和尚とお別れ
なんとか、貧民街にたどり着いた。
うろ覚えの地形、道を進みながら到着。
貧民街には子供が大勢いた。その内の何人かは俺を覚えていたのがありがたかった。その子たちに貧民街のリーダーであるガッシュを呼んでもらう。
「フレアさん! また来てくれるなんて」
「どもども。あのさ、いきなりだけど」
俺は、和尚の影に隠れるようにいる子供たちを見る。
「……その子たちは」
「ああ、人身売買組織から助けてきたんだ」
「なるほど。そういうことですか」
ガッシュは頷くと、子供たちを呼ぶ。
「食事と、着る物を準備してくれ。それと、お湯を沸かして身体を拭いてやるんだ」
ガッシュ、ちゃんとリーダーやってるんだな。
子供たちは連れて行かれた。ここでならちゃんと面倒を見てくれるだろう。
「ところで、飯とか大丈夫なのか?」
「はい。魔法を覚えた子たちのおかげで、狩りの成功率が上がりまして」
「なるほど。ああ、困ったこととかあるか?」
「いえ、今のところは」
思った以上に大丈夫そうだ。
もう、貧民街は大丈夫だな。子供たちが立派に成長して、ここが町みたいになる日も遠くない。よく見ると、ガラクタばかり置いてあったのに、どこかスッキリしてる。家みたいなものちゃんと建っている。
和尚は、フムフムと頷いた。
「フレア。ワシはしばらくここに住むことにしよう」
「え、なんで」
「ワシが救った子供じゃ。落ち着くまで面倒を見るのが筋じゃろ?」
「そんなもんかな」
「うむ。それと、ホワイトパール王国に用事があるのじゃろ? ワシの用事は終わったし、お前さんがやりたいことをやればいい」
「和尚……うん、ありがとう」
俺は和尚に頭を下げた。
和尚がいれば、さらに安心だ。
俺はホワイトパール王国へ向かって歩き出そうとして───。
「ああ、最後にフレア」
「ん?」
「ワシと、本気で戦わんか? 純粋な、力比べを」
和尚が、そんなことを言った。
俺は立ち止まり、和尚を見る。
「……マジで?」
「ふふ、純粋な興味よ。ワシも武を納める者じゃ。強者に挑みたい気持ちはある」
「……」
和尚は強い。
俺も武を習った。和尚と戦ってみたい気持ちはある。
「心配するな。本気を出せば殺し合いになってしまう。能力なしの、純粋な体技で競おうぞ」
「……わかった。じゃあ、一本だけ」
俺は首をコキコキ鳴らし、両足で地面を踏みしめて構えを取る。
和尚は右手を手刀の形にして、左手を胸の前へ。
「名乗るぜ。俺は、呪闘流甲種第三級呪術師ヴァルフレア」
「錦流武術十八代目皆伝『覇王拳』メテオ・ブルトガングじゃ」
子供たちは見守っている。俺と和尚が笑みを向けるとホッとしたようだ。
「では───参る!!」
「来い!!」
和尚が滑るように突っ込んで来た。
右手の手刀がゆらゆら揺れる。軌道が読みにくい……すると、右手が顔面目掛けて突き出された。
「ッ!! っしゃぁ!!」
「フッ!!」
俺は首をひねって躱し、和尚に上段蹴りを食らわせる。
だが、和尚は左腕で受け、そのまま右足で前蹴り。俺はその前蹴りを腕で受けた。
互いに離れ、すぐに接近。息もできない連続攻撃を繰り出す。
「わ、わぁ……すごい」
「みえないよ……」
子供たちが唖然としている。
それくらい、俺と和尚の攻防は速かった。たぶん和尚、カグヤより速い。
受け、躱し、ギリで躱し、攻撃し───決定打がないまま五分ほど経過。
「ッフ!! はぁ~~~……っ、ここまでじゃな」
「ああ。和尚、めっちゃ強い……体技だけじゃ終わらない」
「うむ。ワシも『変身』せねば勝てないのぉ」
「変身?」
「こっちの話じゃ。くくく、いい刺激になったわい」
俺と和尚は構えを解く。
たった五分。されど五分の攻防は、引き分けで終わった。
体技でここまで戦える相手は、カグヤ以来だ。
「フレア。またやろうぞ……さらばじゃ」
「うん。和尚、いろいろありがとうございました!!」
「うむ!!」
和尚はニッコリ笑い、満足そうに頷いた。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
一方そのころ。
カグヤ、ミカエル、アブディエルの三人は、ホワイトパール王国近くの森にいた。
「あの馬鹿!! なんっでいないのよ!! ああもう!!」
「ホンットにもう!! 見つけたら蹴りまくってやる!!」
ミカエルとカグヤは怒っていた。
いつの間にかフレアはいなかった。どうやらはぐれたようだ。
ホワイトパール王国は目の前なのに、フレアを探していた。
アブディエルは、杖を掲げたまま目を閉じている。
「……いない。私の探知にも引っかからない」
「……なんでよ」
「地下にいるとか、かな?」
ミカエルの苛立ちを感じたアブディエルは、短く言う。
まさに、フレアは現在、奴隷売買組織がある地下で戦っていた。
フレアが黄金級ゴーレムと戦っているなんて知らない三人は、ため息を吐く。
「もうあいつ無視していいんじゃない?」
「賛成。アタシ、さっさと宿に入ってお風呂入りたいわ」
「あたしも。アブディエル、あんたは?」
「……お風呂、入りたい」
三人が諦めモードになっていると───。
「みつけた」
いきなり、幼い声が聞こえた。
「「!?」」
「え、私の探知に引っかからない、え!?」
そこにいたのは、白い少女だった。
十三歳くらいだろうか。真っ白な呪闘着を身に纏い、どこか眠そうな白い髪の少女だ。
「じゃあ、やる」
ゆらゆらと身体を揺らしながら───呪闘流曲種第一級呪術師ハクレンが襲い掛かってきた。




