ホワイトパール国王ウィンダー
ホワイトパール領土。
七つの王国で最も豊かで、鉱山資源が豊富で宝石の国とも呼ばれている王国。
ホワイトパール領土の中心にある、最も豊かな国が、ホワイトパール王国だった。
この国を治める王の名は、ウィンダー。
「なに……? それは本当か?」
「はい。間違いないかと」
ウィンダーは、王城にある立派な執務室で、飼い猫を抱きながら紅茶を啜っていた。
ふさふさした猫はご機嫌なのか、尻尾が揺れている。
ウィンダーは、紅茶のカップを机に置き、報告に来た部下を見た。
「最初から、詳しく話せ」
「はい。先日、貴族街に数名の男女の出入りを確認。『監視者』の情報によると、その中に聖騎士アイシェラ、第七王女プリマヴェーラが確認されたとのことです」
「…………ほう」
「こちらが、『監視者』の描いた絵です」
部下は、一枚の羊皮紙をウィンダーへ。
それは、超精巧に描かれたプリムとアイシェラが、コクマエルの屋敷に入っていくところを描いていた。
『監視者』……特異種による模写だ。
「逃げ出して死んだと思っていたが……ふぅん、戻ってきたんだ」
生きている可能性は高かった。
このまま、ホワイトパール王国を忘れ他国で暮らすのかと思っていたが……ウィンダーは、猫を撫でる。
「監視を付けろ」
「はっ……監視だけでよろしいので?」
「んー……そうだな、ちょっかい出してもいいぞ。何が狙いか知らないけど、今の国王はボクだ。今さら、全てを捨てた末っ子お姫様が来たところで、何も変わらない」
「わかりました。では」
部下は頭を下げ、執務室を出て行った。
ウィンダーは、残った紅茶を一気に飲み干した。
「さて、どうなるかな……感動の再会か、永遠のお別れか」
◇◇◇◇◇◇
「で、これからどうするんだい?」
コクマエルは、紅茶を飲むプリムに聞いてみた。
「うぅ……えっと」
プリムは小さくなる。
ウィンダーに会う。そう決めたのだが、どうすればいいのか。
とりあえず、コクマエルの屋敷を拠点としていた。
クロネは情報を集めに出て、ナキとアイシェラはプリムの護衛。
屋敷にいた堕天使や天使は、コクマエルを除いて全員いない。気を遣う心配がなく、ほんの少しだけホットする一行だった。
「お嬢様。やはり、ウィンダーに会うのは危険では……」
「でも……」
「待て待てアイシェラ。プリムの嬢ちゃんが会うって決めたんだ。オレらがどうこう言うことじゃねぇだろ?」
「む……」
ナキの正論に、アイシェラはムッとする。
プリムは、家族との因縁に決着を付けようとしている。ナキは、その覚悟が気に入り、どんなことがあろうとプリムを守ることを決めていた。
アイシェラは、純粋にプリムを心配していた。
「アイシェラ、心配してくれてありがとう。でも……やっぱり、ちゃんとしたいから」
「……お嬢様」
「アイシェラ。アイシェラは家族に会いたくないの?」
「ええ。全く」
すっぱりとアイシェラは切り捨てた。
もう、家族に未練などない。
しばし、沈黙……すると、部屋の窓が音もなく開き、クロネが戻ってきた。
「ヤバいにゃん」
「クロネ?」
「ここ、監視されてる。しかも、監視してるの……特異種にゃん」
クロネは、青くなりながら話す。
「城下町で、ウィンダー国王に関する情報を集めてたにゃん。ウィンダー国王の評判、すごく
高い。町では『歴代最高の王』とまで言われてるにゃん。現に、ウィンダー国王になってから、民の生活はとても豊かになったみたいにゃん」
クロネは、ナキが手渡した水を飲む。
「黒い噂を集めてたら、纏わりつくような気配をいくつも感じたにゃん。うちと同じアサシンかと思ったら……違った。あれは、特異種」
「特異種……? 馬鹿な。人間の紛い物と国内では忌み嫌われている存在だぞ」
「にゃん。間違いないにゃん……あれは、ホワイトパール王国の闇にゃん」
クロネは、呼吸を整える。
窓をチラリと見て、ナキに言う。
「警戒をしておくにゃん。追跡者は振り切ったけど、ここがバレたら面倒なことになるにゃん」
「ああ。わかった」
ナキの腰から『ヤカ』が何本も飛び、窓から出て行った。
コクマは、ソファに深く座って言う。
「そういえば、聞いたことあるな。ホワイトパール王国の特異種部隊『心無き天使』部隊」
「「「え……」」」
「ウィンダー国王が作った部隊だよ。ま、存在は隠匿されてるけどね」
「おいおいおい、そんな連中がいるのかよ?」
「うん。ボクも噂でしか知らないよ」
「貴様、堕天使だろう。知らないのか?」
「知らないよ。キミだって、天使の町ヘイブンで流行してるドーナツ屋の定番商品のこと知らないだろ?」
コクマはおどけた。
そして───ナキがバッと窓を見た。
「伏せろ!!」
次の瞬間、窓ガラスが砕け散った。
「きゃぁっ!?」
「お嬢様!!」
部屋に飛び込んできたのは、両手にトンファーを持つ、マスクを被った青年だった。
トンファーをクルクル回し、プリムに向かってきた。
「貴様───誰を狙っているのかわかっているのか? 実装!!」
『ウェアライズ』
アイシェラがキレた。
部屋の隅で待機していたブルーパンサーが、アイシェラの音声に反応。一瞬でアイシェラの元まで移動し、ボディを展開。合体した。
「!?」
「はぁぁぁぁっ!!」
アイシェラは、腕部に搭載されている『スタンバトン』を展開。
バチバチと紫電を帯びたバトンが、襲撃者の腹を叩いた。
「───っ!!」
「ダァッ!!」
そして、そのまま前蹴り。
襲撃者は吹っ飛び、床を転がって壁に激突した。
そして、クロネが音もなく近寄り、腕と足を固めて小さな針をクビに刺す。
「筋弛緩剤にゃん。意識を保ったまま身体だけが硬直する、うち特製の薬……にゃっ!?」
だが、襲撃者は動いた。
ぐにゃりと、全身がゴムのように伸びたのだ。柔らかい身体でクロネの拘束から抜け出し、再びトンファーを構える。
クロネは、舌打ちした。
「こいつ……特異種にゃん!!」
ホワイトパール王国特殊部隊『心無き天使』が、プリムたちを襲い始めた。




