プリムの決意
ナキは、大勢に囲まれていた。
それだけじゃない。無数の武器を向けられ、攻撃も受けていた……が、今は全員が止まっている。
だが、ナキは一歩も動かない。
ナキの周囲に浮かぶ『ヤカの矢』が、襲撃者たちの首元に突き付けられてた。
「ったく、おめーらオレのこと舐めすぎだぜ? おめーら人間はオレのこと『森人』のナキって呼ぶそうじゃねぇか。それくらい認めてんならよ、もっと人数連れて来いよ」
二十人以上に囲まれているのにこの余裕。
ナキは間違いなく、冒険者最強の一人だった。
すると、ナキを囲う人間の一人が言う。
「ど、どうなってやがる……ぞ、増援が来ねぇ」
「あ?」
「ち、ちくしょう!! 本隊に何かあったのか!? おめぇら、ここは引くぞ!!」
「あ、おい」
襲撃者たちは、ナキの矢を振り切って逃げだした。
路地裏にポツンと残されたナキは、今の状況を正確に分析する。
「増援、本隊……あの身なりからして、血溜組の連中に間違いねぇな。その本隊が、増援が来ねぇってことは……何かあったな? へへ、フレアたちかもな」
ナキの推測は当たっていた。
まさか、迷子になったフレアが血溜組の本部にたどり着き、血溜組組長のゼンジュウロウを相手に『ビビらせて戦意喪失させた』など、さすがのナキも考えつかない。
血溜組の脅威は消えた。
残るは、ホワイトパール王国の特殊部隊『心無き天使』だけ。
「……とりあえず、お嬢ちゃんたちに合流するか」
ナキは矢をしまい、プリムたちの元へ向かった。
◇◇◇◇◇◇
隠れ家には、プリムとアイシェラ、コクマとクロネ、そしてシラヌイがいた。
ナキが戻ると、プリムが心配そうに出迎える。
「ナキさん! お怪我は」
「大丈夫大丈夫。んなことより、お前たちは無事だったか?」
「はい……あの、それより」
ナキは椅子にドカッと座り、テーブルにあった酒をグイっと飲む。
喉を潤したナキは、ニヤリと笑う。
「どうやら、奴さんも想定外の事が起きたらしいぜ」
ナキは、血溜組が引いたことを話す。
すると、コクマがウンウン頷きながら言った。
「なるほどね。これはフレアくんたちかな?」
「たぶんな。想定外の事情……あいつらが絡んでるとしか思えねぇ」
「なら、敵は特異種の部隊だけ。うんうん……これならいけるんじゃない?」
「……何?」
アイシェラは、訝しむようにコクマを見た。
コクマは、プリムを見てにっこり笑う。
「敵がホワイトパール王国の部隊だけなら、可能性が出てきた。次に襲撃があったら、敵を一人だけ残して交渉するんだよ。もし交渉に乗ってきたら、向こうも余裕がなくなってる証拠だしね。無駄な血を流さず、きみの意思を伝えることができるかも」
そう。今までは『血溜組』という協力組織があった。でも今はそれがない。
アイシェラ、ナキ、クロネが脅威と知った以上、『血溜組』の協力がなければ始末は難しいと考えるはず。それに、ナキが『血溜組』のメンバーを退けたと知ったら、脅威度は増しているはず。
向こうは、全滅の可能性も考えて動く。それこそ、ウィンダー国王に指示を仰ぐ可能性もある。
そこで、プリムが出る。
争うつもりはない。ウィンダー国王に話がしたい。そういうだけで話は通るかもしれない。
「たぶんだけど、今も監視されてると思う。試しに表に出てみたら?」
「え……」
「貴様。お嬢様を危険に晒すつもりか!!」
「いや、血溜組が引いたんなら、早めに行動したほうがいいと思って」
「……わかりました」
プリムは、決意したかのように頷く。
立ち上がり、ナキとクロネとシラヌイに言う。
「外に出ます。皆さん、護衛をお願いします」
「ほ、本気かにゃん? うちが偵察したけど、見張りなんて……」
『くぅん……』
「……本気、なんだな?」
「はい」
「……わかった。おいアイシェラ、覚悟決めろ」
「し、しかし」
「お嬢様がここまで本気なんだ。それに……ずっと旅してたお前ならわかるだろ? このお嬢さん、かなり頑固で芯が通ってやがる」
「…………」
成長。
プリムは、フレアたちとの旅で成長した。
何度も命を危険に晒してきたのだ。
プリムの眼には、覚悟があった。
ホワイトパール王国との因縁を終わらせる、覚悟が。
「……お嬢様」
「アイシェラ、お願い」
「わかりました。このアイシェラ、命を賭けてお守りいたします」
アイシェラは跪いた。
コクマはウンウン頷きながら笑う。
「いいねぇ。お姫様と騎士。まるで小説の世界だよ」
一行は、覚悟を決めて外へ。
外は、不自然なくらい生物の気配がない。倉庫街なのに、仕事をしている人間は誰もいない。
プリムは倉庫から出ると、思いきり叫んだ。
「わたしはここです!! さぁ、出てきなさい!!」
「にゃっ!? ちょ」
『───ッ!! ガルルッ!!』
シラヌイの全身が燃え上がり、飛んできた矢を一瞬で焼き尽くす。
そのままプリムの傍で、守るように唸りを上げた。
ナキの矢が浮かび、アイシェラのブルーパンサーが起動。クロネはため息を吐き、腰からナイフを抜いた。
そして、集まりだす気配。
数は十人以上。全員、黒っぽい衣装を着ている。
「わたしは、プリマヴェーラ!! ホワイトパール王国第七王女!! わたしが命じます、国王にして兄のウィンダーの元へ、連れて行きなさい!!」
張り上げた声が波紋のように広がる。
だが、襲撃者たちは止まらない。
「ふん、一人残せばいいだろう」
「アイシェラ、それ悪役のセリフにゃん」
「ま、いいじゃねぇか。遊んでやろうぜ」
『ぐるるるる……』
プリムを守る騎士たちが、闘志を漲らせ武器を構えた。




