愛の炎は蒼く輝いて
「…………あれ?」
真っ暗だった。
そして、ぼや~っとした感覚。ああこれ、地獄門の中にいた時と同じ感覚。
そうか……俺、死んじゃったのか。
「……プリム、アイシェラ」
ラーファルエルのクソ野郎、プリムとアイシェラを殺しやがった。
それだけじゃない。俺……なにもできなかった。
俺の炎はあいつに届かなかった。しかもラーファルエルのクソは言った……俺の炎はヌルイって。
雑魚天使は骨も残らず燃えた。天使の槍も溶けたし、どんな魔獣相手にも負けたことはない。
でも、ラーファルエルのクソには届かなかった。
「はぁ~あ……せっかく生き返ったのに、ここで終わりかよ」
闇の中、俺は呟く。
これからどうなるのかな……このまま魂が闇に溶けちゃうのかな。
ブルーサファイア王国、行ってみたかった。レッドルビー王国とか言うところも気になるし、まだまだ冒険したかった。
プリムとアイシェラ……あぁ、シラヌイも。あと船長のおばさん。
みんな、いい人だった。
「……守れなくて、ごめん」
そう呟き、俺は意識を闇に委ね─────。
『いい!! 実にいいわぁ~♪ 女の子のために嘆き悲しむその心!! はぁ~……美しい。そして尊い!! 愛、そう愛!! 愛の心!!』
「……は?」
突如、そんな甲高い声が闇に響く。
闇に沈みかけた意識を覚醒させて意識を前に向けると─────。
「……だれ? おばさん」
『誰がおばさんだクルァァァッ!! この『第二地獄炎』の女王!! わらわを呼ぶのなら『アヴローレイア・コキュートス・フロストクィーン』様とお呼び!!」
「長っ……」
アヴなんちゃらと名乗った『青いおばさん』は、青いギラギラした豪華な椅子に座っていた。
見た目は、とにかく青い。
青白い肌、青い髪、青い目、青いギンギラドレス、青い宝石……目が痛い。目はないけど。
おばさん呼びにキレたのか立ち上がり、地団駄を踏んでる。年齢は二十代くらいかな……若いし、おばさん呼びはちょっと悪かった。
『んふふ。そなたの少女を想う気持ち!! 実に美しい……わらわ、感動しちゃった♪』
「うわっ……」
『おい、なんじゃ『うわっ……』って』
「いや、感動しちゃった♪ってキツイなーと」
『素直すぎる餓鬼じゃな。まぁそんなところも悪くない』
「は、はぁ……」
なんだこの青いおばさん……キャッキャしながら落ち着きなく動いてる。
『むふふ。いろいろ質問していいかの? そなたとあの少女のなれそめは? 初体験はいつじゃ?』
「は? 初体験ってなに?」
『初心なのね♪』
「…………??????????」
『はぁ~……あのクソ焼き鳥野郎と違って初心な男子は可愛いのぅ。わらわ、恋しちゃいそうじゃ』
「…………」
駄目だ。付いていけない。
身体をくねくねさせる青いおばさんは、アイシェラみたいにだらしない顔をしてる。
もうめんどくさいな……さっさと寝たいんだけど。
『ふぅ~……さて本題じゃ。おぬしのぴちぴちした純情な恋心を堪能させてもらった礼に、わらわの炎をくれてやろう。どうじゃどうじゃ? 第二地獄炎の炎じゃ。クソ焼き鳥野郎の炎より使いやすいぞ?』
「いやいらねーよ。俺、死んじまったみたいだし」
『アホ抜かせ。おぬしが死んだら同化したわらわも死んでおる。まだ生きてるぞ』
「え、そうなの? でも、ラーファルエルのクソは強いし、倒せるかどうかわからんしなぁ」
『ふん、あのような雑魚天使に負けるほうがどうかしておる。わらわの力あげちゃうからワンモアトライ!! なのじゃ』
「わ、わんもあ? あとさ、恋心ってなんだ?」
『おぬしがあの少女を想う気持ちじゃよ。つまり……愛じゃ!!』
「あ、愛!? うそ、愛って船を動かす力じゃねーのかよ!?」
『……何を馬鹿なことを言っておる。とにかく、おぬしはまだ生きておる。愛の力で天使をやっつけるのじゃ!!』
「…………そうだな。よーし、ここからはプリムとアイシェラとシラヌイの弔い合戦だ!!」
『レッツゴーなのじゃ!!』
「おおー!!」
青いおばさんが俺に向かって手を伸ばすと、俺の魂が蒼く輝いたような気がした。
そして、全てを理解する。これが第二地獄炎の炎……アヴロ、アヴ……えっと、名前なんだっけ。
『アヴローレイア・コキュートス・フロストクィーンじゃ!!』
「そう、それそれ。長いから青いおばさんでいいや」
『なんじゃとこの餓鬼!? あ、待てーーーーーッ!!』
俺の意識が覚醒する─────。
◇◇◇◇◇◇
「ふぁぁぁ~……なーんだ、大したことないじゃん。地獄門の呪術師っていうから期待したけど、所詮はこんなもんかぁ……やれやれ、こんな連中に追い詰められたなんてね」
ラーファルエルは、船の残骸の上で大きく伸びをして欠伸をする。
フレアが海に沈んだのを確認し、ついでに船も全て沈めた。第七王女プリマヴェーラも死んだようだし、モーリエの失敗と呪術師の始末を両方片付けたことで気分がよかった。
「さーて帰ろっかな。アルデバロンの旦那に報告して、人間の女でも抱こうっと」
ラーファルエルはもう一度欠伸をして、天使の翼を出す。
あとは帰るだけ。
帰るだけなのだが……まだ、終わっていない。
「……ん?」
ふと、異変に気が付く。
「…………っ」
ブルリと、ラーファルエルは震えた。
恐怖から来る震えはある。だが、ラーファルエルは生まれてから一度も恐怖などしたことがない。ならば、この震えの正体は……実に単純だった。
「……さ、寒い」
外気温が、急激に低下。
吐く息が白くなり、身体が熱を求めてガタガタ震える。
あり得ないことに、ラーファルエル周囲の海が……ピキピキと凍り始める。
「な、なんだ……こ、氷?」
そして、ラーファルエルは見た。
海が、蒼く燃えていた。
海面を、蒼い炎が燃えていた。
「…………」
思考が追いつかない。
そこに、さらなる衝撃がラーファルエルを襲う。
いつの間にか、ラーファルエルの背後に誰かが立っていた。
凍った海の上に立つのは……。
「第二地獄炎、『グランド・フリーズ』」
そこに立つのは、全身が蒼い炎で燃える呪術師の少年だった。
ラーファルエルを見る目は、最初から変わっていない。
「なっ……なんで、噓だろ!?」
「嘘じゃねーよ。さぁて……続き、やろうぜ」
フレアは指をコキコキ鳴らし、甲の型で構えを取る。
「呪闘流甲種第三級呪術師ヴァルフレア。ラーファルエル……お前を呪ってやるよ!!」
第二ラウンド、いや……最終ラウンドの始まりだった。




