行けばいいんだな……立てるか?」
アブディエルを立たせ、俺は首をゴキッと鳴らす。
目的地は、ようやく決まった。
ホワイトパール王国にいるヴァジュリ姉ちゃんの元へ。
「……その、ありがとう」
「ん?」
「怪我、治してくれて」
「いいって。それより、まずは服なんとかしないとな。裸じゃ寒いだろ?」
「え?…………………っ!?」
アブディエルは、上半身がほどんど裸だった。
慌てて胸を隠し、しゃがみ込み……赤い顔で俺を睨む。
「ッッッ!! 変態……」
「お、おお、なんか悪かった」
「ふん!!」
アブディエルはそっぽ向き、俺はなんとか宥めようと時間をかけることになった。
◇◇◇◇◇◇
アブディエルは、魔法で(異空間なんちゃら魔法?とか言うらしい)で新しい服を取り出し着替えを済ませた。なぜか俺は睨まれてた……女ってわからん。
いざ、ホワイトパール王国へ!!……って思ってたのだが。
「もうすぐ日暮れか」
「……行くなら、明日にしましょう」
「だな。深夜に殴り込んでもいいけど」
「駄目。あっちは人質がいるのよ? 下手に動かないほうがいいわ。ちゃんと、日が明るいうちにね」
「はいはい。じゃあ、今日は野営……あのさ、俺と二人で大丈夫か?」
「別に。あなた、私を襲うつもり?」
「いやそんなことないけど」
「ならいいわ。でも、私の胸を見た代償……夜警はあなた一人でね」
「へいへい」
森の中なので枝はいっぱいある。
アブディエルに火を点けてもらい、俺は適当な木の実や野草を集めた。
幸いなことに、旅の道具はあった。
野草や木の実を鍋に入れ、適当に煮込んでスープを作る。
「ほれ、熱いぞ」
「ん」
スープは、ちょっとしょっぱかったけど美味かった。
あとは寝るだけだが……アブディエルは言う。
「ねぇ、少し話をしない?」
「話?」
「ええ。呪術師のこと、知りたいわ」
「別にいいけど、何が知りたいんだ?」
「呪術のこと」
アブディエルは即答した。
呪術のことが知りたい……そういや、そんなこと言ってた特級冒険者もいたな。今じゃ死ねない呪いに苦しんでいるけど。
「地獄炎の呪術師。呪いと炎。世界最強の戦闘集団……聖天使教会でも、その存在は危険と判断された。そして、呪術師を滅ぼすべく戦いを挑んだけど、たった四人の呪術師に天使の軍勢は敗北」
「…………」
「その強さ、興味があるの。私の復讐に役立つかも」
「やめとけ」
「……なんで?」
「興味本位で呪術師に手を出すな。呪われるぞ」
「…………あなたが、呪うの?」
「さぁな。でも、先生が言ってた。『呪うなら、呪われる覚悟が必要だ』って。現に、俺たち呪術師が呪いを使うためには、呪われることから始まる」
「…………」
「ま、そういうわけでやめとけ。お前の復讐はちゃんと手伝ってやるからさ」
「……ええ」
アブディエルの復讐。
そういやこいつも苦労してんだよな。
「ま、寝とけ。俺が見張ってるからさ」
「……ええ、ありがとう」
アブディエルはころんと横になると、寝息を立て始めた。
「……明日か」
明日、ホワイトパール王国に殴り込みだ。




