BOSS・憎悪する者たち②
ラーファルエルが『神玉』を飲み込んだ瞬間、圧が増した。
それだけじゃない。風の規模が以前より強力になり、いくつもの竜巻がラーファルエルの周囲に生み出されていた。
俺は、右足に第二地獄炎、背中に第五地獄炎を纏い飛ぶ。
「へぇ~っ、複数同時に地獄炎を……」
ラーファルエルは、メガネをくいっと上げて笑っていた。
以前と同じだ。こいつ、俺を侮っている。
俺は、背中の第五地獄炎を燃やし、羽のように広げた。
トンボのように広がる翅は、正直気持ち悪い……もっとこう、鳥みたいな翼がよかった。
「真・第五地獄炎、『緑翅』!!」
俺は、空中で複雑な軌道を描きながら飛んだ。
トンボのように、トンボよりも速く。
パワーアップした第五地獄炎は、炎の形状を蟲のようにしなくても使えるのだ。
「荒ぶれ、『神風の祝福槍』」
ラーファルエルは、神器を自分の周りに浮かべた。
「え……? な、七本?」
「ま、そーいうこと」
ラーファルエルの周りに浮かんでいた槍は、なんと七本。
以前は三本だけだったのに、増えていた。
ラーファルエルは、竜巻と槍を同時に操作する。
「『荒ぶる風の輪舞』」
「ッ!!」
竜巻と槍が空中で踊る───……速い。
俺は、右足を凍らせて薙ぎ払う。
「真・第二地獄炎、『アイシクル・チェイン』!!」
「はっ」
凍った足から伸びた氷の鎖が、槍を叩き落す───……ことはなかった。
なんと、全ての槍が氷の鎖を避けた。それだけじゃない、氷の鎖に向かって正確に飛び、鎖そのものを破壊した。
「パワーアップした『神風の祝福槍』は、オレに向かってくる攻撃を自動で撃墜する。飛び道具は効かないよ」
「だったら───……直でブン殴る!!」
「だよねぇ?」
ラーファルエルに接近しようとした瞬間、竜巻が俺に向かって飛んできた。
俺は、全ての竜巻を華麗に回避───してるのだが、ラーファルエル自身も動くせいでなかなか接近できない。
完璧な遠距離戦……ラーファルエルの野郎。
「すごく強くなったみたいだけど、頭の方は相変わらずだね。キミの拳は怖いから、もうオレから近づくことはないよ」
「この野郎……!!」
「さ、続けようか。それと───……敵はオレだけじゃないよ」
「えっ」
竜巻の間を縫うように、フウゲツが俺より速く飛んできた。
全身に第五地獄炎を纏っている。さらに、手には二本の剣を持っている。
「嵐の型───『天牛斬』!!」
「あっぶねぇ!?」
俺は右手を反らし、隠しブレードを展開。
剣の一本を受け止め、もう一本はフウゲツの手を掴んで止めた。
フウゲツは手を捻り、一瞬で抜け出す。
第五地獄炎を身に纏っているのかと思いきや、フウゲツの全身に『トンボ』が止まっていた。
「そうか、そのトンボがお前の身体を……」
第五地獄炎の蟲を身体に付けて飛んだり、四肢にくっつけたトンボを操作して高速で剣を振るう。
空中高速戦闘。それが、呪闘流『嵐』の型。
フウゲツは、両手の剣をくるくる回して構えを取る。
「風の如く貴様を斬る」
「やってみろ」
「おっと、オレも忘れないでくれよ?」
二対一。俺は首をコキコキ鳴らして気合を入れた。
◇◇◇◇◇◇
サンダルフォンとメタトロンは、すでに神器を出していた。
サンダルフォンの『白銀ノ鋼』と、メタトロンの『マニピュレイ・ギア』だ。
ドロドロした液体が空中に広がり、メタトロンは両手に嵌めた手袋でそれを操る。
カグヤは、つまらなそうに言った。
「ねぇ、こんなもん?」
「「……は?」」
「アンタら、つまんないのよ」
カグヤの周りには、鉄の杭や剣、槍などが突き刺さっている。
全て、二人が飛ばしてきたものだ。だが……ただ飛んでくる槍や剣など、カグヤにとっては何の脅威でもない。
カグヤの足技を警戒しているのか、ラーファルエルと同じ遠距離戦法だった。
「アタシにビビる気持ちはわかる。はっきり言ってあげる。アンタら程度、今のフレアにかすり傷一つ付けられないわよ」
「「…………」」
サンダルフォンとメタトロンは真顔だった。
そして、メタトロンは言う。
「ま、そういうと思った」
「そうね。人間らしいわ」
「姉さん、やる?」
「いいわ。今ならできる」
「うん。じゃあやろう」
「ええ、メタトロン」
サンダルフォンは、メタトロンの頬に手を添えた。
「我が名はサンダルフォン。そしてあなたは半身たるメタトロン」
「我が名はメタトロン。そしてあなたは半身たるサンダルフォン」
「愛と」
「心と」
「魂と」
「命を」
「「そして、全てを一つに」」
サンダルフォンとメタトロンがキスをした。
そして、空中に浮かんでいた『白銀ノ鋼』が、二人を包み込む。
『白銀ノ鋼』がぐにゃぐにゃと形を変え……。
「……わお」
そこに、一人の『戦乙女』が現れた。
銀色の鎧を纏った女騎士だ。
手には剣と盾を持っている。長い金髪が風になびいていた。
戦乙女は、カグヤに言う。
「「これが、ボク(わたし)の最終形態。『ヴァルキリー・ソウル』だよ」」
サンダルフォンとメタトロンの声が重なっていた。
ヴァルキリーと名乗った戦乙女は、カグヤの前にゆっくり降り立つ。
「「さぁ、やろうか」」
「わざわざ地上に降りてくるなんてね。ま、いいわ……どんな姿になろうと、ブチのめせばいいだけ」
カグヤは右足を掲げ、構えを取った。
「神風流七代目皆伝『銀狼』カグヤ。言っとくけど、泣いたって許さないからね」
戦いが、始まった。




