BOSS・裏切りの八堕天使『博』のコクマエル①
プリム、アイシェラ、クロネ、ナキ、シラヌイ。
そして、コクマことコクマエル。
プリムたちは、コクマから逃れるために、コクマと勝負しなければならない。戦いではなくゲームで。
大きなソファに座ったコクマは、ルールを説明する。
「じゃ、ルールを説明するよ。きみたちは四人だから、勝負は四回。そのうち一回でもボクに勝てれば、きみたちの勝ち。ここから解放してあげる」
つまり、勝負は最高で四回。一対一の勝負だ。
これに、ナキが反応する。
「内容は? 天使であるお前に有利な勝負じゃねーだろうな」
「安心して。公平な勝負をするつもりさ。腕力や特殊能力がものを言わない勝負をね」
コクマはにっこり笑う。
ナキは「ふん」と鼻を鳴らし、腕を組んだ。
クロネは周囲を警戒する。部屋の間取り、出口、窓、物の位置から、いざという場合どうすれば効率よく脱出できるかを計算していた。
シラヌイは……大きな欠伸をして、床で丸くなる。
「じゃ、最初の勝負は……ポーカーだ」
「「「「ポーカー?」」」」
「うん。まずは小手調べ。運試しさ」
コクマが手をパンパン叩くと、ドアが開いた。
そして、手に四角い箱を持った青年が入ってきた。
水色のローブ、水色の髪、水色の眼。そして顔に刺青の入った青年だ。歳は二十代後半ほどで、何やらブツブツ呟いている。
「ご苦労様、カスピエル」
「まったく。吾輩にこんな下働きをさせるなんて……ブツブツ……コクマエル。約束は覚えているだろうな?」
「もちろん。人間が設計した《天体望遠鏡》の図面だろう? ちゃんと後で書き起こしてあげるよ」
「うむ!! ふふふ。今は失われし《星》を観測するための技術!! 天使の技術では作れない人間だけが生み出せる至高の道具!! ははははは!! 楽しみである!!」
いきなり高笑いをした青年ことカスピエルは、持っていた木箱をテーブルの上に置く。
コクマは、苦笑しながら説明した。
「ああ、彼は『裏切りの八堕天使』の一人、『星』を司る堕天使カスピエル。見ての通り、空に浮かぶ『星』のことしか頭にない奴でね……まぁ、害はないよ」
「は、はい……」
カスピエルは、何やらブツブツ呟いていた。
そして、メモを取りながら部屋の片隅に移動。そのまま何かを書き始めた。
コクマは、カードを手に持って広げる。
「このカードには、1から13までの数字が書かれている。これをシャッフルして、並べる」
机の上に、1から13までの数字が書かれたカードが並ぶ。
だが、表面ではなく裏面に並べたので、どれがどの数字だかわからない。
コクマは、その内の一枚を手に取り……額に持ってきた。
「ぼくにはこの数字がわからない。でも、きみたちは見える。さ、キミも同じようにやってみて」
「は、はい」
プリムは、言われた通りカードを手に取り、数字を見ないように額に持ってきた。
「あとは簡単。このままカードを出して、数字が大きい方が勝ち。自信がない場合は勝負を降りることができる。パスは三回までで、三回目のパスを使い切ったら強制的に勝負することになる。じゃ、いくよ……」
「え、あの」
「あはは。これは練習だから」
カードをスッとテーブルの上に。
プリムのカードは5、コクマのカードは3だった。
「これで、きみの勝ち……簡単だろう?」
「チッ……確かに、これは運のゲームだな」
「じゃ、ルール説明はおしまい。誰が勝負する?」
すると、アイシェラが挙手。
「私がやろう」
「アイシェラ……」
「お嬢様。私は勝ちます。私が勝ったら結婚しましょう」
「嫌」
「ふぅっ……よし。気合が入った。勝負だ」
一瞬悶えたアイシェラをプリムは嫌そうに見て、ソファから離れた。
アイシェラは、ソファにどっかり座る。
そして、再び手をパンパン叩いた。
ドアが開き、入ってきたのは……和服を着た美女だった。
長い桃色の髪は丁寧にまとめられ、簪が刺さっている。どこか妖艶な雰囲気がある美女だった。
「彼女はアルミサエル。ゲームの審判を任せようと思って呼んだんだ」
「待てよ……天使が審判だと? 納得できると思うか?」
「んー、大丈夫だよ。彼女は絶対に不正しない。だって、神にも天使にも人間にも興味がないからね」
と、アルミサエルは頷いた。
「その通りや。うちは俗世に興味なんてあらへん……興味あるのは『花』だけや。コクマエル、約束破ったら、どうなるかわかっとるやろね……」
「わかってるって。植物用栄養剤のレシピ、わたしてあげるから」
「ふん……」
アルミサエルは、冷たい目でコクマを見た。
「ま、見ての通り。彼女は『花』にしか興味がない。神の命令も同族の天使も人間も、彼女にとってはどうでもいいことなんだ。ボクの利益に繋がることはやらないよ。だって、彼女になんの得もないからね」
「……まぁ、いいぜ。とりあえず納得してやる」
アルミサエルは、ナキのことなどどうでもいいのか、顔すら向けない。
そして、カードをシャッフルし、テーブルの上に並べた。
「さ、お好きなのをどうぞ」
「…………」
アイシェラは、十三枚のカードを一通り見て……真ん中のカードを掴む。
コクマは、特に悩みもせず、右端のカードを掴んだ。
「では……用意」
アルミサエルが呟き、アイシェラとコクマはカードを額に。
アイシェラのカードはプリムたちにも見えない。
すると、アルミサエルが言った。
「当然だけど、会話は禁止。破ったらお仕置きがあるからね」
プリムたちは、ようやく気付いた。
カスピエルの隣に、水浸しの女が立っていることに。プリムたちをここまで連れてきたプルエルが、ルール違反をしないようにジッと見ていた。
アイシェラは、コクマの表情を見る。
「…………っ」
見た。
一瞬だけ、目元が大きく開いた。
口が空いた。だが、すぐに閉じられる。
アイシェラは、コクマのカードを見た……数は4。
ニヤリと笑う。
「勝負する?」
「当然!!」
「えっと……あー、うん」
コクマは、自信なさげに乗った。
そして───カードがテーブルの上に開かれる。
「えっ」
「うん、ボクの勝ち」
コクマの数字は4。
アイシェラの数字は……1だった。
つまり、アイシェラの敗北。
「表情で騙すなんて初歩の初歩じゃないか。きみ、面白いくらい簡単に騙されたね……まぁ、素直で可愛いというか、騙されやすいというか」
「なななな……っ!! こ、この私が……っ!!」
「じゃ、この勝負はボクの勝ち。次の勝負といこうか」
コクマはにっこり笑い、自信満々に腕を広げた。




