BOSS・聖天使教会十二使徒『夜』のドビエル②
ドビエルの生み出した『量産型天使』こと『夜天光』は、黒い槍や剣をミカエルに向けて飛んできた。
ミカエルは炎を帯びた赤い剣を振り、夜天光を焼き尽くす。
だが、少し離れた場所に浮かぶドビエルは、特に表情を変えない。
ドビエルの傍に浮かぶ試験管。『黒く悪しき試験管』から黒いドロドロした液体があふれ、一瞬で夜天光を形成する。
「このっ……ウザったいわね!!」
「なら、あなたの炎で一帯を焼き払えばいいでしょう?」
「……ッ」
「それをしないのは、あなたの甘さだ。人間どもなど吐いて捨てるほどいるのに、気を遣う理由がわかりませんね」
「ドビエル……ッ!!」
ミカエル、ドビエルがいるのは岩塩湖の上空。
ミカエルなら、炎で一気に夜天光を焼き払える。だが、炎の出力を上げると、すぐ真下の岩塩湖も炎で燃えてしまう可能性がある。
なので、大技は使えない。
それだけでもハンデなのに……ドビエルの作りだした夜天光が、単純に面倒だった。
「っく、この雑魚!!」
ミカエルは剣を振るう。
だが、夜天光の一人が剣を盾で受け止めた。
さらに、ミカエルの背後から数人の夜天光が槍を構えて特攻、少し離れた場所では、弓矢を構えた夜天光が何人かミカエルを狙っていた。
一体一体が、階梯天使並みの強さ。それが、十、二十、三十……どんどん増えている。
「『烈火皇』!!」
ミカエルの翼が広がり、全身が一気に燃え上がる。
接近していた夜天光が一気に燃え上がり、飛んできた矢も蒸発した。
だが、これが限界。これ以上火力を挙げるのは危険だった。
「ふむ。弱い……今のあなたなら、『神玉』を飲むほどでもなかった。あの聖天使教会十二使徒最強のミカエルの弱点が、まさか人間だとは」
「…………」
違う。
以前のミカエルなら、迷わず大火力でドビエルを焼いただろう。
だが、今のミカエルはできない。人間のことを知った今、人間を殺すなどできなかった。
ミカエルは、全身を燃やしながらドビエルを睨む。
「なら、少し戦法を変えましょう。今の夜天光なら……」
試験管から、ゴボゴボと黒いモヤがあふれだす。
モヤは夜天光となり、規則正しく横一列に並んだ。
「『量産型天使隊列』」
夜天光は肩を組み、ミカエルに向かって突進してきた。
その数、実に二千。
ミカエルは翼を広げて上空へ。だが、夜天光が先回りして行く手を阻む。
そして、ついに。
「う、あぁっ!?」
夜天光の一人が、ミカエルの翼を掴んだ。
そのまま、一気にがや群がる。ミカエルの首を、足を、腕を、身体を押さえつける。火力を上げようとしたが、翼を押さえつけられ上手く火力が上がらない。
「殺すな。せっかくだ。聖天使教会十二使徒最強の『炎』を、この手で解剖してやろう」
「はな、せっ!! 離せ離せ離せっ!!」
ミカエルは暴れる。
だが、燃えるたびに別の夜天光がミカエルを押さえつける。
ミカエルは歯ぎしりする。ドビエル程度にいいようにされるとは。
一時的に神に匹敵する力を得られる『神玉』が、これほどとは。
「その前に……ミカエル。あなたには呪術師への餌に」
と、次の瞬間。
ドビエルの頭上に、拳を振りかぶったフレアが現れた。
「!?」
「烈の型『極』───『火炎龍焱舞』!!」
「何ッ!?」
四肢が真っ赤に燃えていた。
いつものように燃え上がるわけではない。炎を凝縮した四肢は赤くなり、強烈な熱を帯びている。
フレアは、零式創世炎の『知識』から、烈の型『極』を習得した。
零式創世炎は『世界』の始まり。いつ、どこで、どんなことがあったのかアクセス可能なのだ。だが、膨大な情報量はフレアの脳をパンクさせる。フレアが本当に必要な知識だけダウンロードできるようになっていた。
フレアの灼熱拳が、ドビエルの顔面に突き刺さる。
「ギャァっつづぁぁぁぁぁ!?」
連続攻撃の『桜花連撃』と、顔面を狙った集中打である『百花繚乱』、そして関節部分だけを狙った『登楼牡丹』の組み合わせによる灼熱の演武。それが烈の型『極』である『火炎龍焱舞』だ。
フレアの連続攻撃を受けたドビエルは地面に激突。同時に、夜天光が煙のように消えた。
「フレア……」
「とどめ、どうする?」
「やる」
解放されたミカエルはフレアを見て赤面。だが、ニヤッとしたフレアが指さしたドビエルを見て、一瞬で怒りが沸き上がった。
ドビエルは、全身火傷を負ったがなんとか逃げようと這いずっている。
ミカエルは、ドビエルの目の前に降り立った。
「ひ、ヒィィィィィィッ!? みみ、ミカエル、その」
「黙れ。それと、神に伝えて。あたし、フレアと一緒に行くから。いくら創造主でも、心までは従うつもりないってね」
「あ、あ、あ……」
「じゃ……ぶっ飛べ!! 『炎鶴波』!!」
ミカエルの剣から火玉が生み出され、巨大な『鶴』となってドビエルを飲み込んだ。
そのまま、炎の鶴は彼方に飛び去った。
「おぉ~……」
「ふん。ドビエルのくせに」
「お、黒い天使みんな消えたぞ。あいつを倒したからかな?」
「そうね。っと……そんなことより、いろいろ話すことあるわ。あんたの仲間もいるんでしょ? 場所変えて話をするわよ」
「ああ。へへ、やっぱりな」
「……なにが?」
「おまえ、俺と冒険する運命だったんだよ。な、ミカちゃん」
「…………っ」
ミカエルは、赤くなってそっぽ向いた。




