BOSS・聖天使教会十二使徒『風』のラーファルエル③
船は十隻。受けていい攻撃は九回……じゃない!!
人が死ぬ。このクソ天使の風が船を持ち上げ海面に叩き付ける。結果は見ての通り……船はバラバラ、乗組員は……くそ、考えたくもない。
俺は全身を炎で包もうとして─────。
「船、燃えちゃうよ?」
「─────っ!!」
ラーファルエルのクソ野郎が薄く笑う。
空中もだが、ここは船の上。船は木の塊……というか、俺の炎は鉄ですら溶かす。
迂闊な炎は火災を引き起こす。だから空中で戦ったり呪炎弾で撃ち落とそうとしたんだけど、それらすべてがラーファルエルに読まれていた。
ラーファルエルは指を俺に向ける。奇しくも呪炎弾と同じポーズだ。
「あと十……行くよ?」
「待て!!」
「……なに?」
「一つだけ聞かせろ」
「へぇ~、面白そうだね。聞いてあげる」
「お前、なんで俺を狙うんだ……別に俺、悪いことしてないだろ」
「ああ、そんなことか」
ラーファルエルはクックと笑いながら……くそ、なんかいちいちムカつく。
「それはね、キミが呪術師だからさ。この世界を呪った呪術師と世界を焼き尽くそうとした魔王は、存在することを許されない。だからキミを……なーんて言うと思った?」
「は?」
「キミを狙ったのはね、退屈だったからさ」
「……たいくつ?」
「うん。呪術師が滅んで、強大な力を使う場所が減ったからね。キミという絶好の暇つぶしを見つけたからツツこうとしただけさ。堕天使共は雲隠れして出てこないし、退屈で退屈で退屈で……おかげで、少しは楽しめたよ」
「…………おい、そんなことのために、船を」
「ああ、人間なんて吐いて捨てるほどいるじゃないか。勝手に増えるし、少しは間引きしないとねぇ」
「…………」
あ、そっか。こいつ……暇なんだ。
暇だから俺を、人の命を弄んでるんだ。
ははは……そうかそうか。
「お前、ガチでクソだな」
「はは、ありがとね。じゃあ……続きといこうか」
「来い。お前だけは顔面変形するまでぶん殴る!!」
俺は『流の型』の構えを取る。
甲の型は三級だけど、流の型は級位をもらえなかった。でも基礎はわかる。
甲の型は攻めに対し、流の型は受けに特化している。
力を抜いて脱力……よし。
「『風針燕』」
「第一地獄炎、『流転掌』!!」
手首から上を燃やし、燕のように舞うエメラルドグリーンの風を叩き落とす。
ラーファルエルが俺を研究したってんなら、俺だって。
こいつの攻撃はキラキラした風。それを飛ばしたり針みたいにして攻撃してくる。
遠距離がメイン……俺との相性は最悪。でも、一撃叩き込めば勝機はある。
「おっ? はは、やるじゃん!!」
「……っく」
ラーファルエルの手から、緑色の燕が何羽も出てくる。
俺はそれを両手で叩き落す。常に死角を気にして、視界に入った燕を見落とさず─────。
「─────っがぁ!?」
脇腹に衝撃……噓だろ!?
「はい残念」
「なっ……ど、どこから」
すると、俺の真下……顎の下から緑の燕が現れた。
「手から出ると思った? ははは、引っかかった~♪」
「こ、の野郎……!!」
「はい、まず一隻」
「なっ……や、やめ」
ラーファルエルが右手の指をクイッと上げる。それだけでエメラルドグリーンの風が舞い、一隻の護衛船が浮かび上がる。
護衛船はそのまま上昇していく……。
「止めろてめぇぇぇぇぇーーーーっ!!」
「あはは、罰ゲ~ムっ!! 残りは九隻ぃ~♪」
船が落下……またもや、俺の目の前で無残に爆散した。
「て、めぇぇーーーーーッ!!」
「おぉ~っと、危ない危ない」
「第一地獄炎、『噴射砲』!!」
俺は飛び上がり、全身から炎を噴き出して推進力に変え、ラーファルエルに突っ込んだ。
ラーファルエルは避けず、両手を前に突き出す。
「そろそろ教えてやるよ。これがお遊びだってことを」
エメラルドグリーンの暴風がラーファルエルを包む。
俺は全身を燃やし、怒りに身を任せて突っ込む。
「第一地獄炎『火乃加具土命』奥義!! 灼熱魔神拳!!」
「『風の聖天使・花鳥風月』」
エメラルドグリーンの竜巻と俺の炎が激突─────。
「っはははははっ!!」
「ぐ、おぉぉぉぉーーーーーッ!!」
改めて思う。こいつ─────強い!!
エメラルドグリーンの竜巻と真っ赤な炎がぶつかる。
だが、徐々に俺が押されていた。
「さっきも言ったけど教えてやる」
「っぐ、あぁぁーーーーーッ!!」
「キミの炎……ヌルいんだよ」
「─────っ!?」
ラーファルエルの風の規模が、一気に倍になった。
こいつ、今まで本気じゃ─────。
「あぁ、ルール変更……この一撃を防げなかったら、残りの九隻を沈めるわ」
「─────!?」
「ふふ、キミの大事なお姫様が挽肉になる瞬間、一緒に眺めようぜ?」
ラーファルエルの風がさらに倍に。
「っぐ、あっがぁぁぁぁ!?」
俺の炎がかき消され、吹っ飛ばされる。
そのまま海に落下。俺はすぐに海面に浮上、もう一度ラーファルエルを叩きのめそうと─────。
「あ─────」
「罰……ゲェェ~~~ム」
だが、俺が見たのは……九隻の船が遥か上空に浮かんでいる光景だった。
『私、冒険したいです─────』
プリムの笑顔が、俺の心をよぎる。
「やめ」
「ばぁ~い♪」
伸ばした手は届かない。
九隻の船が落下する。
プリム、アイシェラ、エリザベータ中将……。
「プリムーーーーーッ!!」
船が海面に激突……木っ端微塵に砕け散った。
九隻の船が落下した衝撃は凄まじく。海面に浮かぶ俺も波に飲み込まれる。
プリムを守れなかった。
俺は、勝てなかった。
炎は、燃えなかった。
俺は─────。
『─────』
何かが、聞こえたような気がした。




