BOSS・聖天使教会十二使徒『風』のラーファルエル②
先手必勝。
俺は右腕の『火乃加具土命』に力を込め、人差し指と中指をラーファルエルに向ける。
たっぷりの呪力を込める……喰らえ。
「腹痛、頭痛、虫歯の複合『呪炎弾』だ!! 下痢になれ!!」
「あっはっは」
ズドン!! と、大きな火の玉がラーファルエルに向かって飛ぶ。
ラーファルエルはケラケラ笑いながら手をパンパン叩くだけ。
「『風の音色』」
「へ……?」
すると、キラキラした緑色(エメラルドグリーンって言うらしい)がラーファルエルの周囲を包み、俺の呪炎弾があっさりと弾かれ、霧散した。
おいおい、呪炎弾がかき消された……こんなの初めてだぞ。
ラーファルエルは額に手を当て、『やーれやれ』といった感じに苦笑する。
「やーれやれ、わかってないなぁ……キミの地獄炎は確かにすごいけど、オレたち天使は呪術師たちの炎に対抗するために生み出されたんだよ? というか、キミの火力は大したことがない。過去の地獄門の呪術師たちの火力に比べたら火の粉もいいところだ」
「は? 噓だろ? いやいや、おい焼き鳥!! どういうことだ!?」
俺は『火乃加具土命』を左手で叩く……が、当然ながら返事はない。
ラーファルエルは、馬鹿みたいに笑う。
「あっははは、それにさ、ずっとキミを見てたんだ……キミが格闘術の使い手で、遠距離攻撃は炎を発射するだけしかできないってことは、雑魚たちのデータでわかってるよ」
「雑魚……あ!! もしかして、五つ子の雑魚天使って!!」
「そ、オレの仕業♪ マルシエルくんがオレのことをベラベラ喋っちゃったのは予想外だけど……まぁ彼ならしょうがないか」
そういえば、マルシエルが言ってた。自分はラーファルエル様の命令でツツきに来たって。
マルシエルと五つ子雑魚天使が俺を狙ったのは、俺の戦術を測るため……!!
ラーファルエルは、顎を押さえながら困ったように笑う。なんか仕草がいちいちムカつくな。
「卑怯と言うかい?」
「別に。戦いに卑怯もクソもないだろ? 先生だって俺の食事のスープに毒を盛って殺そうとしたこともあるしな。『匂い、味、色、目の前には様々な情報があったはず。それを見抜けないお前が悪い』ってな」
「そ、それはすごいね……」
ま、死ななかったけどね。三日ほど下痢と発熱と頭痛が止まらなかったけど。
「ふふ、キミの戦術を研究した。何ができるか、何ができないか……そして、キミがこれからすることもね」
「だったら、近づいてぶん殴る!!」
俺は船の柵に飛び乗り、ラーファルエルに向かってジャンプ。
両足、そして両手を下に向け、思いきり炎を噴射した。
つまり、炎の噴射を使って飛ぶ。
「ほぉら……ね?」
「だらぁっ!! っとわ!?」
だが、勢いに任せての飛翔はあっさり躱される。
俺は両足から炎を噴射させ空中で姿勢を変える。そして再びラーファルエルに向かって拳を向ける。
「あっはは、こっちこっち!!」
「こ、んのっ!!」
ラーファルエルは、俺の突進をあっさり躱す。
ギリギリまで引き付けてからひょいっと躱す……この野郎、遊んでやがる。
空中は不慣れ。というか初めてだ……やりづらい。
「炎を噴射させてオレに突っ込む。ま、それしかないよねぇ」
「うる、せぇぇぇっ!!」
「あのさ、直線的な動きじゃオレは捉えられないよー?」
「ッく……」
確かに、直線しか移動できない。噴射を利用して突っ込んでるだけだからな……って、こんな状態で移動できるわけがない。というか空中って卑怯臭い!!
何度も躱された後、ついにラーファルエルが動いた。
「じゃ、オレもそろそろやるよ?」
「やってみや「『風の槌』」……っ!?」
ラーファルエルの顔面をぶん殴ろうと足の裏から炎を噴射、拳を振り上げると同時にラーファルエルが手のひらを俺に突き付けたかと思ったら、とんでもない衝撃が俺の全身を叩き、思いっきりフッ飛ばされた。
「ぐ、がっはぁっ!?」
フッ飛ばされた俺は、エリザベータ中将の船を護衛する別の船の柱(マストって言うらしい)に激突。胃の中から熱いものがこみ上げて吐き出すと、それは血だった。
柱からズルズル落ちて船の床板に崩れ落ちる。いってぇ……これ、先生の前蹴りが胃に突き刺さった感覚と同じだ。
「─────っ!!」
「『斬風』」
俺は瞬間的に右腕の籠手で顔と首と胸を守るように丸くなる……すると、足や脇腹がスパっと斬れ、またもや血が噴き出した。
「ぐ、うぅっ!? な、なん」
「カマイタチだよ。痛い?」
すぐ近くで、いや耳元でラーファルエルの声が。
俺は右手を振り払うと、左右には誰もいない……あ、やっべぇ、正面がら空き。
「『風のささやき』だよ?」
「やっべ……」
ほんのすぐ目の前で、ラーファルエルが人差し指を俺に向けていた。
「『風楊枝』」
「っぐ、あっがぁぁぁぁ!? いででででででっ!? 痛い痛い!?」
小さな針が何本も刺さった。
針じゃない。小指よりももっと細い何かだ。
「あっははは!! 大きな穴を開けるとさ、逆に痛みってほとんどないみたいなんだよ。最もいい方法は、針よりもちょ~っとだけ太い楊枝でチクチク刺す。これがすっごく痛い……どう?」
「いてぇに決まってんだろこの野郎!!」
ケラケラ笑うラーファルエルに向かって殴りかかるが、あっさりと躱される。
やばい、こいつに拳を当てられる気がしない。
そして、ラーファルエルはフゥ~と息を吐く。
「さて、盛り上がってきたし、次のゲームを始めようか」
「こっちは痛いだけだっつの!!」
「あはは。まぁ見てなよ」
「…………?」
ラーファルエルが手をかざす……おい、まさか。
それは、エリザベータ中将の護衛船の一隻だ。
「な……おい、何を」
「ゲームさ」
エメラルドグリーンの風が船を包むと、船は空中に持ちあがる。
ぐんぐん、ぐんぐんと高く。まさか、まさか……。
「ルールを説明するよ。オレはこれからキミを徹底的にツツく。キミに一撃食らわせるごとに一隻……ドボーン!!」
船が落ち、海面に叩き付けられた。
船が砕け、水飛沫と共に船の残骸が舞う。
「キミはオレに一撃当てる。もし一撃でも当てられたらオレの負け……二度とこの海には現れないと誓おう」
「お、まえ……」
「護衛船は残り十隻。ああ、第七王女プリマヴェーラが乗る船は最後にしてあげよう。さぁさぁ、オレに一撃でも当てることができるかな? それとも……船が全て沈没。第七王女プリマヴェーラの命は海の藻屑と消えるのかな?」
「…………っっっ」
ラーファルエルは、とても楽しそうに両手を広げた。
「さぁ、ゲームの始まりだ!!」
「何やってんだお前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーッ!!」
俺は、久しぶりにキレた。




