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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第十一章・暁の呪術師

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人の可能性

「ぅ……」


 プリムは、冷たい地面の上で目を覚ました。

 身体を起こし、ぼんやりと周囲を見回し、目をこしこし擦り……ハッと目を開く。


「え、ここ、どこですか!?」


 冷たい地面ではなく、大理石の床だった。

 天井にはシャンデリアがぶら下がり、大きな暖炉や高級そうなソファ、テーブルなどがある。まるで、貴族をもてなすために作られた部屋だ。

 自分たちは、フレアたちを待つために、洞窟にいたはず。

 自分たち……そこで、プリムは思い出した。


「アイシェラ!! クロネ、ナキさん!! あ……」

『くぅん』


 いた。

 床に倒れているナキを、シラヌイが心配そうに前足で叩いている。さらに、クロネとアイシェラ、待機モードのブルーパンサーもいた。

 プリムの声に反応したのか、ナキとアイシェラが起きる。


「っつぅ……一体、何が」

「むぅ……はっ、お嬢様!?」

「アイシェラ!!」


 プリムは、アイシェラに抱きつく。

 アイシェラも強く抱く……さすがのアイシェラも、この状況で鼻の下を伸ばしたりはしなかった。

 ナキは、クロネを揺り起こしながら言う。


「確か、天使が来たんだよな……」

「ぁ……」


 プリムも思い出した。

 全身ずぶ濡れの天使だった。身体中から『泡』が出て、気が付くとここにいた。

 ナキは、舌打ちをする。


「ッチ……どうやら、狙いはフレアたちじゃなくてオレらみてぇだな。そうじゃなきゃ、こんな部屋にわざわざ連れてくるわけがねぇ」

「……同感だ。ブルーパンサー、起動」

『スタンバイ』


 ブルーパンサーが起き、アイシェラに付き従う。

 シラヌイも、警戒しているのか毛が逆立っている。

 欠伸をしながら起きたクロネは、部屋を見回し……気が付いた。


「あれ? これ……にゃんで?」

「クロネ?」

「見て。この絨毯の柄、ダイヤモンド製法で作られてるにゃん。それにこのシャンデリア、宝石が散りばめられてる……貴族に売買するために作られる、ホワイトパール王国でのみ製造される調度品にゃん」

「……確かに」


 プリムは、絨毯に触れながら同意した。

 

「まるで、貴族の屋敷だな……」


 アイシェラがそう言った瞬間、部屋のドアがノックされた。

 全員が、警戒する。

 シラヌイの身体が燃え上がり、ブルーパンサーが戦闘態勢を取る。

 ナキの矢が数本浮かび、クロネも腰からナイフを抜いた。

 プリムは、そっと呟いた。


「ど、どうぞ……」

「失礼するよ」


 ドアを開けて入ってきたのは、ぼさぼさ髪でメガネをかけた三十代くらいの男だった。

 大きなリュックを背負い、どこか緊張感のない笑みを浮かべている。

 

「あー、警戒する気持ちはわかるけど、安心して。キミらをどうこうするつもりはないから」


 困ったように笑う男に、一行はますます警戒した。

 男は、あははと笑って自己紹介する。


「ボクはコクマエル。まぁその……堕天使です、はい」


 『裏切りの八堕天使(ブリューゲル・エイト)』にして『(はくしき)』を司る天使が、プリムたちの前に姿を現した。


 ◇◇◇◇◇◇


「ま、座ってよ。ちゃんと説明するからさ」

「「「「…………」」」」


 コクマエルは、ソファにどっかり座った。

 まだ警戒を続けている一行だが……プリムが前に出て、コクマエルと向き合うように座る。

 堂々と、表情には自信があった。


「初めまして。わたしはプリムと申します……わたしたちをここに連れてきた説明を、お願いします」

「うん。簡単なことさ、キミたちは人質だよ。ヴァルフレアくんの弱点であるキミたちを狙えば、彼に言うことを聞かせられるからね」

「……そうですか」

「貴様……」


 アイシェラがプリムの背後で怒りに燃える。

 だが、プリムはそっと手で制した。


「本当に、そのつもりですか?」

「ん?……どういうことかな?」

「わたしたちに手を出せば、あなたは間違いなくこの世から消滅するでしょう。地獄の業火に焼かれて……」

「へぇ……続けて」

「こうして、わたしたちを前にして会話をするくらい余裕があるあなたです。きっと、わたしたちに人質以上の何かを見ているのでは?」

「……うん。合格」


 コクマエルは、パンパンと手を叩いた。


「ホワイトパール王国第七王女プリマヴェーラくん。やっぱりキミは聡明だね。フレアくんとの出会いでずいぶんと成長したようだ」

「……わたしのこと」

「もちろん、知ってるよ。聖騎士アイシェラくん、暗殺者クロネくん、特級冒険者序列七位のハーフエルフのナキくん。そして炎を司る霊獣アマテラスことシラヌイくん」


 コクマエルは、にっこり笑った。

 敵意のない、純粋な笑みのようにみえた。


「さて。キミたちをここに連れてきたのは、間違いなくボクの意思だ。ここがどこかは後でネタばらしするとして……キミたち、どうしたい?」

「フレアの元に返してください」

「だよね。でも、それはできない。と言いたいけど……チャンスをやろう」

「え……?」


 コクマエルは、人差し指をピンと立てる。


「この中の一人でも、ボクに勝つことができたら……全員を解放しよう」

「……?」

「ふふ、戦いってことさ。ああ、野蛮な戦いじゃない、頭を使ったゲームをしようじゃないか。この中の誰かがボクに勝てれば、全員を解放しよう」

「わからねぇな」


 ナキが、吐き捨てるように言う。


「攫っておいて、ゲームして勝ったら解放だ? わけわかんねぇ……お前ら天使は、フレアが目的じゃねぇのかよ?」

「確かにね。でも、神様の命令に全員が素直に従っているとは思わないことだね。ボクは神様の命令を聞くつもりだけど、それ以上に、フレアの仲間であるキミたちにも興味がある。ヒト、獣人、エルフ……神でもない、天使でもない者たちが、天使であるボクとどう戦うのか。それを知りたい」

「「「「…………」」」」

「これだけは言っておく。ボクは、キミたち人間という種族が、神よりも優れていると考えている。この考えは神だろうと覆せない」

「……わかりました」


 プリムは、頷いた。

 ナキが「おい……!」と肩を叩く。だが、プリムは言う。


「大丈夫です! わたし、皆さんと一緒ならどんな相手でも負ける気しません!」

「いや、襲撃してきた天使に思いっきり負けたろ……」

「にゃん。こいつ、得体が知れないにゃん!」

「私はお嬢様について行く」

『わん!』


 ごにょごにょと、仲間内で相談をしている。

 コクマエルは、そんな様子を見てクスっと笑った。


「いいなぁ……仲間」


 こうして、堕天使コクマエルとの『戦い』……いや、『ゲーム』が始まった。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
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