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地獄の業火で焼かれ続けた少年。最強の炎使いとなって復活する。  作者: さとう
第十一章・暁の呪術師

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BOSS・呪闘流幻種第一級呪術師ジョカ

「幻の型、『揺煌(ゆらめき)』」

「えっ」


 ふわりと、目の前のジョカが第七地獄炎に包まれて消えた。

 俺は鼻を押さえる───そうか、幻の炎で消えたように見せかけ、薬を炎に乗せて周囲に撒いたんだ。多分だけど、薬の効果は匂い消し……この匂い、覚えがある。


「匂い消し……マンドラ婆ちゃんと一緒に作ったっけ」


 自分でも自覚している。

 俺の悪い癖だ。

 こいつ相手に、第一地獄炎だけで戦いたくなった。

 零式を使えば、この辺りの第七地獄炎を吹き飛ばし、寝ているプリムたちを起こすこともできる。さらに、ジョカを瞬殺することだってできるだろう。

 だが俺は、俺の知らない呪闘流を感じたかった。

 魔神器を使わず、第一地獄炎だけを燃やす。


「───どこだ?」


 やばい。わからん。

 第七地獄炎、敵に回すとめちゃ厄介だな。

 あんまり第一地獄炎の火力上げると木々が燃えるし……くそ。


「「「「幻の型、『幻惑胡蝶(げんわくこちょう)』」」」」


 ゆらりと、大勢のジョカが現れた。

 全員、五指に鉄爪を装備している。

 俺は構え、備える。


「来やがれ」

「「「「ふふ……」」」」


 ジョカが一斉に向かってきた。

 俺は、最初に鉄爪を振り下ろしてきたジョカの攻撃を流そうと『漣』で軌道を変える。

 だが───。


「えっ!?」


 手首を狙った打突は、煙に触れたように貫通した。

 幻───このジョカは、本物じゃない。

 そして気付いた。ほんの少しだけ『生身』の気配。

 俺のいる真上。木の枝にジョカがいた。手にはナイフを持っている。

 向かってくるジョカは全て偽物。上空からの一撃が本命。

 上にいるジョカが飛び降りた瞬間、俺は視線を上に向けた。


「なっ───」

「甘いんだよ」


 そのまま、カウンターを叩き込もうと拳を合わせる。

 

「ええ、甘いわね」

「えっ」


 ザクリと、背中に激痛が走った。

 そして───木から飛び降りたジョカが、煙のように消えた。


「生身の気配、感じた? 第七地獄炎の『幻』を使うならわかるでしょう?……第七地獄炎の幻は現実と変わらない。そう認識しちゃうの」

「っぐ、あ……ッ!?」


 まさか。

 向かってくる幻の中に、本物のジョカがいた。

 気配がない。間違いなく、上空から飛び降りてきたジョカが本物だ。

 俺は、幻のジョカに背中を抉られた。


「っこ、の……」

「おっと」


 俺を斬ったジョカに裏拳を叩き込むが躱された。

 そして、上空から襲ってきた生身のジョカが、煙のように消える。

 さらに、俺を囲んでいた無数のジョカが、一瞬で消えた。残った一人のジョカが、俺の血が付いた手爪をぺろりと舐める。


「刻んであげる」

「…………」


 そして、たった一人のジョカが突っ込んで来た。

 一人。だが本物とは限らない。

 これも偽物か。


「その判断が、動きを鈍らせる───滅の型、『桜花連撃』!!」

「くっぉ……っ!?」


 ジョカの連撃が俺に叩き込まれる。

 なんとかガードしたが、ジョカの言う通りだ。

 本物か、偽物か。その迷いが、俺の動きを鈍らせていた。

 目の前のジョカは本物だ。

 こいつ……戦闘での駆け引きが抜群に上手い。

 だったら───。


「だったら、全部受けて全部叩いて全部やっつける!!」

「はぁ?」

「来いよ。へへ、簡単なことだったわ」

「……ふふ」


 ジョカの姿が紫色の炎と共に消えた。

 そして、周囲が一気に紫色の炎で燃え上がり、何十人ものジョカが現れた。

 全員、手に小瓶を持っている。


「「「「幻の型『極』───……『幻魔幽玄炎舞げんまゆうげんえんぶ』」」」」


 ゆらりと、視界が揺れた。

 毒───ではない。これは……なんだ?

 首をコキコキ鳴らし、なんとか意識を保つ。

 視界だけじゃない、四肢も重い。

 意識だけ、身体から抜けて行くような感覚だった。

 

「禁薬よ。さすがに、この毒の耐性はないようね」

「───……」

「さぁ、ゆっくりおやすみなさい」

「…………」


 四肢がだらりと落ちた。

 すっげー気持ちいい……甘いにおい。嫌いじゃないわ。

 すると、首筋にひやりとした感覚……ああこれ、手だ。

 ん?……あれ、今は……ああそっか、戦い。


「え?───ッぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 俺の全身が一気に燃え上がり、耳元で絶叫が響いた。

 ここで、ようやく意識がはっきりしてきた。


「……あ」


 慌てて構えを取る。

 すると、足下に焦げ臭い何かが転がって……あ、これ。


「あ、っが……まさ、か……意識、あった、の……?」

「あ、いや、まぁ……うん」


 ジョカだった。

 全身火傷で苦しんでいた。

 ああそうか。こいつ、俺に接近して何かしようとしたんだ。そこで俺が全身を一気に燃え上がらせたおかげで、巻き込まれて大火傷したんだ。

 ジョカは、苦し気に言う。


「禁薬……意識を強制的に奪い、操り人形にする、薬なのに……なんで、効かない、の?」

「いや、効いてたぞ。気持ちよくてさ、寝ちゃいそうになった。でも、お前と戦ってるって思ったら全身が一気に燃え上がったんだ……ははは、助かった」

「…………っぐ、う」


 あ、気絶した。

 うーん。なんか釈然としないけど、俺の勝ちかなぁ。


 ◇◇◇◇◇◇


「ぅ……あ」

「よ、起きたか」

「え……? あれ、私……あっ」


 ジョカが目を覚ますと、かけられていた毛布を手繰り寄せた。


「……あなたが?」

「ああ。怪我、治ってるだろ? あと服、怪我を治したついでにボロボロだから脱がしただけだ」

「…………なぜ、助けたの?」

「いや、みんな起こせよ」


 俺はテントを指さす。

 ナキとクロネを並んで寝かせ、テントの入口を開いてプリムたちを見せる。

 第四地獄炎なら起こせると思うけど、めちゃ疲れるからやりたくない。なので、ジョカだけを治して全員起こしたほうが楽だと思ったのだ。

 ジョカは小さくため息を吐く。


「半日もすれば起きるわよ……」

「なんだ、そうなのか」

「それより、私をどうする気?」

「どうって……別に? 逆に、お前はどうしたいんだよ」

「私は、あなたを連れてこいと神に命じられた」

「ふーん」

「任務は失敗。このまま戻れば、神に殺されるでしょうね」

「じゃあ戻らなきゃいいじゃん」

「…………」


 ジョカは、ポカンとしていた。

 せっかくなので俺は、ジョカに聞いてみた。


「前から思ってたけど、お前たちって何なんだ? 呪術師なのは間違いないと思うけど……なんというか、俺や先生みたいな雰囲気じゃないんだよなぁ」

「……私たちは、先生たちに拾われた孤児よ。神によって蘇った四人の呪術師に育てられた呪術師。千年前の呪術師とは違う」

「そうなのか……安心したような、残念なような」

「あの四人の先生。老いもしないし感情もほとんど見せない。まるで、ゴーレムみたいな人たち……でも、あなたを見た時は、嬉しそうに見えたわ」

「…………」

「帰らなければいい、か……確かに、あなたの言う通りかもね」


 ジョカは小さく微笑んだ。

 

「私は負けた。だから……あとは好きにする」

「ああ、そうしろよ。あと、神様は俺がブチのめしてやるからな。安心しな」

「ええ……あーあ、すごくスッキリした気分」


 俺は、アイシェラの着替えをジョカに渡した。

 ジョカは着替えを済ませると、俺に言う。


「最後に……フウゲツには気を付けなさい。あの子、セキドウを殺されてすごく怒ってたから」

「フウゲツ……ああ、わかった」

「さよなら。地獄の業火で焼かれ続けた、最強の炎使いさん」


 そう言って、ジョカは幻のように第七地獄炎と共に消えた。


 ◇◇◇◇◇◇


 数時間後。


「ん……ああ!? やっべぇ、寝ちまった!!」

「んにゃっ!?


 ナキが、クロネの尻尾を握り締めながら起きた。

 同時に、テントからプリムたちも起き出してくる。


「くぁぁぁ~~~……すっごくよく眠れましたぁ」

「お嬢様、ヨダレが……ハァハァ」

「アイシェラ、寄らないで。あれ……? フレア?」

「おう。起きたか」


 俺は、かまどの火を熾してスープを作っていた。

 すると、カグヤとミカエルも起きてくる……こいつら同じような寝ぐせして同時に欠伸した。似た者同士にもほどがあるだろ。


「あぁぁ~~~……すっごくよく寝たぁ。こんなに寝たの久しぶりかも」

「あたしも……はぁ、のど乾いたぁ」

「二人とも、寝ぐせがすごいです。アイシェラ、櫛を」

「はい、お嬢様」


 カグヤとミカエルの髪を、プリムが梳き始めた。

 すると、クロネが周囲を見回し……俺に言う。


「…………変な匂いがするにゃん。フレア、何かあったにゃん?」

「いや、何にもないぞ」

「…………ふぅん」

「ほれ、魚焼くぞ。焼き魚好きだろ? それとも肉のがいいか?」

「魚にゃん!!」

『わぅぅん』


 すり寄ってきたシラヌイを撫で、俺は大きな欠伸をした。

 ま、ジョカのことは別に言わなくていいだろ。それより、今大事なのは朝飯だな!!

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
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