天使への祈りと特異種
俺とカグヤは、さっそく教会内へ。
教会内は広く、のどかな村に合わない豪華な作りだった。
半円形のドーム状で、中央に天使の像が安置されている。その周りに村人たちが集まり、右手を胸に当て、左手で十字を切るような動きをして祈りを捧げている。
カグヤに顔を近づけ、ボソボソ言う。
「なんかさ、ヘタに話でもしたら怒られそうだよな」
「確かにね。ってか、アタシここ嫌い」
「俺も……もう冒険者ギルド行こうぜ」
そう言って、教会から出ようとする。
すると、純白に金の刺繍が施されたローブを着た初老の女性が立ちふさがった。
いきなりでビビる。女性はめっちゃニコニコしていた。
「祈りは済ませましたか?」
「あ、いや、その」
「済ませましたか」
「えっと……ま、まだかな?」
「では旅の方。作法を教えますので、同じようにしてください」
「「は、はい」」
逆らっちゃヤバい。
俺とカグヤは同時に頷き、女性司教の言う通りにした。
「祈りを込めた右手を心臓に当て、左手で十字を切ります。この時、天使様への感謝を忘れてはいけません。いいですか?」
「「は、はい」」
「では、偉大なる『大天使ヴァラキエル』様の像の元へ」
あの銅像、ヴァラキエルっていうのか。
聖天使教会十二使徒の誰かだとは思うけど。けっこう厳ついおじさん天使だ。こういう奴がローブを脱ぐと、大抵がムキムキなんだよな。
像の前に移動し、村人たちと同じ動きで祈りを捧げる。
「聖天使に感謝を」
「「「「「聖天使に感謝を」」」」」
「うおっ……せ、せいてんしに感謝を」
「聖天使に感謝をー」
祈りを捧げると、村人や女性司教はニコニコしていた……なんか怖い。
俺とカグヤは、女性司教に頭を下げた。
「では、失礼します!」
「お邪魔しました!」
そのまま、逃げるように教会を出た。
カグヤは、胸を押さえながら言う。
「なんか、魔獣とか天使とかよりも怖いわ……あんなニコニコした笑顔、仮面かぶってるみたいでキモイ」
「わかる。ホワイトパール王国は天使を崇拝してる国、か……俺とかお前、天使をかなりブチのめしてるからヤバいよな」
「あはは。確かにね」
さて、思わぬ寄り道だった。早く冒険者ギルドへ行こう。
◇◇◇◇◇◇
冒険者ギルド内は、大勢の冒険者がいた。
こんなのどかな村にたくさんの冒険者。かなり違和感あるな。
カグヤは依頼掲示板へ。俺は受付へ行った。
「ねぇねぇ、なんか人多いけど、面白そうなことでもあった?」
「えっと、実は……近くの森に『ダークスコーピオン』が現れて……その討伐隊が結成されたんです」
「ダークスコーピオン?」
「はい。SSレートの魔獣です。本来のダークスコーピオンはA+レートなのですが、今回発見されたのは異常成長した特殊個体で、討伐に向かった上級冒険者チームが壊滅して……」
「おお。そりゃヤバい」
「つい先ほど、先発隊が出発して、ここにいるのは第二陣です」
なるほど。ダークスコーピオンか。
第一陣が出発して、第二陣がここにいる。
俺とかカグヤなら倒せると思うけど、せっかく集まった討伐隊だしな。
俺は依頼掲示板を眺めているカグヤの元へ。
「はぁ~……ろくな依頼ないわ。討伐系は一件もなし」
「そりゃ残念。他になんか面白そうなのは?」
「なーい。薬草採取でもやる?」
「ん~……やめとく」
ギルド内は人が多いだけで面白くない。
それに、なんか腹も減ってきた。
「……買い食いでもするか?」
「賛成! 小さい村だけど出店くらいあるでしょ。じゃ、アンタの奢りね!」
「なんでだよ。お前の奢りだろ? 俺、お前にかなり奢ってるんだけど」
「男のくせに細かいわね」
「お前、そういう時だけ男とか言うなよ」
カグヤと話ながらギルドの外へ。
すると、血生臭い匂いがした。
俺とカグヤは同時に匂いの方へ向く……そこには、血塗れの冒険者がいた。
「た、たす、け……」
「……っ、おい!?」
ふらりと倒れそうになる冒険者を支える俺。
カグヤはすぐにギルド内へ。
冒険者は、息も絶え絶えに言った。
「だ、ダーク、スコーピオン……ぜ、ぜん、めつ、した」
「全滅……?」
「みんな、死ん、だ……ダークスコーピオン、ここ、向かって、る」
「……おい!?」
冒険者は、ヒューヒューと呼吸が荒くなる。
傷だらけで、血を失いすぎたんだ。
俺は迷わず右手に第四地獄炎を纏う。
「第四地獄炎、『治癒炎』」
「───……っ、あ、あれ」
冒険者の怪我は一瞬で治った。
そして、ギルド内から冒険者たちとギルド職員が出てきた。
さらに、無数の視線……そこで俺は気付いた。
「ま、まさか……い、異端者!? 異端者がいるぞ!! 天使様を汚す異端者だぁぁァァァァァァ!!」
「は?」
村人の誰かが叫んだ。
すると、教会からさっきの女性司教が現れた……おい、なんで槍を持ってる。
そして、司教と似たようなローブをまとった男たちもいっぱい出てきた。
「異端者。これより裁きを始めます……」
「は? ちょ、なんだこれ?」
槍を突き付けられる俺。
助けた冒険者も離れ、ギルド職員や冒険者たちに連れて行かれた。
囲まれるのは俺……え、なにこれ?
すると、女性司教が言う。
「呪われし異端者。天使様を汚す汚らわしき者め!! その命、神に返しなさい!!」
「ちょ、どういう……」
「とぼけるな!! その身に流れているのは天使様の血!! 人間が天使様の奇跡を使うなどおこがましい!!」
「……あ、そっか。ホワイトパール王国って特異種を嫌ってるんだっけ」
「やれ!!」
女性司教が命じると、槍が一気に突き出される。
俺はしゃがんで槍を躱し、そのまま地を這うように部下の男たちに接近。
「流、滅の型『合』───『散葉舞踊』!!」
流れるような連撃を男たちに叩き込み気絶させた。
そして、女性司教の目の前に立つ。
「ひっ」
「とりあえず、後にしてくれ。さっき治した冒険者が言ってたけど、ダークスコーピオンとかいうのが村に来てる。なんとかしないと」
「い、異端者め……貴様が呼び寄せたのだろう!?」
「アホか。もういい」
すると、冒険者ギルドからカグヤが出てきた。
「フレア、ここヤバい。アンタが特異種だって一気に広まったわよ。このダークスコーピオンの騒動、アンタが呼び寄せたことになってる」
「え」
「あー……なんでこう、トラブルばかり。とりあえず、ダークスコーピオンをブチのめしに行くわよ!!」
「あ、待てよおい!!」
どこかウキウキしているカグヤは村の外へ。それを追い、俺も走り出した。
ったく……いきなりトラブルだ。やっぱり面倒なことになっちまった。




