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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第十一章・暁の呪術師

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魔法のはじまり

 魔法。

 それは、人や天使が振るう力の一つ。

 魔法を生み出したのは誰か? 聖天使教会の歴史が刻まれている大図書館に納められている『聖典』を開くと、こう記されている。

 『偉大なる魔法を生み出した天使、ドビエル』と。

 だが……真実は違う。

 魔法を生み出し、天使と人に伝えた天使は……ドビエルではない。

 全ての始まりは、年若い天使だった。


「あ、あの! 私、私……その、私の研究を見て下さいっ!」


 皺だらけのローブ、丸メガネ、野暮ったい三つ編み。

 聖天使教会にある研究所に所属する少女天使。

 彼女が、ドビエルに見せた『研究資料』には、『魔法』に関する研究成果がびっしり書かれていた。


「……これは、あなたが?」

「は、はい! 私、その……天使や人間の身体に、共通して流れる不思議な『力』を発見したんです! それを解明して、便宜的に『魔力』って名付けて……いろいろ検証した結果、魔力は地水火風に変化する性質を持ってることを証明したんです! これを操る方法を考えれば、天使にとって新しい『力』になるかと! あ、人間もですけど……あはは」


 天才。

 ドビエルは、目の前にいる野暮ったい少女が、聖天使教会研究所のトップであるコクマエルに匹敵する頭脳を持っていることに気付いた。

 ドビエルは、優しい笑みを浮かべて言う。


「なぜ、これを私の元へ?」

「えっと……最初は、コクマエル所長のところに持って行こうとしたんですけど……所長、なんだかボンヤリしてて、『ここも飽きたな』なんて呟いて……たぶん、まともに話を聞いてくれなさそうだったので。だから、副所長のドビエル様に」

「…………なるほど」


 ドビエルは頷く。

 そして、研究資料を丁寧にまとめ、大きな封筒にいれた。


「わかりました。この研究資料は私が預かりましょう。アルデバロン様に提出し、人員を確保して研究するよう進言します。その時は、あなたをリーダーとして研究することにしましょうか」

「……! あ、ありがとうございます!」


 少女は頭を下げた。

 ドビエルは、笑顔のまま質問した。


「ところで、あなたの名前をお伺いしても?」

「はい! 私、アブディエルって言います!」


 アブディエルは、自分の研究がドビエルに認められたことに歓喜した。

 そして、研究の準備と称し、聖天使教会にある大書庫から研究資料を準備するようドビエルに命じられる。

 大書庫とは、聖天使教会が保有する数万冊の蔵書が保管されている資料室で、いらなくなった資料なども積み上げられていることから、『がらくた置き場』とも呼ばれていた。

 アブディエルは、研究のためならと、一人で資料を集めまくった。

 何日かけてもいい。そう、ドビエルに言われた。

 資料室に籠り、研究材料を集めること一ヵ月……アブディエルは、ようやく研究のための資料を準備した。

 大書庫から出て、資料を抱えてドビエルのいる研究所へ向かうと、そこでは……。


「おめでとうございます!」

「ドビエル博士。おめでとうございます!」

「世紀の大発見!」「さすがドビエル様!」


 拍手喝采を受ける、ドビエルがいた。

 何があったのか? なぜ、研究所でパーティーを開いているのか?

 不思議に思ったアブディエルは、ドビエルに近づこうとする。

 ドビエルがアブディエルを見ると、ニヤリと歪んだ笑みを浮かべる。そして、ドビエルに集まる人たちを丁寧に押さえ、アブディエルへ注目させた。


「あの、ドビエル様……?」

「おや、キミは……誰だったかな?」

「え……? あの、これ……資料、集めてきました。その、研究は……」

「研究? ああ! お祝いに来てくれたのか。この私が発見した『魔力』と、それを応用するための術式である『魔法』の開発に成功したことを」

「…………え?」

「ありがとう!! 誰かは知らないが、本当に嬉しいよ。さぁ、パーティーを楽しんでくれたまえ」

「ど、ドビエル、様……?」


 ドビエルは、唖然とするアブディエルの肩を叩いた。


「ありがとう。キミが馬鹿で助かったよ」

「…………ぁ」


 ようやく、アブディエルは気付いた。

 全て、ドビエルが仕組んだことだ。

 研究成果を全て奪われたのだ。

 アブディエルは、蒼白になりながらドビエルの手を振り払う。


「うわっ!? キミ、何をするんだ!!」

「え……?」


 ドビエルは、大袈裟に転び、アブディエルを非難した。

 すると、アブディエルに悪意の視線が集中する。


「なんだお前は!」「みすぼらしい身なりで……」

「ドビエル様、大丈夫ですか?」「おい、そいつをつまみ出せ!!」

「ま、待って! 私、私が……」


 すると、階梯天使たちがアブディエルを包囲。

 アブディエルを拘束し、そのまま研究所から放り出された。

 ご丁寧に、アブディエルが集めた研究資料は、さりげなくドビエルが奪っていた。

 何もなくなったアブディエルは、蒼白のままへたり込む。


「違う……違う……魔力は、私が……」


 その呟きは、誰にも届かなかった。

 この日から、アブディエルは研究所内で孤立した。

 もともと、あまり目立たずに研究をしていた。だが、ドビエルに危害を加えたという噓が広まり、アブディエルに対して嫌がらせをする天使が現れ出した。

 研究スペースを滅茶苦茶にされたり、呼び出されていじめを受けたり、殴られたり蹴られたり。

 元が気弱なアブディエルは、すぐに参ってしまった。

 部屋に閉じこもり、何もすることなくぼーっとする。


「私が、私が悪いの? 私、何もしてないのに」

 

 アブディエルは、爪を噛む。


「悪いのは……あいつ、ドビエル。あいつが、全部盗んだ……」


 ドビエルは、聖天使教会十二使徒に抜擢された。

 魔法開発者として、研究所の所長に昇格。コクマエルは降格したらしい。

 アブディエルは、自室の床にへたり込む。


「なんで……なんで、私が……私は、研究して、新しい発見をして、もっと研究したかっただけなのにぃ……う、うぅ」


 ぽろぽろと、涙を流す。

 すると、部屋のドアが小さくノックされた。


「…………」

「───……入るよ」


 入ってきたのは、コクマエルだった。

 だが、なんとなく雰囲気がおかしい。

 いつもは、白衣を着ているのに、今日はボロボロのローブに大きなリュックを背負っている。まるで、人間の旅人のようだ。


「単刀直入に聞くよ。アブディエル……ここを出ないかい?」

「え……?」

「ここはもう、キミにとって居づらい場所でしかない。キミが望むなら、ここから出よう」

「……出て、いいの?」

「うん。キミは自由だ。好きなように生きていい。キミの好きな研究もできる」

「…………うん」


 アブディエルは、コクマエルの手を取った。

 こうして、アブディエルは、聖天使教会を出た。

 『裏切りの八堕天使(ブリューゲル・エイト)』の一人、『魔』のアブディエルとして、聖天使教会に復讐するために。


 ◇◇◇◇◇◇


「…………これが、私のこと」

「「「…………」」」


 フレア、ミカエル、カグヤの三人は、アブディエルの話を聞いて黙り込む。

 ミカエルは、舌打ちした。


「ドビエル。クソ野郎だとは思ってたけど……ッチ、吹っ飛ばすんじゃなくて消し炭にすればよかったわ」

「なるほどなー……で、お前、どうしたいんだ?」


 フレアは、アブディエルに聞く。


「復讐。聖天使教会を破壊したい……それと、ドビエル。あいつだけは私がこの手で殺したい」

「ミカエルがぶっ飛ばしたよな。吹っ飛ばしたから生きてるとは思うけど」

「聖天使教会に向けて吹っ飛ばしたから、ジブリールが治すんじゃない?」


 そして、カグヤが言う。


「あのさ。フレアに何させるつもり?」

「邪魔者を片付けて。私は、ドビエルと聖天使教会本部を破壊できればいい。でも、きっと邪魔が入るし、今は神がいる……あなたのお手伝いするから、私の復讐に手を貸して」

「んー……まぁ、いいけど」


 フレアは、めんどくさそうに言う。


「まぁ、ドビエルとかいうのはムカつくし、俺も天使に狙われてるし。一緒に来たいなら好きにしろよ」

「……ありがと」

「ちょ、フレア、マジでいいの? アタシが言うのもなんだけど、コイツけっこうヤバそうよ」

「同感。ってかアブディエル、ドビエルに復讐するのはいいけど、聖天使教会本部を破壊するのはやりすぎよ。あそこ、あたしの部屋もあるんだけど」

「知らない。聖天使教会本部は天使の拠り所でもある。そこを破壊すれば、私をいじめた天使どもへの報復になる……やめるつもりないから」


 アブディエルは、ミカエルをジロリと睨んだ。

 ミカエルの額に青筋が浮かんだが、フレアは言う。


「とりあえず、よろしくな」

「…………ええ」


 フレアが差しだした手を、アブディエルはそっと摑んだ。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
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