人身売買組織との戦い
「で、ここが人身売買組織ってやつ?」
「うむ」
俺と和尚は、ホワイトパール王国に到着……したんだけど。
なぜか、王国郊外の墓地に来ていた。
完全な墓地。しかも、誰も手入れしていないのか、草はボーボーだし墓石はだいぶ朽ちている。まるで、忘れ去られた墓地だ。
訝しむ俺。すると和尚が言う。
「見ろ。確かに墓地は朽ちているが、馬車の通った跡があるぞ。しかも新しい」
「あ、ほんとだ」
「やはりあったか……どうやらここが、地下の入口じゃな」
「地下?」
馬車が通った跡を進むと、妙な岩場に到着した。
俺も和尚も気配を消している。おかげで、すぐに気付いた……この岩場、なんか嘘くさい。
和尚は、周囲を確認して岩に触れた。
「やはりの。これは地下へ通じる入口の一つ……やはり情報通り。この下には貴族御用達の違法カジノがある。さらに、人身売買組織のアジトでもある」
「わかんの?」
「うむ。見ておれ」
和尚が地面に右手を置き、軽く押した……ように見えた。
「錦流骨法、『気功円』」
「おお……」
和尚の手から、温かい何かが放出されたように見えた。
「───ふむ、相当な広さじゃのぉ。小さな町くらいはありそうじゃな」
「そんなに広いの?」
「うむ。ホワイトパール王国貴族の違法な遊び場じゃ。ここで行われている『賭け』は、人の命をもてあそぶようなものばかりと聞く……放ってはおけん」
「……どうする? ぶっ潰すんでしょ?」
「うむ。くくく、これは面白い。どうやら、地下を隠すために入口はここともう一つしかない。フレアよ、挟み撃ちで殴りこもうぞ」
「お、いいね。派手にやっていいの?」
「もちろん。ああ、なるべく殺生はするなよ?」
「わかった」
「では、ワシは別の入口に向かう。きっかり五分後に、この入口を破壊して脱出できないようにしてから暴れろよ」
「うっし!」
俺は拳を打ち付け、気合を入れる。
和尚はニカッと笑い、別の入口に向かって走り出した。
「さぁて。悪い組織をぶっ潰すか!!」
◇◇◇◇◇◇
五分後。
俺は、地下への入口である岩を思いっきり蹴り壊した。
「な、なんだぁ!?」
「き、貴様、何者だ!!」
守衛っぽい兵士が仰天していた。
何者か? そう聞かれたら答えるしかないっしょ。
「冒険者でーす……ここ、ぶっ壊しに来ました」
ぽきぽきと指を鳴らし、首をゴキゴキ鳴らす。
すると、守衛は剣を抜く。
「ここがどこだかわかってんのか? ここはホワイトパール貴族の遊技場。ここを潰すってことは、貴族を敵に回すってことだ。それに……お前、一人か? 一人で殴り込みに来るなんて、ただの馬鹿だろう?」
「いや、一人じゃないぞ。別の入口にもう一人いる」
「なにぃ?……まぁいい。ここを知られたからには、生かして返さん!!」
守衛が突っ込んできた。
俺は拳を構え、守衛が振るう剣を躱す。そして、無防備な腹に一撃入れ、そのまま身体を回転させ、落ちてきた顎に回し蹴りを下から叩きこんだ。
「な、テメェ!!」
「蝕の型、『激しい頭痛』」
そのまま、もう一人の守衛の頭を掴み呪術を食らわせる。
守衛は頭を押さえ、そのまま倒れ込んだ。
「ッッッッッッッ!?!?」
「声も出せないほど痛いだろ? 激しい頭痛ってキツイよなー」
「ッッッッッッッ……」
「じゃ、そういうことで」
頭を押さえ、歯を噛みしめ、瞼をぎっちり閉じて痛がる守衛を放置し、俺は地下を進んだ。
さてさて……おお、けっこういるじゃん。
「な、なんだ貴様!? ここではマスクをするルールで」
「いや俺、お客じゃないし」
地下の奥に進むと、ものすごーく広い空間に出た。
そこで見たのは……酷い光景。
巨大な水槽で溺れる人間、どうやら何分耐えられるか賭けてるみたいだ。
毒の果実を食わせてる……ああ、何個目の果実で死ぬか賭けてるのか。
あの檻、魔獣……奴隷を無理やり戦わせてる。
「…………」
胸糞悪いな。
しかも、ここにいる連中は全員、綺麗なドレスや服を着てる。さらに顔はバレないようにマスクを付け、純粋に賭けを楽しんでいるように見えた。
これが、ホワイトパール王国。
なんというか……腐った欲望のようなものが見えた。
「プリムが嫌がるのもわかるかもな……」
「貴様!! 侵入者か!?」
守衛が笛を吹く。
すると、大勢の守衛が集まってきた。
さらに、貴族たちも集まってきた。
「侵入者か。ふふ、どれくらいで死ぬか、賭けますか?」
「おお、いいですな。では私は三分に金貨千枚」
「はっはっは、では私は二分に金貨……五千!!」
「おお、張りますなぁ」
全員、緊張感がない。
ああ───馬鹿にされてるな。
「死ね、ガキ」
屈強そうな、ぴっちりした礼服を着た男が俺に殴りかかってきた。
俺はその拳を躱すことなく、そっと手をあてがう。
「流の型『極』、『螺旋巡』」
「!?」
殴りかかる力が、全て守衛に還る。
滅茶苦茶に右腕が破壊され、守衛は血反吐を吐いて吹っ飛ぶ。
テーブルにブチ当たり、男は血の泡を吹いて痙攣していた。
俺はポケットから金貨を一枚取り出し、地面に投げる。
「俺も賭ける。俺がここにいる連中を全員ブチのめすのに、金貨一枚」
うん。もう遠慮しない……大暴れしてやろう。




