特級冒険者序列5位『血溜組組長』ゼンジュウロウ・チダマリ
ホワイトパール王国から、西に約二百キロ。
そこに、町でもないし村でもないし要塞でもない、巨大な建築物があった。
一言で表すなら、木造の神殿。
宝石細工で有名なホワイトパール領土には合わない建築物だった。
そこに出入りする人間もまた、普通の人間ではない。
「親父!! 親父はいるか!!」
建築物の『門』の前で、スキンヘッドの男が叫んでいた。
門番が槍を突き付け黙らせる。
「静かにしねぇか。みっともねぇ……大の男がピィピィわめくんじゃねぇよ」
「それどころじゃねぇんだよ!! 仲間が何人かやられた……話をしねぇと!!」
「ッチ……待ってろ、親父に連絡する」
門番が呟くと、若い少年が現れた。
その少年に耳打ちすると、少年は走り出す。
それから数分。少年が戻ってきて門番に言う。
「親父が会うそうです。中へ!」
「おう! 聞いたな? 親父んとこ行けや」
「ああ! ありがとよ!」
スキンヘッドの男は、門が開くと駆け出した。
そのまま走り、神殿の中へ。
神殿の中は迷路のようになっていたが、スキンヘッドの男は迷わず進む。
そして、神殿の一番奥にある『襖』という引き戸を開き───。
「親父!! 仲間ぁやられた!! 助けてくれ!!」
そう叫んだ。
すると───座布団を枕にして寝転がっていた男が、のっそり起き上がる。
「やられたぁ?……ほぉ、ワシの息子をヤッたんは誰じゃ?」
「例の『特異種』の集団だ!! 天使様の命令で追ってた……」
「ああ、王女なぁ……そいつにやられたんか?」
「違う。王女じゃなくて、王女を守ってる連中だ。どうやら、親父と同じ特級冒険者がいるみてぇで」
「……ほぉ」
男は、座布団に座る。
独特な雰囲気を持つ男だった。
着ているのは、着物という民族衣装。だが、ファイアパターンが刻まれた独特なデザインだ。髪は真っ赤……いや、真紅に染まり、ツンツンと尖っている。
男の傍には『刀』という、斬るのに特化した剣が置いてあり、男はその剣を掴んでドカッと立てる。
男の歳は三十代前半ほどだろうか。全身が鍛え抜かれ、圧倒的な存在感を誇っていた。
「おい」
「へ、へい」
「命令は、捕獲だったな?」
「そ、そう聞いてやす」
「命令変更じゃ。捕獲改め……半殺しじゃ!!」
「へ、へい!!」
「それと、兵隊も追加じゃ。特異種の連中も連れてけ……あと、ワシも出る」
「お、親父も!?」
「おうよ。たまには運動せんとなぁ……それに、特級冒険者か? そいつは、ワシじゃねぇと相手できねぇだろう」
「お、おお……親父が戦うなんて!!」
「わかったらさっさと行け!!」
「へい!!」
特級冒険者序列五位。『血溜組組長』ゼンジュウロウ・チダマリは、首をコキコキ鳴らす。
「ワシの息子たちを傷付けた報い。受けてもらおうかのぉ……」
◇◇◇◇◇◇
ホワイトパール王国外れにある神殿。
ここは、冒険者最大の組織である『血溜組』の総本山。
構成員が二十五万八千人、内特異種が五千人、第一階梯天使クラスの戦闘員が一万人在籍する、国家レベルの武力を持つ戦闘集団だ。
その頂点に立つのが、特級冒険者序列五位、ゼンジュウロウ・チダマリ。
ハイシャオ、ハクレン、ヴァジュリの依頼を受け、プリムたちを捜索していた。
なぜ、捜索に加わったのか?
それは簡単……金である。
血溜組は、ホワイトパール王国の国庫並みの大金を受け取り、ハイシャオたちの命令を聞いたのである。
世の中は、金で動く。
天使ですら金で動くのだ。冒険者として金をもらった以上、依頼は受けなくてはならない。
どんな理不尽な依頼だろうと、金をもらった時点でやる。
汚れ仕事だろうと、くだらない依頼だろうと、たとえ物乞いや乞食の依頼だろうと、金さえ払えばどんな依頼も受ける。
それが『血溜組』が掲げる、冒険者としての心だ。
だからこそ、『血溜組』は動く。
国庫並みの大金を受け取った以上、たとえ天使を敵に回しても依頼を達成する。
相手が、ただの少女でも。
そして敵が……地獄炎の魔王を体内に宿す、特異種より、天使よりも危険な存在だろうと。




