BOSS・呪闘流八極式冰種第一級呪術師ヒョウカ
俺が黄金の炎で身体を燃やすと───ヒョウカは、そっと手で制した。
「お待ちを。戦いの前に……話しておきたいことが」
「あん?」
ヒョウカは、キトリエルとサリエルを見て言う。
「この二人には一切の手を出させません。わらわだけでお相手します」
「「はぁ!?」」
「うおっ」
すると、キトリエルとサリエルが仰天……え、こいつらも知らないのか。
二人はヒョウカに詰め寄る。
「ちょちょ、何言ってんのアンタ!? アタシら呪術師捕まえに来たんっしょ!? タイマンとか聞いてねーし!!」
「そ、そうですぞ。なぜそういう『答え』になったか、説明を!!」
「うるさい……黙りなさいな。あなたたち、わらわに意見する立場にあるとでも?」
「「……」」
おお、二人が黙りこくった。
ヒョウカは、俺に指を突き付ける。
「フレア様。わらわと勝負を」
「……いいぞ」
「そして、わらわが勝ったら───……わらわを『妻』としてお迎えください!!」
「「「…………は?」」」
俺、サリエル、キトリエルはポカンとした。
そして数秒……サリエルが爆発した。
「はぁぁぁぁぁ!? ちょ、アンタ頭おかしくなったの!? つつ、妻って、妻ぁ!?」
「そうですわ。というか、うるさいですわね」
「おおお、お待ちを!! ヒョウカ様。あなた、暁の呪術師としてフレア様を捕える立場にあるのでは!? どういう『答え』を出せばこんな結論に!?」
「フレア様の拳に惚れた。それだけのことですわ」
「「えぇぇぇぇっ!?」」
つーか、やかましいな。キトリエルとサリエル。
すると、キトリエルとサリエルは一瞬で俺の元へ。
「ちょっとちょっと。アンタあいつに何したのよ!?」
「え、いや。ぶん殴っただけで……」
「うむむ。なぜこんなことに。フレア様、『答え』を教えていただきたい……!」
「俺に言われても。てか、お前らにも想定外なのか」
「そうに決まってんじゃん!! ああもう……」
頭を抱えるサリエル、キトリエル。
すると、ヒョウカは頬を染めながら言った。
「ふふ。フレア様……あなたの拳、また感じてみたいですわ。わらわが勝ったら『行為』も……いずれは『出産』も……うふふふふ」
「「「…………」」」
なんかヤバいぞこいつ。
というか、勝ったら妻にしろとか、どんな要求だよ。
俺、サリエル、キトリエルは顔を寄せた。
「おい、お前らの大将だろ。なんとかしろよ……俺、やりづらいぞ」
「それはこっちのセリフ。暁の呪術師っていうからとんでもないと思ってたのに、あれじゃタダの恋する乙女じゃん」
「いやはや、望みはフレア様ですし。ここはフレア様になんとかして頂きたい」
「えー……あ、ちょっと待て」
ヒソヒソと三人で話をして気付いた。
俺は挙手。ヒョウカに向かって言う。
「あのさ、俺が勝ったらどうする?」
「どうぞお好きに……ふふ、この身を好きにして構いませんので」
「えー……」
絶望的に興味ない。
ってか、俺を捕えるんじゃなかったのかよ。
ヒョウカは、着ていた呪道着を脱ぎ捨てる。その下には、戦闘用の呪道着を着込んでいた。長い髪を簪で結わえ、そのまま型を取る。
表情でわかる……こいつ、本気だ。
サリエルとキトリエルは顔を見合わせ、軽くため息を吐いて俺から離れた。
ヒョウカは、手を揺らりと流れるように動かし、右足を前に出す。
「呪闘流八極式冰種第一級呪術師ヒョウカ。あなたの心、頂戴致します」
相手が名乗りを上げたら返すのが流儀。
俺は先生からそう習った。
身体を軽く動かし、『甲の型』で構えを取る。
「呪闘流甲種第三級呪術師ヴァルフレア。お前を呪ってやるよ」
「ふふ。ご安心を───わらわ、すでに呪われています。恋という呪いに……♪」
「…………そ、そうか」
意味がよくわからないまま、戦いが始まった。
◇◇◇◇◇◇
冰の型。
第二地獄炎を主体とした、蹴り技に特化した型───あ、あれ?
俺は頭を押さえた。
「あれ、なんで知ってんだ?……冰の型って」
「フレア様?」
「あ、いや……たぶん、零式創世炎のせいか?」
ヒョウカを見た瞬間、冰の型について頭に浮かんだ。
第二地獄炎を脚に纏い使う、呪闘流で蹴り技に特化した『八極式』の型。だが、足技だけではない。『釵』という、簪のような二本の槍みたいな武器を扱う。
以前とは違い、ヒョウカは本気だ。
零式を使い、七種の地獄炎で翻弄することもできる……だが俺は、第一地獄炎だけで戦う。さらに魔神器も使わないことにした。
両手に紅蓮の炎を燃やすと、ヒョウカは言う。
「……黄金の炎は使いませんの?」
「ああ。お前には悪いけど、お前の技を身体で感じたい……」
「か、身体を感じたいなんて……ふふ、終わったらいっぱい愛してくださいな」
「……よくわかんねぇけどやめとく」
ヒョウカは両手に『釵』を持ち、両足を青い炎で包み込む。
これが冰の型───くそ、カッコいい。
「では───参ります!!」
ヒョウカが足を踏み出すと地面が凍り、その上を滑るようにヒョウカは向かってくる。
「冰の型、『地滑り』!!───ッシ!!」
「うおっ!?」
滑るように移動してからの、釵による刺突。
ただ滑っているだけなのに、その速さはカグヤの直線ダッシュ並みに速い。さらに、氷で空中に足場を作り、その上を舞うように飛ぶ。
上下左右、変幻自在の刺突攻撃だ。
だが───躱せる。
「流の型───」
「冰の型───」
ヒョウカの両足と釵が凍り、俺の両手が揺らめくように動く。
「『釵氷空刃』!!」
「『流転掌』!!」
凍った釵を振るうと、三又の氷が飛んでくる。
それを流転掌で流す───だが、三又氷は大量に飛んできた。さらに、ヒョウカが動き回りながら飛ばすものだから捌くのがキツイ。
流転掌で氷を叩き落していると───ヒョウカが接近してきた。
「はぁっ!!」
「うおっ!?」
急接近からの、回し蹴り。
凍った足は鋼鉄並みの硬度がある。もし直撃していたら骨が折れてた。
だが、これでわかった。
地面を凍らせ滑っての高速移動。釵と足技による攻撃が、第二地獄炎『冰の型』だ。
俺は、両手を紅蓮に燃やし───ニヤリと笑う。
ヒョウカの動きが止まり、俺と真正面から向き合った。
「楽しそうですわね」
「ああ。すっごくな」
「わかりますわ……わらわも、楽しいですから!!」
ヒョウカが地面を蹴ると、周囲に『氷の道』が大量に形成される。
その道を、ヒョウカが高速で移動していた。残像ができるくらい速い。呪力で身体強化しての移動だ……ふふふ、やっぱり強い。
「さぁ───本気で滑りますわ!!」
もはや、ヒョウカが分裂したような速度だった。
十人、二十人のヒョウカが釵に氷を纏わせて俺に向けている。
そして、全てのヒョウカが三又の氷を俺に向かって飛ばしてきた。
「冰の型『極』───『冰釵繚乱』!!」
三十以上の氷の釵が、俺に向かって同時に飛んできた。
飛んでくる速度は、カグヤの蹴りよりも速い。並の奴なら、一瞬で串刺しだ。
だが───俺には通用しない。
「甲の型『極』───『金剛夜叉』!!」
全身を一気に硬直させ硬化。
氷の釵は俺に直撃すると、一斉に砕け散った。
「っぐ……!!」
「まさか『金剛夜叉』!? しまった、フレア様は四大行の『極』が───」
俺は動いた。
ヒョウカの動きは速い。だが───もう慣れた。
氷の道は無数に伸びている。その内の一本に先回りすると、ヒョウカが正面から現れた。
「なっ」
「滅の型『極』!! 『破戒拳・烈火』!!」
燃えた拳が地面を叩き砕き、止まることのできないヒョウカは飛んできた瓦礫に直撃。全身を強く打ち吹っ飛び、地面を転がった。
冰の型。動きは速いけど、その動きを止めた瞬間を叩けばいい。
ヒョウカは、血塗れで転がり、ボロボロのまま俺を見た。
「ぅ……ま、負けました、わ」
「ああ。お前、かなり速かった……第二地獄炎で地面を凍らせて滑るなんてな。冰の型、面白そうだ」
「ふ、ふふ……わらわ、あなたに……惚れなおし、ました。フレア様、わらわを、妻に……」
「あー……妻とかよくわかんねーけど、お前話せばわかるみたいだし、いいぞ」
「え!?」
うお、ヒョウカがいきなり起き上がった。
そして、負傷を無視して俺に迫る。
「そそ、それはつまり!! わらわを妻に!?」
「いいぞ。まぁ、今は無理だけどな。先生も言ってた。『女の頼みは聞け。泣いてたら慰めてやれ。求められたら応えてやれ』って」
「ほァァァァ! やったぁぁぁぁぁ!」
「変なヤツだな……」
「あ、フレア様。お聞きしたいのですが……正妻はわらわですか?」
「セイサイ? なんだそれ?」
「フレア様はおモテになるでしょう? すでに愛する女性が何人もいるのでは? 序列的に、わらわは正妻の位置で……」
「……まぁ、うん」
なんだか面倒くさくなってきた。とりあえず適当に頷く。
というか、そんな場合じゃない。
「あ、そうだ!! ドビエルとかいう奴を止めないと!!」
「フレア様。式はいつごろ挙げます? ふふ、楽しみ……」
「とりあえず、また後でな!!」
俺はヒョウカを第四地獄炎で治療し、その場を離れた。
◇◇◇◇◇◇
「…………どうしよ?」
「うぅむ……このような結果。誰が予想したでしょうか? フレア様が出す『答え』は、小生にも予測不能……ふふ、面白い」
「…………あんた、裏切るの?」
「さぁ……ですが、小生ではフレア様に勝つのは不可能。それにサリエル殿。あなたもそうでしょう?」
「あー……まぁね。この辺が潮時かなぁ~。ウチ、あの神様どうも好きになれねーし」
「我らの創造主ですが……まぁ、あなたに同意ですな」
「とりあえず、適当にサボっていいかも。ウチらの大将も呪術師にヤラレちまったしぃ~」
「そうですな。とりあえず……お茶でもどうです?」
「ケーキある?」
「もちろん。ケーキに合う紅茶もございます」
「やりっ! あー……ヒョウカも連れてくっかぁ」
サリエル、キトリエル、ヒョウカ───【戦闘不能】




