BOSS・聖天使教会十二使徒『風』のラーファルエル⑤
「そんじゃ行くぞぉぉぉっ!!」
「はははははっ!! 面白くなってきた!! オレ、生きてて初めてこんな興奮してるよっ!!」
俺は全身を蒼い炎で包み、周辺の海水を炎で燃やす。すると海面が凍りながら燃え、俺の意志で自由自在に動くようになった。
「第二地獄炎、『ヴォーパル・フラッド』!!」
「くははっ!! 『風盾』っ!!」
海水が凍り付きながらラーファルエルを襲うが、エメラルドグリーンの風が盾のような形になりラーファルエルを守る。
「はははははっ!! 本気の守りなんて何百年ぶりだろう!!」
「やっかましゃぁぁぁぁっ!!」
俺は空中を走りながら海水を操作、ラーファルエルにぶつけまくる。
移動するたびに氷の柱が足から生えるもんで、周囲は柱だらけ……これ、ちゃんと溶けるのかな。
ま、こまかいことはいい……第一地獄炎よりもこっちのが効果的だからな。
「ぐっ……まさか!?」
「おし、効いてる効いてるっ!!」
エメラルドグリーンの風が、凍り付いた。
風の盾がビシビシと凍り、エメラルドグリーンの風が砕け散ったのだ。これにはラーファルエルも驚愕……というか、相性最悪だな。
「第二地獄炎、『フリーズ・スプレッド』!!」
ラーファルエルの真下、海面から勢いよく海水が噴射。
だがラーファルエルは突撃槍の一本を下に向ける。それだけで氷の海水が風で散る。
あの三本の突撃槍、ラーファルエルの風を増幅してるっぽいな。
「行け、『風の槍』!!」
「第二地獄炎、『クラッシュオルカ』!!」
海水を『シャチ』という動物の形に形成し、凍らせて発射する。
ちなみにこのイメージや技名、頭の中に湧いてくるのを口に出してるだけだ。青いおばさんのおかげなのかな……あとでちゃんとお礼言おうっと。
氷のシャチ2匹と2本の突撃槍がぶつかる……。
「ありゃ!?」
「はははははっ!! 風使いラーファルエルの本気、甘く見ないほうがいいっ!!」
氷のシャチが砕かれ、槍2本が俺のもとへ。
やばい、どうすっか……………………あ、いいこと考えた。
「そのまま貫かれなっ!!」
「やだね」
俺は息を整え、全身の力を抜く……そして、海水を思い切り吹き上げて壁を作る。
「あっははははっ!! そんな海水でオレの神器を防御できるとでも!?」
2本の突撃槍は、あっさり海水を貫通。
俺目掛けて飛んでくる……うん、これならいける。
俺は両腕を広げ、2本の突撃槍を受け入れた。
「終わりだぁぁぁぁぁっ!! 死ね呪術師くん!!」
「へへ――――ふんがぁぁぁぁぁぁっ!!」
俺は2本の突撃槍を両腕と脇で挟み込んだ。
かなりの速度だった。でも―――先生の突きほどじゃない!!
ラーファルエルの顔が一瞬で歪む。そして――俺は笑った。
「なにを―――……っ、まさか!?」
「もう遅ぇぇっ!! 凍っちまえ!!」
2本の突撃槍は、一瞬で凍り付く。
そう、海水を吹き上げたのは盾にしようとしたわけじゃない―――厄介な2本の突撃槍を海水で濡らすため、そして俺が掴んで凍り漬けにするため……あ、割れちゃった。
2本の突撃槍は凍り付き、力を入れたら砕け散った。
「お、オレの神器を……このっ」
「勝機ぃぃぃぃっ!! おぉぉぉぉぉぉーーーーーっ!!」
「―――しまっ」
ラーファルエルが、最後の1本である突撃槍に視線を向けた瞬間、俺は全力で突っ込んだ。
ラーファルエルまでの距離は二十メートルもない。蒼い炎の噴射ならほんの数秒。
やるべきことはわかってる。
青いおばさんから力をもらった時、すでに受け継いだ。
ラーファルエルは、突撃槍に手を伸ばす。柄に触れるまで1秒もない。風で防御することもせず、俺を見ながら柄に触れる。
でも、俺のが速い!!
「第二地獄炎の女王『アヴローレイア・コキュートス・フロストクィーン』よ―――」
左足が、太股から凍り付く。
氷はゴツく装飾の入った具足となる。
全体的に蒼、そして水色と白の具足だ。そして脛の部分には氷の鎖が巻き付いていた。
「魔神器―――『フリズスキャルヴ・カテナ』!!」
「なっ―――」
脛の鎖が勝手にほどけ、ラーファルエルに向かって飛んでいく。
俺は蒼い炎の噴射、跳び蹴りの体勢に。
「こ、これが地獄門の呪術師!! あははははははっ……すっげぇぇぇっ!!」
鎖がラーファルエルの四肢に絡みつくと、フリズスキャルヴ・カテナが高速で巻き取りを開始。ラーファルエルの身体が俺のもとに引き寄せられ、飛び蹴りをした俺とカウンターの要領で衝突する。
「第二地獄炎『フリズスキャルヴ・カテナ』奥義!! アブソリュート・インパクトぉぉぉぉッ!!」
「ごっ、がぁぁぁぁぁぁっ!?」
跳び蹴りがカウンターでラーファルエルの胸に直撃。ラーファルエルは一瞬で凍り付き、カウンターの勢いで鎖が千切れ、海面に叩きつけられた。
海面には、氷の彫像となったラーファルエルがプカプカと浮く……。
「押忍っ!!」
俺は空中で頭を下げ、そのまま海面に落下した。
◇◇◇◇◇◇
戦いは終わった……でも、失ったものも多かった。
周囲には船の残骸、そして俺の作った氷柱、そして氷がプカプカ浮いている。
俺は大きめの船の残骸に着地し、蒼い炎を解除……そのまま座り込んだ。
「…………はぁ~あ、一人になっちまった」
みんな死んだ。
これからどうしようか……ブルーサファイア王国までどうやって行こうかな。
ラーファルエルはカッチカチのままプカプカ浮いてる。
「あ、また呪力乗せるの忘れた……ムカつくし、口内炎と虫歯だらけにしてやろうかな。つーか寒っ」
息を吐くと白い。
一人ぼっちなのに、不思議と心が落ち着いていた。
ボンヤリと空を見上げると、小さな赤い炎が落ちてきた…………は?
「なんだ? 赤い─────……っ、はぁ?」
赤い炎は海水に落下─────次の瞬間、海が一気に燃え上がった!!
「ぬおわぁぁーーーっ!? ななな、なんだこりゃぁぁぁぁぁっ!?」
メラメラと海水が真っ赤に燃え、氷が全て溶け船の残骸も燃え尽きる。
なぜか俺の乗る残骸だけ火が避けていた。そして気が付く。
「あっ……ラーファルエル!?」
ラーファルエルがいない。
凍り付いてプカプカ浮いてたのに、いつの間にか消えていた。
そして─────。
「地獄門の呪術師……貴様の炎、魅せてもらったぞ」
「え、誰?」
空中にいたのは、ラーファルエルを担ぐ天使……女の天使だった。
燃えるような真紅の長髪、凛々しい瞳、手にはボロボロのラーファルエルを担いでいる。
俺を見る真紅の瞳は、なんだか挑戦的に見えた。
「や、やぁ……助かったよ、ミカエルちゃん」
「ふん。失態だなラーファルエル。十二使徒とあろう者が敗北とは……十二使徒筆頭天使の権限においてこの場で告げる。聖天使教会十二使徒『風』のラーファルエル、貴様は第七階梯天使に降格処分だ」
「え……う、噓でしょ!? ちょ、ミカちゃん!?」
「ミカちゃん言うな。私が助けに来ただけありがたいと思え」
「うっぐぅ……」
「それと、帰ったらアルデバロンの仕置きだ」
「…………あぁ~、うん」
ラーファルエルはがっくり項垂れた……あの、なにこれ?
ミカちゃんと言われた赤い髪の天使は再び俺を見た。
「私は聖天使教会十二使徒『炎』のミカエル。地獄炎の呪術師、お前の炎と私の炎……どちらが強いのかを決めるのはまたの機会にしよう」
「え、そんな話なのか? いや別にどうでもいいけど……あ、俺はヴァルフレア、フレアでいいよ」
「フレア、その名を覚えておこう。ではさらばだ」
「うん。じゃあなミカちゃん」
「ミカちゃん言うな!!」
そう言って、ミカちゃんは十枚の翼を広げて飛んでいった。
同時に、赤い炎は消え、俺のいる船の残骸だけが残る青い海となる。
「…………なんだったんだ? ラーファルエルを助けに来た、でいいのか?」
聖天使教会十二使徒『炎』のミカちゃんか……。
「……まぁいいか。それより、これからどうすっかな……って、んんんんんん?」
炎の噴射でブルーサファイア王国まで飛ぼう。
そう考えて立ちあがった瞬間……海の底からデカい何かが浮上した。
「なな、なんだこりゃぁぁぁぁぁっ!? ああもう驚き疲れたぞ!?」
デカい何かは合計で九つ。木製で細長く、全体的に丸い。
驚いていると、一つのデカい何かの上部がパコっと開いた。
「ようクソガキ、生きてるね?」
「お、おばさん!? 生きてたのか!!」
「おばさん言うなクソガキ!!……ふん。ブルーサファイア王国海軍が海上最強なのは、この『潜水艇』があるからなのさ。船を造る技術はどの王国も保有しているが、海中を泳ぐ船を造れるのはブルーサファイア王国のみ。最初の一隻が沈められた時点で、全船員を避難させたのさ……まぁ、最初の一隻は尊い犠牲だったけどね」
「へぇ……あ、じゃあ!!」
すると、エリザベータ中将の隣からプリムがひょっこり顔を出した。
「フレア!! 大丈夫ですか!?」
「プリム!! はは、よかった……生きてた」
プリムは生きていた。
よかった……本当に安心した。
こうして、ラーファルエルの襲撃から俺たちは生き延びた。




