悪意の洗礼
村に戻ると、大勢の兵士が俺とカグヤを取り囲んだ。
「は? おい、なんだこれ」
「アタシが知るわけないでしょ」
よく見ると、兵士だけじゃない。
さっき倒した神官もいるし、女神官もいた。
それだけじゃない……農具を持った住人だろうか、敵意を向ける連中も多かった。
わけわからん。せっかくダークスコーピオンを倒したのに。
「異端者め!! さっさとこの村から去れ!!」
「そうだそうだ!!」「天使様を汚す愚か者め!!」
「異端者……そういや、そんなこと言われてたな」
「特異種を嫌うんだっけ? 面倒ね……」
カグヤは面倒くさそうに周囲を見回す。
「ねぇ、プリムたちはどうする?」
「ナキもアイシェラもいるし、大丈夫とは思うけど。とりあえずダークスコーピオンのことだけ報告してみるか」
「そうね。あ、ちょうどギルド職員いるわ。おーいそこの、おーい!」
カグヤが手を振ると、ギルド職員の受付嬢さんが「ひっ」と喉を鳴らす。
武器を向けられていたので、動かずに叫んだ。
「あっちにダークスコーピオンの死骸あるから。片付けよろしくな」
「ほらどきなさいよ。蹴り殺すわよ」
「異端者!!」「出て行け!!」「村に入るな!!」
う、うるせぇな……なんだこいつら。
ダークスコーピオンを倒したのに礼もなしかい。
兵士も神官も、武器を向けるだけで特に襲い掛かってこなかった。だが、女神官は言う。
「一刻も早く出て行け。さもなくば、聖なる鉄槌が貴様らを襲うだろう」
「なんだそりゃ。わかったわかった、出てくからもう喋んなって」
「胸糞悪い村ね。ダークスコーピオンなんて放っておけばよかったわ」
そう言って、カグヤと一緒に宿へ向かった。
◇◇◇◇◇◇
宿屋の前では、何人か兵士や神官が倒れていた。
アイシェラ、ナキが前に出て、プリムが真ん中、その後ろにクロネがいる。シラヌイが全身を真っ赤に燃やして威嚇し、ブルーパンサーもバチバチ放電していた。
ああ。こりゃ何かあったわ。
「おーい。何してんだ?」
「フレア!! あの、大丈夫でしたか!?」
「お、おう。プリムたちも大丈夫か?」
近づくと、兵士と神官が俺に武器を向けた。
面倒くさい……そう思った瞬間、カグヤの蹴りが兵士一人の顎を叩き割った。
「邪魔。全員、顎ブチ砕くわよ」
「「「「「ひっ……」」」」」
兵士と神官はズリズリと離れ、そのまま逃げて行った。
カグヤは、転がった兵士を一瞥。
「ホントに何なの? こうも敵意剥き出しだなんて」
「……ホワイトパールは、特異種に対する差別が酷いところにゃん。天使崇拝国家で、聖天使教会と最も密接な関係を持つにゃん。住民も、このように天使を崇拝してる。特異種は天使を汚す存在として憎まれてるにゃん」
クロネがそう言うと、プリムは俯く。
そういや、プリムも特異種だ。いろいろあったのかねー。
アイシェラは舌打ちする。俺はアイシェラに聞いてみた。
「ッチ……相変わらずの腐敗っぷりだ」
「なぁアイシェラ。特異種差別ってそんなに酷いのか?」
「……私とお嬢様、貴様の三人で旅をしていた場所は、比較的差別の少ない場所だった。だが、本国に近ければ近い場所ほど、特異種の差別は強い」
「ふーん」
「…………シラヌイ、手伝え」
『くぅん』
ナキは余計なことを言わず、シラヌイと厩舎へ。
クロネも察したのか、宿へ入って荷物を回収した。
「買い物済ませといてよかったにゃん……」
「…………」
「お嬢様。気にすることはありません」
「うん……わかってる」
プリムは俯いたまま、ナキが運んできた馬車に乗り込んだ。
◇◇◇◇◇◇
結局、一泊もすることなく村を出た。
出発したのは夕方前だったので、ほんの数キロ進んで野営の支度をする。
テントを張り、かまどを作り、ナキとクロネが食事の支度をした。
食事を終え、全員で焚火を囲んでいると……プリムが言う。
「わたしは……この特異種の力を、ずっと秘密にしてきました」
「アイシェラ、水く「黙ってろ」……」
どうやらプリムの語りを邪魔しちゃいけないらしい。
すると、シラヌイはプリムの膝に飛び乗り甘えた。
「初めて能力を使ったのは、乳母が怪我をした時。その時、乳母は「誰にも言うな」って言って……その意味がわかって、わたしは家族にも能力のことを秘密にしてきました」
「よく隠せたわね」
「ええ。なんとか……アイシェラもいたから」
「ふ、お嬢様のためなら」
「……で? プリムの嬢ちゃん、続きを」
「はい。お父様が病気になって、次期国王の話が出始めて……お兄様やお姉さまたちが、どんどん険悪になって……わたし、怖くなったんです。もしこの能力のことが知られたら……」
すると、アイシェラが言う。
「お嬢様に国を捨てるように言ったのが私だ。王位継承権を放棄し、王族から除名、そのまま平民となり、新天地で私と愛を育むようにとな」
「愛は育んでいない。でも、国を出て正解でした」
「そこで、俺と出会ったってわけか」
「はい。おかげで、とっても楽しい旅ができました!」
プリムは笑った。
ナキは煙管を取り出し、煙草に火を点ける。
「ところで、プリムの嬢ちゃん……父親には会いたくないのか? 病気なんだろ?」
「…………わたし、末っ子でしたし。小さい頃から挨拶くらいしか。それに、十歳を超えてから殆ど会ってません。それに、お父様はわたしに冷たかったから……」
「そうかい……まぁ、別にいいが」
ナキは煙を吐きだした。
すると、カグヤが大きな欠伸をした。
「ともかくさぁ、ホワイトパール王国行くんでしょ? 王族とか関係なしに、観光して楽しみましょうよ」
「賛成。まずは、岩塩湖だな。アイシェラ、案内頼むぞ」
「貴様ら、お嬢様の話を聞いてなんとも……いやいい、お前たちには言っても無駄だな」
アイシェラは首を振って諦めたように言う……それはそれでムカつくな。
プリムは、シラヌイを撫でながら明るく言った。
「暗い話をしてごめんなさい。今は、お父様や兄弟たちに対する感情はとくにありません。一人の旅人として、ホワイトパール王国を冒険します!」
「だな。じゃあもう寝るか……カグヤ、俺と見張りだから先に寝ようぜ」
「はーい。くぁぁ~……水浴びしてから寝よっと」
「あ、わたしも」
「お嬢様の身体を洗うのはこのアイシェラで「いらない」はうっ!?」
「うち、見張りするにゃん」
「じゃあオレも。フレア、起こすからゆっくり寝な」
「ありがとな、ナキ」
プリムもいろいろ大変だけど、まずは岩塩湖を観光しますか!




