貧民街の戦士たち
「と、こんな感じかな」
「いい? この鍛錬法、毎日欠かさず行うこと」
「「は、はいぃ……」」
俺とカグヤは、素質のありそうな子供を一人ずつ選び、ぞれぞれ習った鍛錬法を伝授した。
さらに、俺は一つだけ技を教える。
「いいか? 正式な呪術師じゃないお前に技を伝授することはできないけど……一個だけ、特別に教えてやる」
「は、はい……」
「しっかり構えて……こう」
俺は、子供に構えを教える。
そして、ガッシュを呼んだ。
「ガッシュ。この子に向かって軽く突きを放ってくれ」
「え、でも」
「いいから。ほれほれ」
「わ、わかった」
ガッシュは、軽く突きを放つ。
子供は目を閉じようとしたが、俺は耳元で言う。
「目を閉じるな。肌で感じろ……見ろ、突きはまっすぐだ。その突きの『流れ』を変えるんだ」
「あ───……」
俺は、子供の手を取り、ガッシュの突きの側面を叩き、攻撃を流す。
「流の型、『漣』……これは、全ての攻撃を受け流す技だ。基本中の基本。まずは、これを極めるんだ」
「───はい」
子供は、何かを掴んだのか、手を握ったり開いたりしている。
十年後。この子供は『万物流転』という冒険者として名を馳せることになるなんて、今の俺には想像もつかなかった。
◇◇◇◇◇◇
子供たちの指導を終え、晩飯の支度に取り掛かろうとしていると。
「はいはい~い! 子供たち、仕事の時間だぞぉ~!」
どこか甘ったるい、猫なで声の男たちが貧民街にやってきた。
数は十人くらい。リーダーっぽい男が鼻をスンスン鳴らすと、大鍋に煮立っている魔獣の肉を見つけた。
「おいおいおい、今日はご馳走かなぁ? こんな豪勢な肉、どうしたんだ?」
すると、ガッシュが前に。
子供たちは怯えてしまい、物陰に隠れてしまった。
「お、オレたちが捕まえた。それで、何の用事だよ」
「お仕事さ。きみら貧民街のガキ使って、貴族たちがゲームすんだとよ。ははは、よかったなぁ? うまい残飯いっぱい食えるぜぇ?」
「い、嫌だ!! もう、オレたちはお前たちに従わない!! オレたちはオレたちで生きて行くんだ!!」
「…………はぁ?」
リーダーは、怒りで顔を歪めた。でも、笑っていた。
「馬鹿言うんじゃねぇよ? いいか? お前ら貧民街のガキは、オレたち大人の道具なんだよ!!」
「違う!! オレたちは……オレたちだって、生きてるんだ!!」
「ッチ……めんどくせぇ。おい!! ガキを十人ほど連れていけ!!」
このままだとヤバいな。
ガッシュの男っぷりを眺めていたかったけど、そろそろ出番か。
最初に出たのはカグヤ……あーあ、やっぱりこいつ笑ってるよ。
「おぉ? なんだ、上玉がいるじゃねぇか」
「一つ忠告。アタシに触れようとしたらそれが合図……ここにいる全員、骨を五十本へし折る」
「あぁ? へへへ、やれるもんなら───……」
男の手がカグヤに触れようとした瞬間、男の両腕が曲がってはいけない方向に曲がった。
「え?」
「はい、まず二本。あと四十八」
ベギベギメギボギグシャッ!! と、派手な音が聞こえ、軟体動物のようになった男が崩れ落ちた。
口から泡を吹いた男……憐れなり。
俺は、稽古を付けた子供たちに言う。
「実戦を見るのもまた勉強だ。いいか、よく見てろよ?」
そういって、俺は飛び出す。
呪いや炎を使わず、純粋な体術のみで賊を蹴散らす。
「てめぇ!!」
「くらいやがれっ!!」
「流の型、『漣』」
「あっ」
賊のパンチを受け流し、振り下ろされた剣をも受け流す。俺が教えた子が反応した。
ちゃんとわかっているようだ。この『漣』は、極めればどんな攻撃だって受け流せる。
受け流した後、体勢が崩れた瞬間を狙い、顔面に拳を叩き込む。
「って感じだ」
「あ───……は、はい!!」
見取り稽古はこんな感じか。
懐かしいな……俺も先生からこんな風に習ったっけ。まぁ、優しいのは最初だけで、後から地獄の修行だったけどね。
のんびりやっていたせいで、賊の残りはカグヤとミカエルが倒してしまった。
「終わり。ったく、来るならもっと人数揃えてから来なさいよ。こんなの準備運動にもならないわ」
「同感……それより、こいつらどうするの?」
カグヤは、賊のリーダーの足を踏み砕いた。
「っっぎぇァァァァァァーーーーーーッ!?」
「ねぇ、二度とここに近寄らないって約束できる?」
「ひ、ひ……で、でも、貴族が」
「貴族ね。その貴族の顎を蹴り砕けばいいのかしら?」
「ち、ちが……お、オレたち、貴族に依頼されただけなんだ!! ホワイトパール王国内にいる、死んだはずの第七王女を探すから、使えそうなガキ集めて来いって」
「……おい、その話詳しく」
カグヤを押しのけ、俺はリーダーの胸倉を掴んで睨んだ。




