ホワイトパール王国へ向かって
「ホワイトパール王国へ~♪」
俺、カグヤ、ミカエル。そして新しくアブディエルを加えた四人は、ホワイトパール王国への道をのんびり歩いていた。
不思議と、プリムたちに危害が加えられる気がしなかった。なので、余裕な感じで歩いている。
先頭は俺。その後ろにアブディエル。その後ろにカグヤとミカエルという並びだ。なんとなく気配でわかる……ミカエル、カグヤがアブディエルを警戒していた。
俺は、アブディエルを真正面から見る。
「……何?」
「いやお前、もうちょい明るく行こうぜ。ミカエルとカグヤが警戒してんだよ。お前、もうちょいこう、明るくパーッとした感じでさ」
「嫌よ……そんなの意味ないし」
「あるって。ほらほら」
「ちょ、やめ……」
俺はアブディエルに手を伸ばす。頭の帽子をクルクル回したり、ほっぺを引っ張った。
「ほれほれほれ、笑え笑えー」
「ちょ、あうっ、ふぁぁはははははぅ!?」
脇をくすぐったり、背中に指を這わせたりする。
アブディエルはケラケラ笑い、涙目に……すると、いきなり頭に衝撃がきた。
「あぶっ!? な、なにすんだ!?」
「……アンタ、調子乗りすぎ」
「……そうよ。余計な真似すんな」
「え、いや、あの」
「「…………」」
「わ、悪かったです。はい」
「はぁ、はぁ……た、助かったぁ」
アブディエルは俺から離れ、息を整えていた。
それから、アブディエルはミカエルとカグヤの間に入って歩きだした……なんというか、俺を警戒してるっぽい。ミカエルとカグヤもアブディエルを守ってるみたいだし。
こうして、三人の冷たい視線を背中に浴びながら、俺が先頭でホワイトパール王国への道を歩いていた。
◇◇◇◇◇◇
その日の夜。
適当な森で野営することにした。
食事はパンに焼いた干し肉と水で戻した乾燥野菜を挟んだ、シンプルなサンドイッチ。
明日にはホワイトパール王国へ到着するし、簡単に済ませた。
そして、四人で焚火を囲む。
「プリムたち、いるかなー」
「たぶんだけど、アタシはいるって思う」
「そんなことより、プリムは天使たちに攫われたのよ? 戦いになる可能性大ね」
ミカエルがきりっとした表情で言う。
すると、アブディエルが挙手した。
「それなら……ホワイトパール王国付近で、私が探知魔法を使う。隠蔽魔法と探知魔法を融合させた『捜索魔法』なら、天使に気付かれずに位置を探れる」
「おお、お前そんなことできるのか」
「私、魔法の腕だけなら天使最高だから」
特に誇るでもなくいうアブディエル。
こいつ、魔法を開発した張本人だもんな。目的はともかく、仲間としては頼れる。
カグヤは、水のボトルを一気に飲み干す。
「とりあえず、天使が来たらボコね」
「待って。理由なく喧嘩売るのはよくない。ダニエルかラティエルだったら説得してみましょ」
「えー?……まぁ、いいけど」
「アブディエル。あんた、戦いたくない天使とかいる?」
「…………ジブリールとガブリエル。あの二人は私に優しかった……」
ミカエルの問いに、アブディエルは俯きながら答えた。
それからしばし無言。
そして、ミカエルが言う。
「とにかく……向かってくるなら潰す。フレア、呪術師はあんたが相手して。あたしらだと呪われて動けなくなるかもしれないし」
「わかった。えーと……セキドウ、フウゲツ、ジョカ、ヒョウカは倒したから……あと三人だ。えっと、オグロにハクレン、ハイシャオだったかな。あと先生たち入れて七人か」
タック先生、ラルゴおじさん、ヴァジュリ姉ちゃん、マンドラ婆ちゃん……たぶん、四人との戦いは未だかつてない戦いになるはず。
今の俺には零式創世炎がある。きっと倒せるはず。
さらに、ミカエルは付け加える。
「天使側も、そこそこ倒したわね。サリエルにキトリエルにドビエルでしょ、ラーファルエルにサンダルフォンにメタトロン。それと……ロシエル」
「聖天使教会十二名、堕天使八名、黒天使七名。合計二十七名。残りは十八名」
「待って。ラティエルとダニエルは抜いて。あと……ズリエル、コクマエルもかな。ズリエルはたぶん一人で聖天使教会の雑務やってるだろうし、そのうち過労死するでしょ。コクマエルは戦闘能力ないし」
「じゃあ合計十四名ね。多いわねー……まぁ、楽しめそうだからいいけど」
カグヤは拳をパシッと合わせた。ってか天使って過労死するのか?
天使は残り十四。呪術師は先生たち入れて七人か。
こいつら全員倒せば、残りは神様三人だけか。
「全部終わったらどうすっかな……」
「そんなの決まってる。冒険でしょ!」
カグヤが拳をグッと突き出す。
「あのねフレア。いろんな場所を冒険したけど、まだまだやってないこと山ほどあるんだからね! 例えば、パープルアメジスト王国にいるゾディアックゴーレムとか」
「あ!! そういやそんなのいたな」
「ブルーサファイア王国だって冒険してないし!」
「確かに!」
「それにダンジョン!」
「うおお……なんだよ、まだまだ冒険したりねぇじゃん!!」
「ふふん。これで決まりね。神とか天使とかのいざこざ終わったら、また冒険するわよ!」
「おう! なんだカグヤ、お前すげぇじゃん!」
「当然!」
うむむ、急に冒険したくなってきた。
アブディエルは興味なさそうにそっぽ向き、ミカエルはため息を吐く。
「……私はどうでもいい」
「あたしはまぁ……その、ついて行くけどね」
この日。俺たちは夜遅くまで冒険の話をして盛り上がった。
◇◇◇◇◇◇
わかっていた。
でも、目の前に来たら、心が揺れてしまった。
「…………」
ホワイトパール王国へ続く街道。
もうすぐで到着する。そんなところで……出会ってしまった。
いや、待っていた。
「ひっひっひ……久しいねぇ、フレア」
「……マンドラ婆ちゃん」
呪術師の一人、マンドラ婆ちゃん。
大きな水晶玉の上に座布団を敷き、その上に座っている。
第七地獄炎を操る、呪術師の村で最強の一人。
俺が知っているのは、マンドラ婆ちゃんが『占い師』ということだけ。
そして、先生の飲み友達……そんな人だ。
「フレア。そろそろ……大人しくしてもらうぞえ」
「……それは無理だよ。だって俺、やることあるから」
「そうかい……なら、仕方ないねぇ」
マンドラ婆ちゃんの周囲に、紫色の炎が燃えあがる。
第七地獄炎。今ならわかる……マンドラ婆ちゃんは、先生に匹敵する強さを持つ。
俺は、ミカエルたちを睨むように見た。
「絶対に手を出すな。下がってろ」
「「「…………」」」
三人は、無言で下がった。
俺は、首をコキっと鳴らし、前に出て構えを取る。
「呪闘流甲種第三級呪術師ヴァルフレア。マンドラ婆ちゃん……あんたを解放する」
「呪闘流幻種皆伝『予言者』マンドラ・カララ・ベロ・ジャノベ。フレア、お尻ぺんぺんの時間だよ」
こうして、俺とマンドラ婆ちゃんの戦いが始まった。




