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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第十一章・暁の呪術師

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それぞれが思うこと

 カグヤとミカエルが大喧嘩していた頃。

 プリムは、焚火のそばに座り、マグカップを両手で抱えながら火を見ていた。

 そんな様子を見ていたナキが、煙管に火を点ける。


「どうした、プリムのお嬢ちゃん?」

「…………」

「おーい?」

「……え、あ、はい?」

「いや、ぼーっとしてるからよ。天使の襲撃でショック受けたのかい?」


 ナキは、煙を吐きながら言う。

 だが、プリムは苦笑しつつ、首を振った。


「その、襲撃とか天使の戦いとか……変な言い方ですけど、慣れちゃいました。ふふ、こう見えてわたしたち、かなりの修羅場をくぐってますので!」

「はっはっは。まぁ、うん。確かにな」

「その、考えていたのは別のことです……」

「ああ、フレアのことな」

「ぶっ!?」


 プリムは飲みかけた白湯を吐きだした。

 吐きだした白湯が焚火にかかり、ジュウジュウと音を立てる。

 プリムはせき込み、ナキを見た。


「なな、なぜフレアと」

「いや、見りゃわかる。お前さん、フレアのこと好きだろ?」

「───ッ」


 プリムは赤くなって俯いた。

 ナキは「若いねぇ……」と呟き、煙草を吸う。

 

「ま、年長者のアドバイスだ。後悔だけはするな」

「…………」

「……なんだ、悩みか?」

「……はい。その」

「いいぜ。聞いてやるから吐きだせ。ため込んだままだと毒になるぜ」

「…………はい」


 プリムは、ぽつぽつと話した。


「岩塩湖で戦ったヒョウカさん……フレアのこと、旦那様って。それで、考えたんです。この戦いが終わったら、わたしたちはどうなるのかな、って。このまま冒険をつづけるのか。それとも、どこかに家を持って、お仕事して平和に暮らすのか……」

「…………」

「危険なことがいっぱいあるけど、みなさんとの旅はとても面白いです。でも……この旅もいつかは終わる。その時、わたしは……フレアと、どうなりたのかな」

「…………」

「ヒョウカさんは、フレアに気持ちを伝えて、フレアはそれを受け入れました。わたし、まだ何もフレアに伝えていない。わたし、どうしたいのか……」

「伝えちまえ」

「……え?」


 ナキは、煙管の灰を焚火に落とす。

 真面目な表情で、正面からプリムを見ていた。


「確信した。その気持ちを伝えなきゃお前は絶対に後悔する。プリム、お前はフレアのことが好きだろ? だったら、フレアにそれを伝えろ。その気持ちを抱えたまま旅が終われば、フレアはきっとお前から離れて行く。あいつは、燃え上がるような炎のくせに、その場で燃えずにあちこちフラフラ彷徨うようなやつだ。お前から捕まえないと、きっと見失うぞ」

「ナキさん……」

「ま、カグヤにも言えることだがな。カグヤの場合、自分の気持ちにまだ気付いていない感じだ。だが、あいつがフレアのことを真に『好き』って気づいたら、どんな障害物があろうと蹴り砕いてフレアを捕まえにいくだろうな」

「…………」


 ナキは、煙管をポケットにしまい、大きく伸びをした。


「あのミカエルって天使も、お前やカグヤと似てるな。ッはは、フレアのやつ、モテモテじゃねぇか」

「…………」

「ま、あいつはお前らを拒絶するような男じゃない。話に聞いたが、あいつの住んでた村は一夫多妻らしいぜ。お前ら全員受け入れるだけの器量はあるだろうさ」

「ぅ……なんか、恥ずかしいです」

「とりあえず、ちゃんと答えは出せ。どんな答えだろうと、自分で必ず出すんだ」

「……はい!」


 そう言って、プリムはナキに頭を下げた。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 アイシェラは、クロネと一緒に馬の白黒号の世話をしていた。

 ブラッシングをして、蹄の手入れをする。そしてたっぷり撫でてやる。

 アイシェラは、ブラッシングしながらため息を吐いた。


「……どうしたにゃん?」

「いや……少し、思うところがあってな」

「……フレアのこと、にゃん?」

「ああ。お前も感じているだろう?」

「…………」


 クロネは、蹄の間に詰まった草や泥を掻きだす。すると、白黒号は気持ちよさそうに鳴いた。

 そして、ポツリと呟いた。


「うちら、あいつの足手まといにゃん……」

「ああ。もう私たちでは、フレアと天使の戦いに付いていけない。正直……ここらで、別れるべきだと思う」

「…………でも」

「ああ。お嬢様がそれを望まない。それに、私も……いや、お前と私もだ」

「…………」


 クロネは、否定しなかった。

 そう。これから先、フレアを狙って天使が襲ってくる。さらに、神そのものが相手になる可能性もある。どう考えても、クロネやアイシェラは足手まといだった。

 だが、フレアはそれを咎めない。それどころか、ちゃんと意志を確認した。


「ついていくって決めたのはうちにゃん。うち、あいつには借りがあるにゃん」

「私もだ……くそ、お嬢様のことだけじゃない。私が、私自身が、あいつに大きな借りを作っている。それを返さないと、私自身の気分が悪い」


 アイシェラは、自然と櫛を握る手が強くなっていた。

 そのまま、強めにブラッシングする。


「全く、難儀だな……だが、足手まといとは言ったが、足手まといになるつもりはない。私は、私のできることをする」

「うちもにゃん。うち、天使や神様の情報だって集めてやるにゃん」


 二人は、フレアに恩を返すために『戦う』ことを決めた。

 クロネは、白黒号の前足から手を放す。


「うち、ちょっとフレアのところに行くにゃん」

「む、用事か?」

「にゃん。いろいろ確認しておくにゃん。天使のこと、それと、フレアが会った神様のことについて。些細なことでも、うちならきっと役立つ情報にできるにゃん」


 そう言って、クロネはフレアの元へ向かった。

 アイシェラは、その後姿を見送り、ブラッシングを再開した。


 ◇◇◇◇◇◇


『くぅぅん……』


 シラヌイは、フレアたちから離れ近くの森を歩いていた。

 不思議な匂いがしたので森を進むと、そこには……小さな緑色の『蝶』がいたのだ。


『───、───』

『わぅぅん……』


 その緑色の蝶は、羽をパタパタさせ、エメラルドグリーンの鱗粉を撒いていた。

 シラヌイは気付いた。この蝶は自分と同類。世界で一体しか存在しない特別な『霊獣』で、風を司る霊獣『プーシュケイ』だと。

 シラヌイとプーシュケイは、互いにじーっと見つめ合う。


『わん』

『───、───』

『わぅぅ?』

『───、───』

『……くぅん』

『───、───』

『わん!』


 そして、シラヌイは霊獣に向かって軽く吠え、尻尾を振ってその場を後にした。

 そのまま森を抜けると、顔と腹を押さえたフレアと出会った。


「あいつつ……ミカエルとカグヤ、本気で蹴りやがって。ん、シラヌイ?」

『わん!』

「おーよしよし。なぁ聞いてくれよ、カグヤとミカエルがさぁ」


 フレアに抱っこされ、愚痴を聞く。

 内容はさっぱりわからなかったが、フレアに抱っこされるのはとても気持ちがいいシラヌイだった。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
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― 新着の感想 ―
[一言] クロネとアイシェラの苦悩を取り除いてさしあげて!
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