BOSS・黄金級鉄機『射手座』サジタリウス・ノウヴァ①
下半身が馬で上半身が人間のゴーレム、サジタリウス。
なんで黄金級がここに? とかいろいろあるけど、戦いは避けられそうにない。
俺は右手に『火乃加具土命Spec2』を、右足に『フリズスキャルヴ・カテナSpec2』を装備。あまり大規模な技は使えないので、少しだけ全身を燃やす。
いくら魔神器が進化しても、狭い場所や密閉された空間では使いにくいって弱点は消えていない。
目の前にいる女は、サジタリウスをバシッと叩く。
「名乗るわね。あたしはゴーレムマスターのアイネ!! 今は雇われ傭兵だけど、以前はパープルアメジスト王国でそれなりに名の知れた操縦者だったんだから!!」
「声デカいな。聞こえてるって……で、なんで黄金級が?」
「そりゃ、野良で暴れてたをのとっ捕まえて、あたしが改造したのよ」
「すげぇな。黄金級ってめっちゃ強いゴーレムなんじゃ」
「ま、苦労したけどね……それより、いい?」
「ああ。戦うなら相手してやる。俺は、呪闘流甲種第三級呪術師ヴァルフレアだ。よろしく」
「よろしく。ま、短い付き合いだろうけど、ね!!」
アイネが手を突き出すと、サジタリウスの両手がバカっと開いた。
反り返った金属棒が二本ずつ、左右の腕に……まるで「弓」のようだ。
サジタリウスが両腕を突き出すと───。
「撃てっ!!」
「───ッ!!」
俺は横っ飛びする。
すると、俺の立っていた場所に、光る金属の『何か』が突き刺さった。
とんでもない速度で飛んできたそれは、俺が見ている前で消える。
「エネルギーアロー、なんて言ってもわかんないよね。実体のない『熱』の矢。弾切れの期待なんてしない方がいいわよ」
「速い……」
「ふふ。そりゃそうよ……さぁ、遊びましょうか!!」
サジタリウスが馬のように後ろ足で立ちあがる。
そして、弓となった両腕が俺を狙い、走り出した。
「やっべ!?」
リングはそこそこ広いが、このサジタリウスの速度だとほんの数秒で俺に迫ってくる。
俺はリングに沿うように走る。すると、サジタリウスが背後から『光の矢』を放ってきた。
「うおわわわわっ!?」
ジャンプ、しゃがみ、首をひねり、右手で弾く───光の矢をなんとか回避。
「あッははは!! うまく避けるじゃない!!」
「そりゃ、どうもっ!!」
俺は急ブレーキかけ、そのまま方向転換。
すぐ後ろに迫っていたサジタリウスに向けてダッシュ。
身体を回転させ、回転の勢いを乗せた回し蹴りを、サジタリウスの前足に叩き込んだ。
「どらぁっ!!」
ドゴン!! と、フリズスキャルヴ・カテナSpec2とサジタリウスの前足がぶつかる。
だが、サジタリウスの前足は亀裂すら入らない。
オリハルコン製は伊達じゃない。地獄炎ですら完全には焼き尽くせない装甲。確か、『黒勾玉』とかいう、変な形した石みたいな神様が生み出した鉱石だったよな。
「くっ、硬いな……」
「あっはっはっは!! 人間の蹴りで砕けるわけないでしょうが!!」
「ごもっとも」
俺はバックステップして距離を取る。その間も、サジタリウスの両手からは光の矢が放たれた。
だったら───狙いは本体!!
「あら、あたし?」
「マスターブッ倒せば止まるだろ!!」
俺は指示を出してるアイネを狙う。
右足を振りかぶり、氷の鎖をアイネめがけて飛ばした。
「真・第二地獄炎、『スナイプ・チェイン』!!」
氷の鎖がアイネに向かって飛ぶ。
あとは、鎖でがんじがらめにして、少しずつ身体を凍らせればいい。そして、「凍死したくなかったらゴーレムを止めろ」って言えば───。
「『跳躍』」
「えっ……」
アイネが消えた。
そして、背後から声。
「あたし、特異種なの」
「───ッ!!」
サジタリウスの背に、アイネがいた。
全く動いたように見えなかった。いつの間にか、消えた。
驚いていると、アイネが言う。
「半径十メートル以内なら、好きな場所に移動できる。移動の際、私はこの世界から完全に消える。どんな達人だろうと、あたしの気配を察することはできない」
「マジかよ……」
「これがあたしの能力、『跳躍』……この能力とゴーレムマスターとしての力、さらにサジタリウス……あたしは無敵よ」
サジタリウスの弓が、俺に照準を合わせた。
アイネが、不思議そうに言う。
「あれ? あんた……なんで笑ってんの?」
「いや、笑うだろ? だって……こんなにも面白い戦いなんだからな!!」
久しぶりの強敵に、俺は笑みを浮かべていた。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
砕け散った壁。
床には無数の亀裂。
そして、無数に転がる死体。
「な、な、な……なんだ、なんだお前!?」
叫ぶのは、ナイフを両手で持つ男。
彼の足下には、魔法使い風の美女が無惨な姿で転がっている。
さらに、人形を持った少女は、恐怖で失禁していた。
「はっはっは」
笑うのは、一人の僧。
僧の後ろには、年端もいかない子供たちが、幸せそうに眠っていた。
転がる死体は、僧───和尚を殺しに来た、奴隷売買組織の兵士。
「お前さんたち、ワシが誰だかわからんようじゃのぅ」
和尚は、笑っていた。
にっこりと笑っていた。でも……和尚の全身には血管と神経が浮かび上がり、皮膚も血のように赤く染まっていた。
でっぷりしたお腹は、別人のように引き締まり、腹筋の筋がこれでもかと刻まれている。
身長も、フレアよりも小さかったのに、今では二メートルほどに伸びていた。
恐るべき圧力。だが、笑顔。
その笑顔が異質で、より一層の恐怖を与えていた。
「う、うぁぁぁぁぁ───ッ!!」
まだ残っていた兵士が、やぶれかぶれで和尚に向かって走り出す。
手には剣。だが、和尚は気にしていない。
向かってくる兵士の動きに合わせ、掌底を繰り出す。
掌底は、兵士の胸に触れた。
「『覇王拳』───木端微塵」
ボン!! と、身体が爆発した。
肉、骨、内臓が飛び散り、周辺を汚す。
覇王拳。
その名を聞いたナイフ使いの男が、ガタガタ震えながら言う。
「は、は、覇王拳……とと、特級冒険者序列1位!?」
「はっはっは。ようやく気付いたか。では……終わりにしようかの。子供たちも腹を空かしておるし、フレアも頑張っておる」
「す、すす、済まなかった!! も、もうしません!! あの、助け」
ナイフ使いの男は、失禁しながら土下座した。
人形を抱く少女は、恐怖で失神した。
和尚はしばし考えこみ───笑顔のまま言う。
「反省したならよし。ゲンコツ一発で許してやろう」
ナイフ使いの男は、護衛の引退を決意した。




